従者同士の時間
リティア達が現場に到着した時には、すでに日が傾きかけていた。
「……なるほど、確かに並大抵の獣ではなさそうだ。 この足跡の大きさから察するに体長はゆうに十メートルは超えるか……」
言ってから顔を上げたレイトの視線の先にあるのは街道脇に広がる林だが、そこのは細い木々がなぎ倒されて、それが獣道めいて奥へ続いていた。
「一度街道へ出てきて引き返したんだね……」
もしも、その時に旅人が通りかかっていたらと思うとゾッとなるリティアだ。
「流石にヒトを警戒しての事でしょうか?」
スレイの疑問に「どうかな?」とアディン。
「そうであれば町を襲うような危険性は低く多少は安心だが、そうも楽観はできないだろう……とはいえ、今すぐに突撃とはいかんがな」
レイトの言う意味は全員分かっている、時期に日が暮れて闇が世界を支配する。 そんな暗闇の中でドラゴンはもちろん、どんな獣に襲われるか分かったものではない。
「それにしても……どうしてドラゴンなんてものが急に……?」
「縄張り内の餌が何らかの理由で少なくなったのか、あるは外敵が現れて追い出されたのか……」
アディンの疑問に自分の考えをスレイが述べれば、「ドラゴンなんてものの敵、ゾッとするわね」と言うリティアの表情には緊張の色が見えたが、次の瞬間に響いた気の抜ける音に顔を赤らめた。
「リティア嬢……」
「はいはい、すぐに夕食の準備を致しましょう」
呆れた顔のレイトと苦笑するスレイに「えへへへ……」と照れ笑いを見せたリティアは、アディンが自分の顔をぼーっと見つめているのに「どうかした?」と尋ねた。
「……へ? え? ああ……な、何でもないです!」
月が頂点を超えて下り始めたその下で、スレイとレイトはマナをエネルギーとしたランランを挟み向かい合って座っていた。 その傍には、先ほどまで見張りをしていたリティアとアディンが毛布に包まり眠っている。
「リティア嬢と一緒で呑気な旅になるとは思っていなかったが……まさかしょっぱなからこうも厄介な事になるとはな?」
言葉とは反対にどこか楽しそうなレイト。
「……リティアちゃんらしい事ではありますけど、本来であればリティアちゃんがするべきものではないはずなのに……」
リティアのその性格や生き方は認めて応援するとは決めていても、彼女に危険な真似をさせたくないというのも間違いなくスレイの……いや、二人の本音である。
「だが……仮に我らだけで戦うと言っても認めぬだろうさ、今回の件に限らずな?」
やはり血筋というものなのだろうと考える、父親であるダン・ヴィヨンドからは、クロウ・リュミエーラも若い頃は良く城を跳び出しては剣を振るっていたと聞く。
その傍には、常にダンとスレイの母であるリリムの姿があった事もだ。
「前に出て戦うのは王族の仕事ではないというのは正しい理屈であってもな、前に出て戦えてしまうならやるしかないというのがリティア嬢という事だな」
スレイは「はぁ~~」と深い溜息を吐くと、友人である少女の気持ちよさそうな寝顔を恨めしそうに見つめる。
「こっちの心配や苦労……少しは分かってほしいんだけどねぇ……」
「それについては同感だな」
互いにリティアを守ると決めている者同士だからであろうか、幼馴染みであるのとは別の奇妙な共感が、二人の間にはあった。
「……それにしても、アディン君を連れて来てしまって良かったのでしょうか?」
「アディンの中にあるというマナの種子が、彼に万一の事があった場合にどうなるかは分からんな。 だが、リザードラゴン相手でも自分の身くらいは守れよう」
そのくらいはやってみせないとどのみちリティアと一緒に旅は続けられないだろうし、そうでなくともマナの種子を大樹まで運ぶだけの簡単なお使いとはいかないだろうと、レイトは説明した。
「どういう意味です?」
「ふっ、勘のようなものだ。 何しろ我らのやろうとしている事はこの世界の存亡がかかっているのだ、平穏無事に済むと思う方がおかしいであろう?」
どこか冗談を言っているようにも聞こえるが、長い時間を一緒に過ごしてきたスレイには彼の瞳が真剣なのが分かる。 三人の中で一番年上という事なのか、男の子だからという事なのかは分からないが、自分が一番しっかりしていようと振舞っているようの見えていた。
「それでも、平穏無事に終われば……」
空を見上げて祈るようなスレイの言葉に、「ああ、それが一番ではあるよ」と優しげに笑うレイトであった。




