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不安


  ユグドリアとの国境まであと半日くらいのところまで来たリティア達は、手頃な場所を見つけたので夕食を済ませて休憩を取っていた。 

 「う~ん……もうこのまま一気に行っちゃた方が良いんじゃない?」

 シートを綺麗に畳んでエプロンのポッケに仕舞うスレイを眺めながらリティアがいう。 今日はもうこの場所で野宿なのだが、このまま夜通し歩いて国境まで行ってしまった方がいいと思えたのだ。

 「……そうですね、ユグドリアまで後少しならそれも手だと思います」

 明らかに入るはずのない大きさの物がポケットに入るのが、魔法の仕業という光景に慣れてきたアディンがリティアに同意する。 

 「リティアちゃんもアディン君も焦らないの、私達のゴールはユグドリアの国境を超える事じゃなくてマナの大樹の下なのよ」

 アディンに答えたスレイは、最後の方でレイトを見やるのに、彼は「……うむ」と頷いて見せた。

 「国境を越えればすぐに町がありユグドリアの兵士も駐留している、無事に辿り着ければ安全であろう。 しかし、夜通しの強行軍とて危険には危険だし、寝不足で疲労した状態で襲われたら勝てるもの勝てんさ」

 レイトの言う言葉の意味はリティアにもわかる。エルスの強さはこれまで戦ってきた獣や人間の悪党を遥かに上回っている、ひょっとしたらリザードラゴンより厄介かも知れない。

 「それに奴一人だけとは限るまい、他に仲間がいて先回りしているやも知れぬ」

 月の亡霊が集団で襲って来るという想像は、リティアをゾッとさせた。 同時に敵がエルス一人だと勝手に思い込んでいた自身の迂闊さもだ

 「つまりはエルスとの遭遇を回避する事ではなく、遭遇した時にいかに万全状態である事に労力を使うという事ですねレイト君?」

 そのスレイに「そういう事だ」と頷いた後に、今度はリティアとアディンに顔を向けると、「何か問題はあるかな?」と少し挑発的とも見える表情で問う。

 それに対しアディンは「……ま、間違ってはいないと思いますが……」と困惑気味に答えたが、リティアは少し考えこむ。

 レイトは自分よりも頭も良く、スレイも自分よりよほどしっかりしている。 おそらくは二人に言う通りにしていれば間違う事はないのだろうが、それではダメなのだと教わったのは、クロウからだったのかそれともアクアだったのかは思い出せない。

 自分でもきちんと考えて判断し、その決定に責任をちゃんとも持つ事が大事なのだと教えてくれたし、リティア自身もその通りだと思う。 もっとも、それはリティアなりはという言葉が頭に付くのではあるが。

 それでもいつもは簡単に答えが出せるのに、今に限ってはどうにも答えが出てこない。 しかも、それがどうしてなのかすらも分からないのだ。

 「…………リティアちゃん?」

 「……ん? スレイ?」

 不意のメイドの少女の声に現実に引き戻された。

 「リティア嬢にしては長く考え込んでいたようだが。 答えが出ないならすでに決めた通りにすればいいと思うぞ?」

 「そうですね。 もしもに備えて休息をとるべく動かないか、考え込んで動けないでいるか……どっちもやってる事はたいして違いませんよ?」

 そうなのかな?と思うと、「でも……」と彼女は言葉を続ける。

 「前者の方が少しは前向きな気がしませんか?」

 優しく笑う年下の少女の笑顔は、リティアには”お姉さん”に視えた。

 その事は友人として頼もしくも思えたが、それ以外にも何かもやもやした気持ちを感じて、「うん、そうだね……」とややあいまいに答えていた。。

 


 毎晩同じ形を見せる月が光る空の下、マナをエネルギーとしたランタンを挟み、見つけてきた手頃な石に腰かけてるの見張りを交代したばかりのアディンとスレイだ。

 「……不安なんだね、アディン君」

 俯い気味で暗い表情にそんな事を言ってみると、「……そうですね、少し……いえ、かなり不安ですよ」と素直に認めた。

 「正直なのは良い事よ。 それにマナの大樹だの世界を救うだの、挙句には月の亡霊だもんね、これで不安にならないニンゲンなんてきっといないわ」

 「スレイさんやレイトさんもですか?」

 その問いに「もちろんですよ?」と答えると、アディンは意外そうな顔になった。

 「うふふふふ。 私やレイト君、それにリティアちゃんだって人間なんですよ? まあ、あなたよりは危険事に慣れてはいるかも知れませんけどね」

 自分より年下の少女は、しかし不安などまったく感じていないかのように笑う。

 「それでも、今回は本当にとんでもない事になったと思います」

 「逃げようとか思わないんですか……その、僕は完全に巻き来れちゃった感じで今更やめれないし、リティア姫は王族だし、レイトさんは姫に仕える剣士です……」

 「……私は従者と言ってもメイドだから?」

  アディンは頷く。 確かに彼女は並大抵の戦士よりよほど強いとは思う、しかしあえて戦いに身を投じる必要はないはずだった。

 「……私がメイドなのはお母様がメイドだったから……それだけの理由なんです」

 だったらなおさらだと思う、それならスレイは成行きでリティアに仕えているだけなのだから。

 「でも、出会いやきっかけが成行きだったとしても、リティアちゃんの友達になろうって決めたのは私自身の意志なんですよ。 お仕事がメイドでも剣士だとしても、私はリティアちゃんの傍で自分が出来る事をするだけです」

 互いの立場もあれば、一般人の友達という感覚とは違うものだろうとは思う。 それでも、自分は将来は女王となるリティアの従者にして、彼女の友達であろうと思う。

 「ねえ、アディン君。 一般市民のあなたのお願いする事ではないのかも知れないけど……あなたもリティアちゃんの力になって助けてあげてほしい」

 「僕が……リティア姫の? それって逆じゃないんですか? 僕なんてたいして役に立ってないし……」

 彼女らにどうにか付いていけてるのは我ながらよくできているとは思うが、それだけなのだ。 リザードラゴンにしろエルスにしろ自分がいなくても勝てていたとは本心から思う。

 「リティアちゃんもね、こんなことになっていろいろ悩んでると思うの。 これまでも何だかんだ大変だったけど、私達三人や、時には少しだけクロウ陛下達のお力とかもお借りして何とか出来ることばっかりだったから……」

 出来る事だけを選んでやってきたわけではない。無論、本当に無茶な事は極力自分やレイトが止めてきたのはあるが、それでも大抵の事を何とかする力がリティアや自分達にはあったのだ。

 だからリティアはまだ知らないのだと思う。 自分では超えられない壁がこの世界に存在する事でなく、そんな壁が目の前に現れたら時の対処の仕方をだ。

 普段であればそのまま野宿にせよ、夜通しの強行軍にせよその場ですぐに決めていたはずだ、それが出来なかったという事は彼女も迷っているにだとスレイは考えている。

 そう聞かされても、「……そうなんですか……」とだけ答えるのが今のアディンの精一杯だった。

 「あはははは……一番の年下が偉そうに言うような事でもないんですけね」

 実際のところ、この数日レイトといろいろと話をして考えた事なんですけどねと、少しの間苦笑を浮かべたスレイだった、次の瞬間には眼鏡ガラス越しに見える瞳が真摯なものへと変わった。

 「アディン君はアディン君で大変なのは分かっています……でも、リティアちゃんはあなたやこの国のヒト達が噂で言う程に強くはないんです。 だからアディン君の出来る事、出来る範囲内でリティアちゃんを支えてほしいんですよ」

 アディンは考える、確かにリティアは自分の思っていたような王族は違った。しかし、それが自分が王族というものを知らずに勝手に思い描いていたイメージとだったのいうような気がしてきた。

 善人もいれば悪人もいる、優れた者もいれば無能な者もいるのはどんな職業のヒトでもいっしょなのだ。 王族や国も政治に関わるものとて特別な存在ではなく同じニンゲンなのだろう。

 自分とリティアもそうだ。 しかし、これまでは自分はリーネの村だけを守っていればよかったが、同じ年頃ながら彼女はこの国に生きる人々を守ろうとしてきた。

 そうしなければ行けない立場だったし、そう出来てしまう力があったからだ。

 そして今は本当に世界の運命を背負っているのだ、実際にマナの種子を持ち世界の命運にかかわっているのは自分だが、実際に自分だけの力では何もできていない。 リティア達と出会いようやくマナの大樹へ行く手段を得て、月の亡霊という危険極まりない相手を何とか退けた。

 ならば、そのリティアのために出来る事をするというのなら当たり前の事だと思う。

 「……分かりました。 僕に何が出来るかは分かりませんけど、やれる事があるならやると約束します」

 スレイの目をしっかりと見ながら答えると、「うん、ありがとうアディン君」と微笑みを返されて少し照れた。 すると、不意に顔を別の方向へ向けたので思わずそちらを見てみれば、毛布に包まって眠るレイトがいた。

 「……スレイさん?」

 怪訝な顔になるアディンに、「うふふふふ、何でしょうねぇ?」と悪戯っぽく笑ってみせるスレイであった。

 

 



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