対話と戦い
一時休戦状態とはいえ、何十体という魔物とエルス・ドラゴンを前にしてはレイト達も気が抜けるものではなかった。 ヴァンも竜化こそ解いたが、油断なくエルスのから目を放しはしていない。
「……悪りいがこいつらは消せないぜ? そっちにユグドラ人がいるなら俺だって余裕はねえからな?」
軽口にも聞こえたが、エルス・ドラゴンも決して気を抜いていないのがレイトには分かる。 互いに自分の方から手を出すつもりはなくても、決して相手は信用もしていない。
「……あなた達は、月の亡霊というのはいったいどういう存在なのですか?」
スレイの問いに「……どういう意味だ?」とエルス・ドラゴン。
「過去にこの世界を滅ぼそうし、今の時代にも私達を攻撃してきました……でも、今度はその事よりも個人的な事情でリティアちゃんとの決着を望むというのは、どうにも不可解なのです」
それは物語に登場するような悪魔などとは違う。 もちろんスレイも物語と現実の違いは付いているが、月の亡霊に対してはそのようなイメージを抱いてたのだ。
実際に当初はエルスに対してそういう印象だったものが、ここにきて人間臭い一面を見せられて多少戸惑ってもいた。
「そりゃな……俺もガイムも今でこそ亡霊だが生きてる時は普通にニンゲンだったからな? ゲームとかの魔王だなんだみたいに凶悪なだけの存在じゃねえさ」
魔王もゲームとという言葉も意味は理解出来るが、魔王の出てくるゲームとは何なのかが分からない。 スレイ達にとってのゲームとはチェスとかそういうもので、そこに魔王という単語が関わる物はない。
「ニンゲン……貴様らがか……」
「そうだよユグドラ人……ヴァン・グドールだったか? 俺達は地球という惑星に住んでた……いや、お前らには世界って言った方が理解しやすいか?」
この世界の空の先にある暗黒の世界は無限に広がっていて、そこには無数の太陽や世界が存在する。 その中のひとつが自分達の世界――太陽系第三惑星の地球だと言う説明は、漠然とイメージがわく程度の理解出来ない。
「……まあ、俺の生まれた時代にはいろいろあってな……人間が生きていくに相当厳しいくらいにシッチャカメッチャかになってたんだがな?」
そこで地球を捨てて新たな居住地を探すという移民計画が実行され、エルスやガイムもそのメンバーだった。 しかし、彼はその半ばでトラブルに会い今の亡霊へと変貌した。
それから辿り着いたのはこの世界……自分達の常識では考えられない、半球体のような大地の周りを小型の太陽が周っているという、大昔の天動説のような大地だった。
「そんで、大した文明もない連中なんざ捻るのは簡単だろうってんで戦いを挑んだら返り討ちにあったってのが大昔の戦争な? 今でも諦めたわけでもねえが……まあ、下手にちょっかい出せる戦力はねえからな?」
「自分達で自分達の世界を壊した挙句に逃げ出し、俺達の世界を奪おうなどとはな……身勝手な言い分だ」
レイトの吐き捨てるような言葉に、「まあな?」とエルス・ドラゴンは肩を竦めたのには、スレイには意外に感じられた。
「……ともかくそういうわけだ。 で、今度は俺が聞きたい、お前らは何であのリティア嬢ちゃんを行かせた?」
自分達の側から言い出したとはいえ、仮にも姫の立場にある少女を無茶な戦いに行くのを認めるのが意外ではあったのだ。 実際エルスはほぼ確実に断って全員で掛かってくるだろうと予想していた。
「……ふん。 俺だって行かせたくはなかったがな……リティア嬢はきちんと分かったうえであの選択をしたのだろう……」
「そうなると止められませんよ……決して正しい選択ではありません、ですが必ずしもニンゲンとしては間違ってもいないのですから……」
それでもアディンが先に言い出さなければ自分達のどちらかは一緒に行ったのだろうと思う。 仕えるべき主君として、大事な友人としてリティアは絶対に守らなければいけない存在なのだから。
しかし、彼の行動を余計な事とも思わない。 おそらくは彼も自分達と同じような想いだったのだと分かるから、自分の暮らす国の将来の王として、ここまで一緒に旅をした仲間として守らなければいけない存在だと思ったからこそだろう。
「……難儀なもんだな、ニンゲンであるって事はよ……」
呟いてから、ならばガイムのわがままが正しいとは思えなくても、間違ってもいないと付き合った自分もまだニンゲンらしさが残っていたのかと思い付き、ありえんなと自分を嗤った。
「いつ死ぬか分からないならっ! 世界がいつか滅びるならっ!」
横薙ぎに振るわれた闇のブレードを回避したリティアは、そのブレードに自分の光の刃を叩きつけると、今度は半分くらいのとこまで食い込んだ。
「それこそ一生懸命に出来る事をするだけでしょうっ!!!!」
「……またパワーが上がっているだと……?」
ブレード化している時には痛みは感じないし、リティアが下がった後には再生されるが、次は完全に切断でもされるのかという想像にヒヤリとなる。
「ならばっ!」
左腕のブレードを瞬時に五本の鞭状へと変えたガイムは、躊躇なくそれを伸ばせば、少女の両腕と胴体を触手めいて絡めとった。
「……動けなければどんなパワーの刃でもな!」
ブレードを構えて少女の身体を引き寄せようとする、リティアはどうにか振りほどこうとするが抵抗むなしくゆっくりと引き寄せられていく。
「……ちょ……やば……」
「素直に退いていればこうはならなかったのだぞ!」
「リティア姫っ!」
触手を切断しようとしたアディンの両腕は、「マナ・ブレードならともかく、お主の剣で斬れるものではないぞ!」という言葉で止まる。 しかし、僅かな時間を置いて躊躇いの表情が自身へと変わり、「……いや、出来るって言ってる!」と振り下ろした。
そして、その言葉通りに白く発光した刀身は黒い触手達を斬り裂いた。
「……斬れただと!? 誰が言ったのだ!?」
そこから間髪入れずに地を蹴って間合いを詰め、「大樹だよ!」と振り下ろされた剣を、「大樹だと!」という驚きの声と共にブレードで受けるガイム。
「声が聞こえた! 僕に力を貸してくれるっていう大樹の声がっ!!」
先ほど頭に響いた声は、かつて森の中で種子を介して聞いた声だった。 ならば信じる事に迷いはなかった。
「……アディンの剣にマナが宿って……マナ・ソード……?」
その直後にガイムの左の腕が再生し再びブレードを形成したのに、リティアはギョッとなって駆け出そうとして、アディンがそのブレードにも対処出来ているの見て足を止めた。
「……この力はマナの武器だけではない……!?」
「今は僕しかリティア姫を守れないならっ!!」
「その気迫がっ!?」
リティア姫を守らなければいけないという意思がこの少年に実力以上のものを発揮させているという事は、ガイムにも理解出来た。 年老いて亡霊となった今のガイムにはないものであっても、自分にもそんな年頃もあったと思い出された。
「……命ある存在の力……若さゆえの意志の強さか……」




