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面倒な再会


 リティア一行はユグドリアへ続く街道を進んでいく、ユグドリアはソレイユの隣国であるため、このまま進み国境を越えればすぐにでも到着はする。 しかし、それが単に時間の問題ともいかないのが旅というものであった。

 彼女らの前に立ち塞がったのは、濃い緑色の肌を持った二メートル近い体格の男達だである、粗末な服を纏った彼らはオークと呼ばれる存在だ。 その顔はごつい人間のもに視えなくもないが、醜く醜悪さを漂わせている。

 そのオークが二体と、彼らの手下であろうゴブリンが十体だ。

 「……また珍しいものと遭遇するものよな」

 レイトが剣を抜き前に進みでれば、アディンもそれに続く。

 この亜人種は人里離れた奥地で集落を作って暮らしている、人間に対しては友好的でもないがあえて敵対的になる事もないのは、あくまで種族全体での話である。 個人レベルでみれば、野盗まがいな真似をする事もあるにあるのだが、それも頻繁というわけでもないのは、やはりこの国の治安の良さもあるのだろう。

 「ん~~~~?」

 「リティアちゃん?」

 隣でオークの顔を見ながら考え込み始めたのを変に思ったスレイが次の瞬間に「……あ!」と振り返れば、二十体近い数のゴブリンが走って来た。 そのため「……ん? お前達は……」とオークの一体が言ったのは聞き逃していた。

 「挟み撃ちかっ!」

 ニンゲン程とはいかなくとも、このくらいの知恵は回るのがオークであり、それに従うくらいの事はゴブリンもするのである。

 アディンがそちらへと移動しリティア達の前に立てば、ゴブリンは彼女らと数メートルの間隔を開けて止まり、手に持った棍棒を構えた。

 「こういうのって運がいいのか悪いのか……」

 いつでも魔法を撃てるようにマナを集めつつスレイの呟く意味は、オークらと遭遇した事を不運と思うか、他の誰かを襲う前に倒すことに出来る事を幸運と思うかという事であった。

 直後に、「あ~~~!!!!」と大声を上げたリティアは、次のオークを指さした。

 「あんた達! オーバ!」

 そして、もう一体へ向かい「それにカーダね!」と言う。

 唐突に跳び出した名前にアディンは「……は?」となったが、レイトとスレイはまさか!?という風に驚きの表情となった。

 「ぐふふふ、やはりか。 そう、オレの名はオーバだぜリティア嬢ちゃん!」

 そう答えた声はどこか嬉しそうに聞こえるものだった。

 「……正解なんですね……というか何で区別出来るんですかリティアちゃんは……」

 感心したような呆れた様な声を出すスレイには、二体はまったく同じ顔に視えている。 もっとも、それは向こうからすれば人間も同じだと思っていたのだが、先ほどの言葉からするとそうでもないようだ。

 「……偶然の再会か、以前の仕返しに来たか……」

 レイトが思い出すのは三か月程前の出来事だった。 とある村の近くで悪さをするオークを退治した、退治といってもオーバとカーダと名乗ったオーク達は戦いに負けたとみるや逃げ出し、その後は姿を見せなくなったので懲りて自分達の領域に帰ったと思っていた。

 「まあ、悪さをしようっていうなら相手になってあげるわ!」

 マナ・ブレードを展開しながら前に進み出ると、威嚇するかのように振るえば、白い刃が光跡を作った。 それを見たオーバはにやりと口元を歪めて一歩前へ出ると、「リティアちゃん!」と興奮気味な声を出した。

 「待て待てあわてんな、おめえらがあの時のリティア嬢ちゃんだってんなら事情が変わるのよ」」

 どういうつもりなのかとリティア達が視線を集中させたオーバの顔は、少し照れたように赤くなっていた。

 「……リティア嬢ちゃん!  オレはよ、おめえに惚れたっ!!」

 「…………はい?」

 リティアが素っ頓狂な声を出せば、その前に出ようとしていたレイトも「なんだと?」と驚きの声を出した。 後ろの敵から目を離さないが、アディンとスレイも同様の表情となっている。

 「だからよ、オレの嫁になってくれやっ!!」

 「……なによそれぇぇぇえええええええええっっっ!!!?」

 予想の斜め上過ぎる展開に四人は言葉を失い呆然となってしまうと、今度はカーダが「す、すすすスレイちゃん!」と言ってきたのに、「……はい? 私?」と思わず振り返るスレイ。

 「お願いします、オイラの彼女になって下さいっ!!!!」

 最初は「……へ?」とキョトンとなり、次には「えぇぇぇえええええええええええええええっっっ!!!?」と、普段のスレイでは考えられないくらいの大声を上げた。

 オークは人間と同様に男女で恋をし、結婚するという習慣もありはする。 もちろんんそれは基本的に同族内ではあるのだが、中にはこれまた人間同様に女の子にもてず彼女を作れない哀れな男もいて、そんな連中がニンゲンの女の子に交際や結婚を半ば力づくで迫るという事もあるのである。

 「どういう展開なんだよ……」

 視線をゴブリン達に戻したアディンは、彼らもこの状況に困惑し攻撃しようにもできないらしいなと分かる。 亜人相手とはいえとりあえずは戦う気のない相手に先制攻撃を仕掛けるわけにもいかず、リティアとスレイの対応しだいだと思えた。

 そのリティアは、大きく息を吸い込むと「お断りっ!!」と答えれば、「な、何故っ!?」と狼狽えるオーバだ。 それに対し両手を腰に当てながら睨みつける。

 「ぶっちゃけ、あんたはタイプじゃないのよっ!!」

 きっぱりと言われたオーバが「うがぁぁああああっ!!!!」と咆哮しながら頭を抱える隣で、「じゃ、じゃあオイラは?」とカーダが身を乗り出した。

 「えっと……私はまだ誰かとお付き合いとかしようと思っていませんので……」

 流石に申し訳なさそうな様子ではあったが、やはりはっきりと断られたカーダも「うそぉぉおおおおおっ!!?」と兄貴分に続いた。

 「アディン!」

 「はい……さて、これでどうくる?」

 力づくでくるかと身構えた男二人は、しかし次の瞬間にオーバ達が「うわぁああああんっ!!」と泣きながら背を向けて走り去り、ゴブリン達も慌ててその後を追いかけ始めたのに呆気にとられた。

 位置的に後方のゴブリン達は自分達とすれ違う形になったわけだが、そこを攻撃するのも忘れていた……というより、攻撃し辛かったというのが正解だった。

 彼らの姿が脇の林の中に消えていったのを見届けたレイトが、「……オークとはいえフられた男達の姿か、流石に笑えんな」と言いつつ剣を腰の鞘に戻す。

 「……まーしょーがないよねぇ……」

 困ったように赤い髪を掻きながらいうリティアに「……ですよねぇ……」とスレイが答えるのを聞きながらアディンも剣を納めながら、自分はああはなりたくないなと思っていた。


 

 リティアらがオーク達と遭遇したのと同じ頃に、宿場町を出て街道を歩く男は、町の酒場でリティア達の事を聞いた彼である。

 「リティア・リュミエーラ、この人間の国の姫か。 マナの種子を持つアディン・ランディールとはどういう因果で一緒にいるか……」

 この肉体と共に手に入れた地図に目をやり、この道がユグドリアへ続くことを再確認する。 彼女らの目的地は不明であっても、リーネの村との位置関係を考えれば、マナの大樹のある方角へ進んでいるのは間違いない。

 「町や村でヒトを一人殺せば大騒ぎになるが、こいつのようなはぐれ者なら少しくらい殺しても誰も気にせんというのはな、都合の良い話しよ」

 地図をたたみ服のポケットに仕舞うと、「ガイムは迂闊と言うだろうが、このエルスにはこういう方がやはり性に合っている」と笑う。

 そう、彼は月の亡霊のエルスである。

 月の亡霊はニンゲンであれ動物であれ肉体に乗り移り己の物と出来るのだが、それは生者ではなく死体でなくてはならない。 それは、彼らが生者ではないという事が要因なのだろう。

 人間の身体に入り込むという行為をする事の意味は、まずは諜報活動をしやすくするためというのもある。 また、彼らの身体にとってマナは有毒であり、長時間の活動のためにはマナを遮断するローブを身につけなければならない。

 しかし、この星の生物の肉体に入り込むことでその代わりにもなるのだ。

 「接触して直接話をしない事には始まらぬとはいえ、面倒な事だ」

 聞いてみて正直に話すとは限らないが、そうであれば力づくでいくだけの事であるのは、エルスにとっては愉快な事である。

 「まあ、どのみち用が済んだら口封じだからな……っと、言いたいが一国の姫が一緒だとそれは流石に迂闊か」

 直後、不意に右手を上げたと思うと、人差し指が伸びた。 そう、伸ばしたのではなく文字通りに伸びて、自分の背丈の数倍は高いところを飛んでいた鳥を貫いた。

 「……ともかく、ガイムの奴にも伝えておかねえと後が煩いか……」

 指を縮めれば鳥の小さな身体から抜ければ、そのまま地面に落下した。 しばらく様子をみて確実に死んだのを確認すると、ゆっくりと歩き近づいた。

 「都合よく二匹ともいくもんじゃねえか。 まあ、もう一匹は、斥候用はまた見つけりゃいいか……」

 そして死骸に向かい左の掌を翳せば、数センチ程度の黒い球体が跳び出し、ゆっくりと大地に横たわる灰色の物体に吸い込まれた。 すると、小さな身体震え、そして立ち上がったのである。

 暗黒物質で構成された自分の身体の一部を使い死体を操る能力は、こういう任務では便利なものであった。 誰かの下へと行けや敵を攻撃しろといった単純な命令しか出来ないものの、ある程度は自立した意志を持って行動し、もしも倒されればそれを感知できるなど多少の感覚の共有もある。

 「……こいつがガイムのとこに付くころには片付けておきたいところだが……どうなるやらか」

 不敵に笑ったエルスは、「行け」と命令を下した。

 

 

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