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亡霊の気配

 

 高く昇った月の明かりが照らす下で、オーバが見下ろすのは毛布に包まれて眠る二人の少女だった。

 「オレらが一緒にいてよくも眠れる……いくらおめーが起きてるからってな?」

 振り返った先にいたレイトが「そうだな?」と頷く、それから腰に差した剣に添えられいた右手を放す。

 リティア達はオーバ達と戦った廃集落で一泊する事を決め、オーバ達も今後の事を相談し合いたいという事で一緒する事になっていた。 少し考えれば危険な状況であると分かるのだが、リティアはあっさりと了承したのである。

 「俺としてはお前達が何かしてくれた方が良い事は良いのだがな?」

 「物騒な言い方しやがる……」

 その方が憂いがなくなるからであり、同時にリティアに害を及ぼす前に自分達を倒せるという自信があるのだろう。 あるいは、リティアやスレイなら自力でなんとか出来ると思っての事かも知れない。

 ちなみにアディンも起きてはいるが、今は自分達と同様に交代での見張りをしているゴブリンらの監視をしてる。

 「おめーがそうしないのは、やっぱり姫さんには逆らえないからかよ?」

 「権力に……という意味であればそうではないな。 少なくとも俺やスレイは間違った事は間違っているとはっきり言うし、納得しない事には従わない」

 臣下であるという意識はもちろんあるが、それ以上に友達であるという意識が強いのが彼ら三人であり、クロウ王を始め大人達もそれを認めていた。

 「はっきり言えば俺はお前達は信用出来ないがな、リティア嬢が相手を信用するという事の大事さも分からなくはないというだけの話だ」

 「オークでもかよ?」

 「こちらの話を聞こうという相手であれば姿かたちに囚われるのも愚か、とはいえリティア嬢は人が良し過ぎも欠点ではあるがな?」

 だから自分とスレイがその部分をフォローしなければいけないと思ってもいて、さりとて嫌われ役をスレイにさせたくもない。 それが半ば男の自己満足に過ぎないとは分かっていても、器用に立ち回る事も出来るとは思えない。

 「……そうだな、あいつのお人好しは危ういな」

 「そう思うならな、俺に殺されるような真似はしない事だ」

 他はともかく、このレイトという男は次は容赦しないだろうという事はオーバにも分かる。 だから、「分かってる」と素直に頷いた。

 「……さて、オレももう寝るかな……」

 そう言って空を見上げたオーバは、月を横切るかのように飛ぶ物体を見た。

 「こんな時間に飛ぶ鳥がいるのか……?」

 「鳥だと?」

 レイトも見上げてみれば、確かに一羽の鳥と思える生き物が上空を旋回しているのを見つけた。 月明かりでは種類までは分からないが、梟や蝙蝠のようなものとも思えなかった。

 「夜に飛ぶ鳥には見えないが……しかもこちらを見ているとでもいうような動きをしてるというのも妙だが……?」

 そんな事を考えていると、次の瞬間に鳥はどこかへ飛び去った。

 「俺が気が付いたからか……ただの鳥とも思えん動きに思えたが……?」

 「……そう思えるな」

 オーバが同意した直後に、「……何かいた?」というリティアの声に二人はぎょっとなった。 見れば上体だけ起こした彼女がまだ寝ぼけ眼ではあるが空を見上げていた。

 「起こしちまったか……?」

 オーバはそう言ったが、レイトにはそうではないと確信していた。

 「リティア嬢は何かを感じ取ったのか、そういうような鳥だったというのか……」

 嫌な予感を覚えながらも、すでに姿を消した相手を暗闇の林の中へ追うわけにもいかず、ただ鳥の飛び去った方角を見つめるしかないレイトであった。

 

 

 人の背丈よりやや高い岩にもたれ掛かっていたエルスが、唐突に「……見つけたか」と不気味にも思える笑みを浮かべた。 彼らはニンゲンのように睡眠を必要とはしないのだが、乗っ取っている死体を長持ちさせようと思えば休息は必要であり、死しても肉体は感じるのか疲労というものもあるのである。

 「妙な連中も一緒だが、聞いた話と一致する。 連中がリティア姫様ご一行だな」

 分身とは視力や聴力といった感覚を共有出来るが、常時それを視ていたり、聞いていたりはしていない。 しかし、それは映像化をしていないというだけで情報として受け取っていないわけではない。

 今回で言えば、エルスは常に鳥の見ていた光景を映像としては見ていないが、リティアらしき少女を見たという情報は受け取っていて無意識化で処理してはいたのである。

 そして目的の相手を見たという情報を受信すると、それが違和感のような刺激としてエルスには感じられ、そこで初めて意識し映像として視るという感じだ。

 「ここからでは距離があるが……問題はそこではないな」

 月の亡霊には分身のいる場所へ自らを転移させる能力があるが、それはこの世界のニンゲンが使う魔法とはまったく別の力である。 そもそも、マナが有害である彼らにマナを使う能力が扱えるはずもないのだから。

 「寝込みを襲うってのは趣味じゃねえし、一応は本当に連中かの確認を兼ねて話を聞く必要もある……夜明けまで待つか……」

 そう言った後で目を閉じたエルスは、しかし眠ったわけではない。 休息のための睡眠は必要はないが、一時的に意識をシャット・ダウンするというか睡眠モードと言うべき状態になる事は出来る。

 しかし、今はその必要もないので、単に考え事にふけながら待とうというだけの事だった。



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