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フェファニルの町


 ユグドリアとの国境近く、まだ少しソレイユ側にある林の中でエルスとガイムが身を潜めていた。

 「……調子はどうだエルス?」

 フードを纏った本体の姿となったガイムが問う相手は、地面に横たわる鳥であるが、もちろんただの鳥ではなくエルスが中に入っている。

 「多少は回復したが……まだまともに戦えはしねえな」

 マナのあふれるこの世界の上では、激しく傷ついた状態では死体の中にいた方が安全なのである。 もっとも、瀕死からここまで持ち直したというのも幸運な事であるとはいえた。

 「まあ、助かっただけでも幸運と思うしかあるまい」

 気遣ってくれていると分かる口調だったが、エルスは面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 「……で? これからどうするんだよ? 連中はもうユグドリアに入っちまっただろう?」

 「であろうな……流石にこれ以上の深追いは危険過ぎるな?」

 流石のエルスも今度ばかりは反対しようもなかった、ユグドリアの国内でリティア達を襲撃すれば、いくらなんでもユグドラ人が黙ってはいないだろう。

 「船に連絡を取り援軍を送ってもらえれば、あるいはまだ手段はあるやも知れんが……」

 「そりゃ無理だろ? この世界はあの大樹が張ったバリアのせいで直接は降りれねえから転送装置を使うしかねえが、その転送装置は馬鹿みたいにエネルギーは食う上に、もう数もすくねえからな」

 マナの大樹の張ったバリアは、暗黒の世界――宇宙空間を漂う隕石すら弾き返すのである。 そのために、船に装備されている惑星上陸用の転送装置を使うしかなかった。

 その装置も、かつての戦争の頃はまだともかく、今となっては大半が寿命で機能停止してしまっているのだ。 十分とも言える数を送ってもらおうとしても時間がかかり祖の間にリティア達はマナの大樹へと辿り着くだろう、さりとて不十分な戦力で無理強いしても成功の確率は低い。

 ついでに言えば、彼ら亡霊は永遠に存在出来るのだが、その代わりに命ある存在と違って子孫を残す事が出来ないのだ。 人格的は生前と変わらず、男は男で女は女なのだが両者の間に恋愛の感情は存在しない。

 つまり、戦いによって亡霊の数が減る事があっても、決して増える事はないのだ。

 「……そういう事だな……が、もしも本当にマナの大樹が滅びるというならな、我らにとっては二度とないチャンスであろうな。 故郷を捨て放浪の身となった我らの新たな大地とするためのな?」

 マナの大樹を失ったこの世界は、ニンゲンや動物はもちろんの事、植物すら存在しない死の大地となるだろう。 それは船の中で暮らしている今とどう違いのかはガイムには分からない。

 理屈ではそう考えられるのだが、大地というものを求める欲求のようなものに本能的に抗えない部分もあるのまた事実であった。 あるいは、自分達という存在は命ある者達の存在を許せないのかも知れない。

 「ガイム……? あんたは……?」

 エルスの声には明らかな困惑があった、慎重なガイムから跳び出す言葉ではないと思えたのである。

 「ユグドラ人を倒す必要はない、それどころかリティア姫達を倒す事すらな。 あのアディンという少年だけを殺しマナの種子を奪うなり破壊するなりするだけでよい、そしてその為にこのガイムが滅んだとしてもな?」

 「おいおいおい……」

 「当初とはずいぶん違ってきたがな。 このガイム、与えられた任務に対しどんな形であってもケジメは付けてみせよう」

 何なのだ?とエルスは疑問に思う、そもそもガイムはこの任務に積極的とは見えていなかったのに、ここにきてこういう事を言い出すのが不自然に感じる。 この世界のニンゲンからすれば邪悪な月の亡霊であっても、決して悪魔ではないと思っている。

 確かに悪人と呼んだ方がいい者もいるが気の良い奴も大勢いる、ガイムはエルスからすれば後者だと思っていた。 

 「何で……?」

 「……ん? そうだな……何の因果か永遠の余生を手に入れてしまったこの年よりがな? 我らが勝つかこの世界のニンゲンが勝つかの勝負をしてみるというのも面白いと思っただけの事よ……」

 荒廃した故郷を捨て脱出した移民者が命を失い亡霊となった事故の時、ガイムはすでに余命いくばくもないくらいに老人だったと聞いた事があったのを思い出す。 亡霊となっては若者も老人もないのだが、人格や考え方のようなものは生前のものを引き継ぎ、そして命ある者でないからか、どれだけの時間を絶とうとほとんど変化しない。

 「やれやれ……止めても無駄そうだな?」

 「ああ、こう見えてもな? 私はかなりの頑固爺だったのだよ」

 


 

 フェファニルは高い壁に囲まれた城塞都市だ、これはもしもソレイユ国が攻め込んでいた時の防衛拠点とするためで、それなりの戦力も駐留させている。 

 しかし、それはあくまで大樹を守護する国としての責務としての備えであり、ソレイユを始めとる諸国が戦争を仕掛けてくるという疑念からではない。 そのため城門には見張りの兵士はいるものの、平時であれば誰でも自由に出入りは出来る、よほど怪しく見えない限りは兵士にチェックを受ける事もない。

 しかし、四人組の子供がロープでグルグル巻きにされた七人ものユグドラ人を引き連れて現るのは、どう考えてもそのよほど怪しい範疇である。

 「……何だと? ソレイユのリティア姫と言ったか?」

 執務室で報告を受けた領主のクアン・タムバストは最初は聞き間違いかと思ったのは、何をどうしたら隣国の姫がそういう状況で現れるのかがまったく理解出来ない。

 外見的には六十くらいなクアンは、しかし実際にはその倍以上は生きている。

 「……はい、どうやら偶発的に遭遇した野盗を捕らえたようです」

 「まぁ……仮も一国の姫が一般市民に暴行を加えるはずもないが……しかし、野盗か、報告にあった連中なのか……?」

 小物と判断して対応は部下任せにはしていたが、普通の人間であれば戦士であったとしても、数の差があっての生け捕りは困難なはずだ。 リティア・リュミエーラ姫と言えばお転婆という噂くらいは聞いてはいても、こういう事をやってみせるというのは想像はしていなかった。

 「……ほう? 面白そうな話をしているな?」

 扉の向こうから聞こえた声にクアンと部下がギョッとなると同時に扉が開くと、三十代前半位に見える金髪の男性が入ってきた。 鎧こそ身に着けていないが動きやすそうな厚手の服に剣まで携え現れた男性に対し「……盗み聞きですか、バッシュ陛下……」と名を呼んだ。

 バッシュ・ドラグナ、このユグドリアの王である彼がここにいるのは不思議でもないのは、現在はこの町に視察で滞在しているからである。 しかし、すべてのスケジュールを終わらせたタイミングでこういう格好をしているのは、王都に帰還しようというのではない。

 「視察ついでに最近出没している野盗を退治してやろうかと思ったら先を越されたか?」

 愉快そうに笑う主君に対し、クアンは「そうですな……」と大きな溜息を吐いた。

 「……そういう事を我が陛下もやっていれば、他国に似たような者がいないとも限らないですな……」

 「そんな事はいい、問題はソレイユのリティア・リュミエーラがどうしてこの国にやって来たかだな? わざわざ俺の獲物を横取りにユグドリアまではやって来ないだろ?」

 冗談めいた言い方に「……そうでしょうな」とクアン。

 「まあ、それは本人聞けばいい事だがな?」

 つまりは、今は兵士の駐留所で待機してもらっているリティア達をここに呼べという事だ。

 そこへ「あの……その事なのですが……」と遠慮がちに部下が言う。

 「どうやらリティア姫様はバッシュ陛下にお会いするために王都バハムトに向かっている途中だとの事で……」

 「ほう? 俺が偶々視察に来ていたフェファニルにだ、俺に用があるっていうリティアがやって来るか? こういう妙な巡り合わせなら只事ってわけでもないかもな?」

 

   


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