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ツイン・ブレード


しかし、リティアは「……っと思うでしょっ!!」と悪戯っぽい笑いを見せてきた。

 拳を握りしめた左腕を前に出すと、そこの拘束されている右腕と同様の光の刃が出現したのである。

 「な……!?」

 「そっちが二刀流なら、こっちはツイン・ブレード……マナ・ツイン・ブレードだよっ!!」

 自慢げに言うと同時に振るわれたブレードは、アディンが斬れなかった影の触手を簡単に斬り裂いてみせたのに、「ツイン・ブレードだと!? 斬り裂いただとっ!!?」と驚いたのはエルスだけではない。

 アディンやレイト達も同様であったが、更には「勢いでやってみるもんねぇ!」と言いつつ地を蹴るリティア本人もそうだったようだ。 そのリティアに横薙ぎにブレードを振るって威嚇するとエルスは大きく後ろへ跳んだ。

 「マナ・ツイン・ブレード……そうかマナで創られたブレードであればっ!」

 マナは自分達の身体を構成する暗黒物質を侵食し消失させる。 大気中に自然に漂っている分なら短時間でどうなるというものでもないのだが、この少女のブレードがマナを集めて圧縮したようなものなら理解出来る話であった。

 それでもすぐに再生した指をすぐさまブレード化し勢いよく振るわれるツイン・ブレードに対処するエルスである。

 「この俺が押されるかっ!?」

 「あんたにマナの種子は渡せないからねっ!」

 勢いよく突き出された光のブレードがフードの左部分を僅かに斬り裂くが、反撃に振られた一撃がリティアの頬を掠めて赤い筋を作っても、彼女は怯むことなく攻撃を続ける。

 「ほう? 何故だ?」

 「言うと思う?」

 「だろうがな!」

 流石に勢いで口を滑れさせるような単純な娘ではないかと思いつつブレードを振るうエルスは、どうしたものかと考え始める。 目的としては情報を得る事ではあるが、このまま全員始末してしまう方が手っ取り早いかも知れない。

 マナの種子やこのニンゲン達の目的が何であれ、ここで彼女らを闇に葬ってしまえばすべては無意味になるであろう。 しかし、その思考は不意に襲ってきた激しい痛みに中断させられた。

 スレイの放ったマナ・アローが腹部を直撃したのである。 大気中を漂う程度の物ならば防げても、攻撃魔法としての性質を持つまでに集中させたマナのエネルギーを防げはしない。

 「うぐおぉぉおおおっ!!?」

 エルスに表情はなくとも声だけでその苦痛が伝わってきて、「直撃にしても痛がり過ぎ!?」と驚くスレイの視界では、「ナイス援護だよ、スレイ!」と赤毛の姫が突撃していく。

 「ユグドラ人でないただの人間に俺が……」

 左腕での攻撃を回避し「追い詰められるのかよっ!?」いら立ちの声を出す、間髪入れず右のブレードが横薙ぎに振られたのは躱せず、胸のあたりを斬り裂かれた。

 「うごっ!?」

 「そうやって相手を見下してればね!!」

 ブレードどうしがぶつかりって、二人は同時に後ろへ跳ぶ。

 「悠久の時を存在する我らに比べれば十数年しか生きていない人間の子供がっ!」

 「子供だってやる時はやるんだからねっ!!」

 確かに自分達は両親を始めとしたまだまだ大人には勝てないだろう。 それは単に戦う力だけの問題ではない、ニンゲンとしの器とでも言うべきものだ。

 それでも、いつかは彼らに追いつき追い越したいと願う。

 「……よくも言う」

 しかし、自分が圧されているのは認めねばならない。 情報を得るまではこの人間達を殺すつもりではなかった事とはいえ、子供と侮り過ぎていたのだろうともだ。

 ここは撤退すべきという判断は出来ても、相手がすんなりと見逃してくれるかは別の問題だ。

 「……まったく、気まぐれでやっておいたことがこういう役に立ち方をするか……」

 「何の事?」

 不意の呟きに警戒するリティアは、次に仲間たちの驚きの声を聞いた。 何が起こったのかと思う間もなく、不気味な呻き声と共にヒトが襲い掛かって来た。

 「……ちょ……このヒトって生きてたの!?」

 その動揺は、エルスが後退し始めたのにすぐには気が付かなかった程であったが、それは彼女一人だけではない。 しかも、男が目の前で変貌すれば、エルスを追いかけようという事も忘れてしまう。

 いかにも死人らしかった土気色の肌が黒く変色し、オーク並みの筋肉質な身体になっただけでなく、両手に指が鋭そうなかぎ爪へと変化したのである。

 「ニンゲンを……ニンゲンを魔物にしたというのかっ!?」

 その声がレイトのものだと認識する間もなく、魔物化した男が両腕を振り上げたのに、マナ・ブレードを振るおうとした手をリティアは無意識に止めた。 それでも勢いよく振り下ろされたかぎ爪は回避はした。

 「……こういう事を平気でするのが月の亡霊なのっ!!」

 リティアの怒りの籠った叫びに返答はない、すでにエルスは林の中へと消えていた。

 その隙を突かれたリティアは、しかし「うおらっ!!」という声に続き魔物が勢いよく吹っ飛ぶのを見た。 

 「オーバ……!?」

 「強いわりに甘えなおめーさんはよっ!」

 起き上がろうとする魔物の顔をカーダが踏みつけるのに、「ちょ……」とスレイが抗議めいた声を上げた。 理屈では分かるし、リティアを助けようという行為だとは分かっても、感情的には納得しきれない部分はある。

 アディンやレイトにしてもそれは同様だ。

 カーダが「あがっ!?」とその場を飛びのいたのは、かぎ爪で右足首あたりを引っ掻かれたからだ。 幸いにもあまり深そうではない傷口から流れる血の色は、人間と同じであった。

 素早く起き上がった魔物はお返しとばかりにカーダ目掛けて振り上げた両腕は、次の瞬間に左右から迫ったアディンとレイトに斬り落とされた。 その彼らの表情がギョッとしたものになったのは、大地に落ちた直後に腕が黒い霧状になり霧散したからだ。

 「な……!?」

 「これが魔物になったという事なのか……」

 そこへ跳んできたマナ・アローが額を撃ち抜くが、魔物は苦痛の声を上げよろめいたものの、まだ立っている。

 「……まだ動くの……?」

 自分が戦っている相手がすでに化け物となっているという事実に、多少は戦う事への抵抗感を和らぐのを感じるスレイは、次の瞬間には一人のニンゲンをこんな風にしてしまうエルスに改めて怒りを覚えた。

 「先に謝っておくよ!」

 リティアが魔物に接敵すると、右腕を振り上げながら大きく跳んだ。

 彼女にもまだ抵抗感はある、すでに死体が魔物化したと理解してもニンゲンの遺体を損壊する行為には間違いない。 しかし、彼を人間に戻す手段はないし、ましてや生き返らせるなど出来ようはずもない。

 ならば自分が出来る事、するべき事をするだけなのだ。

 だから、「ごめんね!」という言葉と同時に振り下ろさせた光のブレードは、黒く変色した男の身体を真っ二つに斬り裂いた。

斬り裂かれた身体は倒れることなく……と言うよりは倒れる間もなく影めいて黒くなり、そして霧散した。 そんな非現実的な光景に、アディンとレイト、そしてスレイだけでなくオーバやカーダに手下のゴブリン達も、しばらく声を出すことが出来ないでいたのであった。



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