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対話


  

 樹海には道らしい道もなく、リティア達はもちろんヴァンでも歩くのに一苦労というありさまで、思うようにペースが上げられなかった。 

 しかし、野宿に手頃な場所を見つけた時、まだ空も明るかったがリティアはそこで一夜を明かすこと決めた。

 「……しかし、もう少し進もうと思えば進めたはずですが……?」

 鍋を乗せた携帯用のコンロの火加減を見ているスレイの様子を眺めていたヴァンが言うのに、「急ぎ過ぎてもいい結果にはならないわ」と迷いない顔で返した。

 そこへ周囲の様子を見回って来たアディンとレイトが戻って来て、小動物くらいはいたが特に危険そうな動物はいないようだと報告した。

 「……とはいえ、夜にならないと動き出さない動物もいるだろうし、油断は出来んだろうがな?」

 「ですね、見張りはいつも通りで行きましょう」

 レイトの意見にアディンが同意すると、リティアも「そうだね」と頷く。

 「……ずいぶんと旅慣れした動きが出来る姫様達か……何事も経験がものを言うという事か……」

 子供達の手際の良さに感心していたヴァンは、リティアが不意に空を見上げたのに釣られて自分も見上げれば高くそびえる木々の隙間から覗く青い空を一羽の黒い鳥が降下してくるのが見えた。

 鳥はリティアの目の前に着陸すると、立ち上がり身構える彼女を見上げる。 その動きにスレイが素早くコンロの火を止めれば、剣士組も剣を抜き構えた。

 「……何事だ?」

 一人訳が分からないヴァンは、「……エルス?……いえ、その気配はガイムの方?」という少女の言葉にギョッとなり、「ガイム……月の亡霊かっ!?」と叫ぶと共に立ち上がった。

 「気配で私だと分かるとは……どこまで勘が良い娘なのか……」

 感心した声と共にガイム・バードは翼を広げると真上に立ててみせた、人間でいえば両手を上げた降参のポーズだと分かる。 なので「ならば!」と斬りかかろうとしたヴァンをリティアは手で制した。

 「……リティア姫様!?」

 「慌てちゃダメ、今のガイムに戦う意思はないみたい……」

 「しかし!」

 言い募るヴァンにリティアは命令する権限はない、だから「待って、お願いだから……」と頭を下げた。 更に「戦いとはルールのない殺戮ではなうでしょうヴァン殿」とレイトも言ってくる。

 「ガイムは戦う意思のないという事を示してきました、おそらくは何か話があって来た……いわば使者でしょう」

 「……ですね、ユグドリアのヒトだって敵の使者にいきなり攻撃なんて出来ないでしょう?」

 やって来たスレイと、彼女に続きアディンまでそう言ってくれば彼も問答無用で斬りかかってもいけなかった。

 「なんとものぉ……私はお主らの世界のルールなど知らんと言える月の亡霊なのだぞ? 騙しているとか罠とかってのも考えぬか……?」

 すっかり呆れた風なガイム・バードの口調に、「自分で言っちゃうんだ……」とリティアが苦笑いした。

 「敵でも心配になるくらい人が良過ぎるのだよリティア姫……せめて魔法を撃つ準備なりブレードを展開するなりはせんか……」

 それは敵からの警告というよりも、父であるクロウに小言を言われているかのような感覚に思えたのは、リティアには不思議だった。

 「……まあ、いい。 私の要件だが、簡単に言えばお主らに諦めるよう最後の警告に来たのだ」

 これまでは問答無用でこちらを倒そうとしてきたのに、どういう風の吹き回しだとリティアらは首を傾げる。

 「エルスはすでにマナの大樹の元にいる……キュラッソとかいうユグドラ人の身体を得てな?」

 どういう経緯で死んだかは分からないが偶然発見した遺体……というか、遺体になりかけていたと言うべきかガイムは説明した。 こちらが何者かが分かっていたかは不明だが、問いかけてそう名乗り、直後に死んだのだと。

 「……キュラッソ……?」

 どこかで聞いた名前だと思ったが、思い出せないヴァンだ。

 「……どうやら、そっちにもユグドラ人がいるようだが……こっちはこっちで死骸があれば魔物を創り出せる……」

 だから勝ち目がないわけではないと言うとかと思ったが、ガイムは不敵な笑みを浮かべ、「つまりだ、お主だけを殺そうとするのも不可能でもないわけだ?」と言う視線の先にはアディンの姿があった。

 「……成程、そう来るか……」

 咄嗟にアディンを庇うように前に出るレイトにしてみれば、予想の範疇ではあった。

 「……とはいえだ。 お主を殺してマナの種子を破壊出来たとしても、何もその瞬間に大樹が滅ぶわけではない。 どのみち寿命が尽きるまではこの世界は存続し続けるであろうな?」

 それが今日明日という事はないだろうとガイムは言う。 少なくとも十年や二十年の猶予はあるだろうさというのが自分達の見立てだ、つまりは自分達と戦って死ねばそこまでだが引き返せばそのくらいは生きられるし、そもそも天寿をきちんと全うできる可能性も十分にあるはずだと言ってくる。

 「何もなくてもいつかは死ぬお主達にしてみたらそれが十年後だろうが百年後だろうが同じではないか? こんなところで命を張る理由になるのか?」

 リティアは思う、確かに世界が滅びなくても自分が十年後にも生きている保証なんてありはしない。 だからと言って今ここで死んでもいいかというとそんな事はない、色々理由はあるがもっとたくさん生きていたい。

 「自分が死んで世界だけが残って、それはお主らに意味がある行為なのか?」

 戦いで死ぬとは限らないが、逆に生き残れる保証もない。

 「笑止! 大樹と世界を守るのが我らが使命、その為に命を惜しむものか!」

 これ以上は我慢しきれないという風にヴァンが吠えるが、ガイムはそれを鼻で笑う。

 「その使命をお主は子供にも押し付けるか? それとも他人の子供であればそういう事も出来ようというものなのか? 死んでも構わんと言えるかユグドラ人!」

 「貴様……!?」

 ヴァンはリティア達が死んでもいいとは考えてはいなかったが、同時に姫のリティアであってもユグドラ人の理由を押し付けていいものではないの事実だった。

 「……あたしも死にたくないし、幸せになりたいよ? だけどね、今の自分だけが幸せならそれで良いっていうも違うと思う」

 もしも自分が死ぬまでに世界が滅ばなかったとして、ではその後はどうなのか? 今の自分が幸せに生きるためになら、この先に生まれてくる命達は不幸になっていいはずはないはずだ。

 「そうですね、僕は自警団です。 そして自警団の仕事は村を守る事、それは今だけではなく未来も含めてです!」

 五十年後、百年後にリーネの村がどんな形で存在するかは分からない。 しかし、アディンが戦うという事はその未来を守る事にもなるのだ、そのために命を掛けれないないなら何に掛けろというのか。

 「俺はそこまで善人ではないがな? だが、リティア嬢が守りたい未来があるというなら守ってみせよう……俺にとっては十分に命を懸けるに値する理由だ!」

 仕えるべき主君として、それ以前に友人として彼女の為に剣を振るうのだとレイトは決めている。

 「私はリティアちゃんに戦ってほしいなんて思いませんが……私が望むのはリティアちゃんが戦わない・・・・世界なんかじゃないんです……戦わないで済む・・・・・・・世界なんです」

 スレイは困っている人がいたら手を差し伸べるリティアだから好きなのだ。

 もしも世界中からリティアの力を必要とするくらいに困る者がいなくなれば、彼女も戦う必要がなくなる、スレイの望むのはそういう世界なのだ。

 「……それがお主たちの理由か……ならば決着を着ける以外にはあるまいな?」

 その言葉にアディン達は身構えるが、リティアだけは一歩前へ進み出て「……どうしても?」と問う。 この期に及んでも戦いを躊躇うのを愚かとはガイムは思わない。

 「どうしてもだな……言っておくが儂はお主たちを憎んで殺したいわけではない、しかし始めてしまった事には決着を着けねば気が済まんのだよ」

 そのガイムの理由は自分達の理由にも似ていると感じた、自分達とて同じような気持ちでこの場にいるのだ。 そのリティアの目の前でガイム・バードは大きく翼を広げた。

 「ならばこそ、我らはマナの大樹の前で待つ。 決着の場所として一番ふさわしかろう……」

 ゆっくりと飛び立っていくガイム・バードの姿を、リティアは何をする事もなく見送った……。


  

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