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一つの冒険の終わり


 

 ユグドリア内にある人気のない森の中で、ローブ姿のエルスが樹の幹にもたれ掛かっている

 「……まったく、帰るは帰るで頭の痛いこった……」

 調査任務のはずが、緊急性はあったとはいえ独断で行動しガイムを失ったのだからお小言と言うレベルでは済まないだろう。 しかし、それを承知でガイムの我がままに付き合ったのだから覚悟を決めるしかない。

 彼の過去を教えられ、リティアと戦いその過去にケジメを着けたいという我がままにだ……。

 「まあ、それなりに楽しんだし良しとするかねぇ……」

 リティア達に雪辱を晴らせなかったのが心残りでもあるが、自分が負けた場合の彼女らをもう放っておいてくれという相棒の言葉を守る事にした。 それはエルス自身に対してもこれ以上は危険を冒すなという意味もあるのだと分かっているからだ。

 「……まあ、縁があったら今度こそ勝ってやるさ……」

 ありえない事だと確信しつつ言ってみたエルスは、じきに帰る事になる自分達の世界を見上げるのだった。

 


  


 

 バッシュ・ドラグナは書類にサインをしていた手を止めると、「子供って奴は大人の想像の上をいくか……」と呟いた。

 「……は?」

 書類の整理を手伝わされていた側近が首を傾げる。

 「合理的じゃねえ危なっかしい行動をしてみせてもな、結果的には丸く収めちまうって事がさ?」

 「……ソレイユのリティア・リュミエーラ姫の事ですな?」

 そのリティアは数時間前に自国へと期間の途についていた、彼女らの樹海での行動には大人としていろいろと言いたい事はあったものの、ヴァン・グドールが認めたうえでの事でもあれば結果オーライという事で良しとした。

 リティア達の行動や樹海で起きた事は、一部の者を除き極秘扱いになった。

 世界が終わるかも知れない危険にあった事などわざわざ公表するような事でもない。 本当にマナの大樹の寿命が延びたのかを証明する手段がない以上は、何の根拠もないデマが流れていらぬ混乱を起こしかねないのが大衆というものなのである。

 リティアも「みんな余計な心配をさせてもしょうがないしね」とあっさりとそれに同意したので、「だがな、公表すればお前らは世界を救った英雄だぜ?」と言ってみた。

 「あたし達が英雄になるより、みんなが安心して生きていく方がいいよ?」

 何の迷いもなく普通の事のように言ってみせたリティアに、バッシュは感心したような、呆れたような気持になったものだ。

  

 

 リティアは、ソレイユの城に戻った時には少し懐かしさを感じた。 日数で言えばこれまでも同じくらいの期間は旅に出ていた事はあったが、それだけ今回の旅は大変だったんだと改めて思う。

 アディンは真っすぐに村へと帰ろうとしたのだが、当事者としてクロウ陛下への報告も必要だろうとレイトに言われて同行している。 

 四人はすぐに謁見の間に呼ばれ、玉座に座るクロウ・リュミエーラと対面していた。 アディンのイメージより外見だったが、険しい表情は気難しそうだという印象だった。

 その隣に立っている王妃のミトラは、そんな夫を横目で見ながら少しおかしそうにしているのが気になるが、それを聞くわけにもいかない。

 「無事で戻ってなにより。 そして君がアディン・ランディール君だな?」

 「はい……」

 自国の国王に緊張で固くなった声で答えるアディン、ユグドリアのバッシュ王は気さくな人柄だったが、すべての王がそうではないだろう。

 その後、レイトがユグドリアに入ってから樹海での出来事を説明する、詳細なものではなかった、分かりやす説明だとアディンは聞いて思った。 それを最後まで黙って聞いたクロウはアディンの顔を見た

 「ふむ、そうか……君も良くやってくれたなアディン君、ソレイユの国王として感謝する」

 「……え? あ……はい……じゃなくて、え~と……」

 クロウの隣に立つミトラが、「そんなに緊張しなくてもいいのよ?」と優しくアディンに言った。

  「あなたもよ。 アディン君はリティアのお友達なんだから、そんなの堅苦しくしなくてもいいでしょう?」

 クロウは「むぅ?」と唸ったが、確かに彼を困らせても仕方ないと思った。

 「まあ……娘に接するのと同じようなもので構わんよ。 その方が話しやすかろう」

 「はい、分かりました……」

 クロウは頷くと、リティアへと顔を向けた。

 「さて、お前のしたことは立派でもあるが、世界の命運が掛かっているのに少しわがままが過ぎたのも事実だ。 何か言いたいことはあるか?」

 国民の前ともあって出来るだけ威厳を持って言ってみたが、対する娘の返事は「ん? ないよ?」と極めていつも通りの様子だった。

 「な……!?」

 「何だかんだでいつも通りにやったようなもんだしね」

 「……ですな? まあ、普段より少し厄介な事件ではありましたがな?」

 普段に比べれば敵が強力だったり助けるべき存在が桁違いに大きかったりといろいろあったものの、結果的にはそうだったようにリティアは思う。 

 「お前も少しは反省せんかレイト! 一歩間違えば世界も終わりお前達も死んでいたかも知れんのだぞっ!!」

 顔を赤くして大声を上げるクロウに対し、レイトは涼しい表情で「俺はリティア嬢の事を信頼していますので」と言ってみせるのは、アディンには不思議な光景に見えた。

 その彼に、「……まあ、いつもの事です」と小声でスレイが言う。

 「……あの……」

 遠慮がちなアディンの声に、クロウは焦った様子で咳ばらいをすると「何だね?」と問う。

 「最終的に僕もリティア姫を頼りましたし、その行動も肯定しました。 なので姫達に罰をと言うなら僕も同罪です」

 「あ……いや、別にそういうつもりはないんだが……あー何と言うべきか……」

 一般人がいるとどうにもやり辛いと感じていると、「うふふ……」とミトラが可笑しそうに笑うのが聞こえた。

 「あのね、アディン君。 この人はリティア達が心配なだけです、それにこの子達のことをあなたがどうこう言えませんよね?」

 「……国民の前で言うか……」

 恨めしそうにミトラを睨んだクロウは、次に大きくため息を吐いた。

 「……ともかくだ、リティア達はもちろん君も罰するつもりはないから安心していい。 ただな、大人というものは子供の無茶を心配もするのだよ、例え王であってもな……」

 そう言うクロウの表情は自分の父親であるオデルと同じ風に見えた、リティアもそうだが、やはり王族といえどもニンゲンなのだと改めて気が付く。 だから、「……はい」と納得したと意思表示をした。

 「お父様、ひとつ聞いていい?」

 「む? なんだ?」

 父親とアディンのやり取りにガイムの事が思い出されたリティアは、クロウにその事を話す、自分の娘が故郷の世界を救おうとした事を認められないでいた亡霊の事をだ。 

 「……そうか……そうだな、親であればその気持ちにもなろう」

 「でも、あたしにはラミナってヒトが間違っていたとは思えない、だって自分の生まれた世界で、大勢のヒトが不幸になるんだよ?」

 「ああ、お前の言う通りだ。 結果は知りようもないが、それが出来ると思えるだけの知識や能力はあっての事だろう」

 クロウにも何が正解なのかは判断する術はない、リティアが同じ事をしようとしたとしたら認めるのか、あるいは力づくでも止めるのかは自分でも分からない。 しかし、絶対に間違いないと思える事はある。

 「しかしな、親とは自分の子供と他人なら自分の子供の方が死ぬ方が悲しいし、幸せになってと願うものなのだ。 エゴなのかも知れんが、感情のものだけにどうしようもないものでもある……」

 だから、それだけは忘れないでくれと娘に言う、この先の未来にどんな選択をする時でもそれだけは忘れるなともだった。

 「うん……」

 リティアが素直に頷くのを見た後、クロウはアディンを見た。

 国民の前で王が言うべき言葉ではないだろう、それでも娘のために言うべき事だと思えたのだ。

 「クロウ陛下の言ってる事は正しいと思います、僕にはまだ難しい事ですけど……」

 「ありがとうアディン君。 そうだな、今の君達ではまだ理解しきれんないのは仕方あるまいな」

 不意にミトラがパンパンと手を叩き、「はいはい、そこまでにしましょう」と言ったのに、全員の視線が彼女に集中した。

 「みんな疲れているだろうし、アディン君だって早くご両親のところへ帰りたいはずでしょう?」

 報告の場としては頃合いだろうと判断したのだ、親子での話は後で三人ですればいい事だろう。

 「……ああ、そうだなミトラ。 全員下がっていい。 アディン君もな、馬車を手配するのでそれまでくつろいでいてくれ」

 国王の心遣いに感謝を述べるアディンは、これで本当にリティア達とお別れなんだという実感が湧いてきていた。 リティア姫だけにもう顔を合わせる機会がゼロではないだろうが、今回のように一緒に冒険をする事はないだろう。

 そう考えると、とても寂しく残念に思えてしまアディンだった。

 


 こうして、リティア達のマナの大樹への冒険は幕を閉じた……。

 しかし、まだこれからも続くリティア達の生涯が終わったわけではなく、すぐにでも次の冒険の扉が彼女らの前に現れるだろう……。


 

  


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