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ガイムとの決着



 闇のブレードが側頭部を掠めて黒い毛を舞わせるにも怯まずに剣を振るい続けるが、決め手になるような一撃は繰り出せないでいた。

 「リティア姫といいこの少年といい、この状況でよくも力を発揮してみせるものよ……」

 そのリティアが僅かな隙を突いてマナ・ツインブレードで斬り込んできたのは、ガイムは回避出来ずに左の脇腹を斬られた。

 「……ぐっ!?」

 赤い血ではなく、闇が噴き出すのを見ながら「必死になるってこういう事だよっ!!」と更に振るわれた攻撃は、今度は受け止めた。

 「必死になっても出来ない事はある! ラミナも分かっていただろうにっ!!」

 リティアを力任せに押し返し、アディンにもブレードを振るって後退させた。

 「ラミナって言った……?」

 「仲間の名前か……?」

 武器を構え直す二人は、ガイムが「娘の名だ!」と続けたのに驚く。

 「本来ならば地球から脱出するはずだったラミナは残った、どう考えても助かるはずもない地球と地球に残らざるを得ない人類を救うと言ってな! 儂にイムを……孫娘を頼むと言ってな!」

 彼が何を言っているのかを、リティアもアディンも理解出来ない。

 「だが、そのイムは地球を旅立ってすぐに病にかかり死んだ……そして、こんな年寄りが亡霊になって今も存在しているというのがなっ!!」

 憤りを感じさせる声で「笑えん!」と叫びながら斬りかかっていくガイム攻撃を、リティアは正面から受けて立った。

 「何なのよ!?」

 「命を懸けて! 娘と永遠に別れると分かって! 名も知らぬ大勢の他人の為に行動する事に意味があるのか!? イムとて死が避けられなかったとしても、せめて最後までラミナと、母親といたかっただろうにだっ!!」

 刃をぶつけ合う少女と亡霊に、アディンは援護に入るタイミングを見つけられない。

 「あんた……」

 「他人など! 滅びる定めの世界など自分を犠牲にしてでも救う価値があるのか!?」

 ガイムの気迫に圧されたか、パワー負けしたリティアがよろめき僅かな隙が生じた。

 「これで……」

 「やらせると思うなっ!!」

 文字通りの体当たりでガイムにぶつかり、そして振るったマナ・ソードがリティアの胸をブレードで貫こうとした右腕を肘から切断してみせた。

 「……ぐおっ……やってみせるかアディン・ランディール!?」

 「リティア姫はみんなの為にがんばれる人ならっ!!」

 後退するガイムにアディンが更に地を蹴って攻撃をしたのは、腕を再生する暇を与えないためだ。

 「僕らがリティア姫を助け、守る!!」

 「言ってみせるな!」

 左のブレードで攻撃を凌ぎながら言い返すガイムは、しかし右腕は再生する様子がなかった。

 「僕らか……アディンも頼もしい事を言ってくれるわね」

 嬉しさと頼もしさを感じながら、自分が次にするべき行動をリティアは考える。

 マナ・アローではガイムは倒せない。 マナ・アローを束ねた魔法であるマナ・ランスなら威力は十分だがまだコントールに難がありだった、この状況で間違ってもアディンに当ててしまったらシャレにならない。

 「……なら結局、マナ・ブレードねっ!!」

 地を蹴って跳び出したリティアは、ちょうどその時にガイムが自分に背を向ける形になった事で、振るおうとした腕を止めて彼の正面に回り込む。

 「リティアが、姫がまだ接近戦を挑むのか!?」

 「アディンががんばってるならね!」

 ガイムは、それでも二人の攻撃をどうにか捌いて見せた。

 「ガイム! お前だって家族を不幸にしたくなかったんだろ!!」

 「当然……」

 「僕もそうだ、そして同じように村の人達を不幸にしたくない!」

 「であろうな……」

 アディンの言い分は理解出来る、程度はともかく同じ村の仲間であれば大事にしたいだろう。

 「リティア姫やラミナってヒトも同じなんだよ! あんたや僕より少しだけその人数が多いだけなんだって分かれっ!!」

 言葉と共に振られたマナ・ソードがガイムの右腕を斬り飛ばし、「うごっ!?」と苦痛の声を出したガイムに、リティアがマナ・ブレードの切っ先を突き付けた……。

 


 

 訪れた静寂の中、ガイムは黙って赤毛の少女に表情のない顔を向け、アディンはその少女の左腕に静止されて剣を振り上げたまま止めていた。

 「……勝負ありだよ?」

 「……だからトドメを刺さぬというのか?」

 小馬鹿にしたようなガイムの声に対し、「これ以上戦ってもさ……」と答えた声は彼を憐れんでるようだった。

 「意味はないか……だがな、儂にとってはあるのだよ」

 リティアが何も言わないのは、続きを促しているのだ。

 「……死に損なった亡霊がな、他人の為に命を張って無茶をする子供を殺せるか……あるいは滅ぼされるかという勝負をしたいと思ったのだよ」

 地球と大勢の人々を救おうと自分の人生を捨てた娘が正しかったのか、それを間違っていると考えている自分が正しいのか知りたかったのだと、ガイムは言う。

 「そんな事が戦いで分かるわけないよ……」

 「……ああ、分かってはいるのだがな? 他に方法も思いつかんのだよ」

 リティアとラミナはまったく違うニンゲンだが、自分がしなくてもいいにも関わらず世界を救おうとしたという共通点がある。 

 ガイムは娘であるラミナを今でも大事に思っているが、彼女の行動を肯定は出来ないでもいる。 彼も人並みには知り合いも大事にもする、しかし大勢の他人の為に自分のせめてもの幸福を捨てるというのが納得いかないのだ。

 リティアも同じだ、一国の姫である少女なら自分が危険な戦いに赴く必要はない、危険な事は部下に任せて自分は王族としての仕事に忙しくも平穏に生きていてもいいはずだ。 なのにこうして自分達とも戦おうとする、他人任せに出来るはずなのに、自分が不幸になるかも知れないのにだ。

 「リティア姫よ、お主はどうして他人の為に命を懸けられる?」

 「自分が幸せでも他のヒトが不幸なのを見る嫌だからよ、そんなんで嬉しいの? だから、あたしの力でどうにか出来る範囲で何とかしてみるだけ」

 お腹を空かせて苦しんでいる人達の前で食べるパンが美味しいわけない、みんなで一緒に食べるパンの方が美味しいから何とかしようとするのだ。

 「僕にはラミナってヒトがどうしてあんた達の世界を救おうと思ったのかは分からないけど……でも、僕なら自分達がめちゃくちゃにしちゃった世界を簡単に見捨てていけるとは思えない」

 世界という規模は途方もないが、例えば自分達でリーネの村を人が住めなくしてしまったとしたら、もしも自分にそれを何とか出来るかも知れないなら……とは想像出来たのである。

 「……他者を思いやれる心と地球人としての責任感か……」

 静かに呟いた後に、「……ならば!」とガイムはブレードを振り上げ、そしてリティアに振り下ろした……。 



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