ユグドラ人
国境を越えてユグドリア国内へと入ってすぐに、リティア達の前に立ちはだかった七人ほどの中年の男達は、「嬢ちゃん達、命が惜しかったら大人しく金目の物を置いていきな?」という脅し文句を聞くまでもなく野盗であると分かる。
ただし、彼らの額からは人間にはありえないはずの角が一本、あるいは二本伸びているのは、この国に住む者達の一般的な特徴であった。
「ユグドラ人でも野盗っているんですか……」
「ドラゴンの力を持つユグドラ人とてニンゲンならばな、ニンゲンのやる事にそう違いもないという事だ、アディンよ」
答えながら剣を抜き、前に進み出るレイトを「ちょい待った!」とリティアが止めた。
「あたしの名はリティア・リュミエーラ、隣国ソレイユの姫よ。 そのあたし達に手を出す事の意味を分かる?」
野盗達の顔をしっかりと見据えながら名乗るのは、野盗とはいえユグドラ人との戦いは避けようという判断であった。 しかし、野盗達は一瞬だけキョトンとなったものの、すぐに馬鹿にしたように一斉に笑い出した。
「笑わせやがるな! 一国の姫さんがこんなところを徒歩で旅してるわけねえだろうがっ!! このウーマ・イロッド様がそんな子供だましのはったりに引っかかるとでも思ったかっ!!」
ウーマの返答にムッとしたのも一瞬の事、「そうくるならねぇ~!」と勢いよく大地を蹴ったリティアである。
「ちょっ!? ユグドラ人七人に一人でってっ!!?」
驚きに声を上げるスレイは、そのリティアに対し野盗の全員が跳び出したのに、「……あっちはあっちで女の子一人に七人がかりっ!?」と更に叫んだ。
「ドラゴンはゴブリンを倒すにも全力を尽くすって言うだろっ!!!!」
ウーマが言い返す間に、彼の仲間達は左右に展開しリティアを包囲しようとするが、それには構わず前進を続けた。
「度胸はあっても!」
「勢いだけで勝てるかよっ!」
野盗のチュッパーとチャプスがその背後に斬りかかろうとする刹那、「……少数を多数で包囲は正しい戦術!」という少年のわざとらしく恰好を付けた声に、すばやく振り返った。
しかし、レイトが剣を振るう方が早く、「だが! 我らが黙ってみてると思うか!」という声と共に斬撃が二人の胴体に叩きつけられた。
同じタイミングで、アディンもまた「その言葉は使い方が違うだろっ!!」とトンガとリーコンに剣を振るっていた。
残ったチューイン・ガムとフセン・ガムはレイトとアディンにそれそれ別れようとしたところを、「アディン君の言う通りですっ!」という少女の言葉を聞いたと同時に光の矢に肩を撃ち抜かれた。
「その言葉はどんな相手にも油断してダメですという意味であって、弱い者いじめをしていいというものではありませんっ!!」
マナ・アローを撃った後にスレイが言い放ったのに続き、「そんなの大人のする事じゃないでしょっ!!」とリティアはウーマの身長を超えるジャンプ力を発揮した。
「この高さは魔法の力かっ!」
丈の短いスカート姿のリティアが躊躇なくウーマ目掛けて急降下キックを仕掛けられるのは、スパッツもしっかりと身に着けているからだ。 そのリティアの攻撃にウーマは回避ではなく自分の大剣を前に出した。
「大人だからだっ!!」
「……なにお~!」
刀身と靴がぶつかる同時に大剣が振るわれれば、小柄なリティアの身体は跳ばされるものの何とか転倒せずに着地して見せた。
「大人ってのは賢いんだよ、お前達みたいな子供と違ってなっ!!」
そこへ追撃の攻撃が振り下ろされたのを、リティアはマナ・ツインブレードを展開しそれを交差させて受け止めた。
「弱い者いじめする大人のどこか頭が良いのよっ!!」
「賢いから自分より強い奴とは戦わないんだよ! 負けたり失敗しない生き方が出来るんだよっ!!」
ウーマもパワーは魔法で強化されていたリティアのそれを上回っていた、生まれながらにドラゴンの力を持っているユグドラ人は潜在的な身体能力がリティア達とは根本から違うのである。
なので無理せずに後ろへ跳ぶと、そこへ左右から迫っていたチューインとフセンの間をすり抜けて入れ替わるような動きになった。 そんな幸運に「……あれ? いいタイミングだった?」と感心しながら、もう一度バック・ステップしレイト達と合流する。
二人と剣を交えていた四人もいったん下がり反転したチューイン達と並ぶ、みねうちだったとはいえ並みの野盗なら一撃で気絶させられるレイト達の剣撃を受けて平然としているのには、リティアも驚く。
「……話で聞いてた通りねぇ……ユグドリアのヒト達って頑丈だねぇ……」
「剣の腕なら俺の方が上なのだがな……倒すなら殺すつもりでいかないと少し厳しいな?」
本音を漏らしたというよりはリティアに対する問いかけだ、しかも答など分かり切っている問いかけである。
「ダメだよレイト、ヒトを殺すなら……」
咎める顔をレイトに向けた後に、今度はウーマを見据えると、「はん! 自分が死んだ方がましって子供の偽善か!?」と言ってきたのに、リティアはにやりと笑みを見せた。




