3-52.視察(2)
フウマのおかげで事件や事故に遭わずに済んだよ。
ランドルさんの所にいるアルバートさんと合流して、
ミラニアや城下町まで、とっとと行きたいな。
まだ夜明け前。真暗ではないけど、空が明らんできてるぐらい。
うぅ・・。寒いね。
飛竜を助けたときの岩山も寒かったけど、ここは平地の小屋の中なのに寒いよ。
あ、そっか。ステラの断熱コーティングのおかげか。
ほんと、関所のみんなに支えられてるんだね。
フウマが起きるまで蹲って、待ってよう。
「姉さん、起きた?」
「え?起こしちゃった?」
「いや、気配が変わったから、何かあったのかなって」
「ううん。ちょっと寒かっただけ。」
「そっか。じゃ、出発しよう。動けば体が温まるよ。」
「え?ランドルさんに挨拶とか、アルバートさんと合流とかは?」
「ランドルさんに連絡は入れてある。アルバートさんは姉さんの念話がある前からミラニアで情報収集をして貰ってるから、ミラニアで合流になるよ。」
「フウマ凄いね。」
「関所にいるときの姉さんが凄いんだ。僕の普通はこれぐらいだよ。
宿屋の方は先払いで済ませてるし、朝食も出ない。
朝早い方が人目に付かないから、出発にはいいタイミングだよ。
空を飛んでも良いけど、体を温めるのと、サイナスの穀倉地帯を姉さんに見て貰うためにも走ろうか」
「わかった」
フウマの衣装を纏っているけど、二人とも<身体強化>で走り始めるから、<光学迷彩>も掛けておいたよ。
しかし、だだっ広いね。地平線が見えるよ。
北側には霞んでるけど山が見えるね。
海岸線はたかが10㎞ぐらいなんだろうけど、街道が平らなせいか海は見えてこないね。
息が切れるし、速度もあるから音声より念話がいいかな?
<<フウマ、この畑は麦っぽいけど、小麦なのかな?>>
<<大麦、ライ麦があるかな。ビールの原料とか黒パンの原料だよ。多くの農民は白い小麦のパンは食べないで納税用に作ってる。付加価値の話だけじゃなくて、必要量以上に徴収される価値が薄いってのもあるよ。>>
<<ふ~ん>>
<<姉さん>>
<<なに?>>
<<雑談なら音声会話のが楽なんだけど。>>
「そうなの?」
「これでも、<索敵><身体強化><隠密行動>を並列起動して、そこに<念話>を載せてるんだよ」
「ああ、フウマは道の状態を確認しながら、案内してくれてるのに、私はついて行ってるだけだもんね。」
「肉体的な問題じゃないんだけど、まぁいいよ。それで、サイナスの穀倉地帯の見た感じはどう?何か思いついたことある?」
「う~ん。わかんない。水路とかないけど、どうやって水を供給してるんだろうね?」
「川の傍は川から水を引けるけど、こんな川から何kmも離れたところじゃ、水が流れてくる前に地面に染み込んじゃうじゃないか。」
「関所でニーニャ達に樋を作って貰ったみたいに、水が抜けない素材で水路を作ればいいんだよ。」
「僕の説明が悪かったね。
国や地域にとって、治水は手を出さない問題なんだよ。それをするだけのお金を掛けても、その対価を回収する前にその人は死んじゃうからね。だったら、自然任せにして放置して、今できる生産量で生計を立てるし、税収を得ればいいんだよ。」
「それって、国や領主としてどうなのよ?」
「ロメリア王国だって、港を開設したり、街道を敷設してるさ。一方、サイナスの住民からしてみれば、領主や国への納税があるから、大きな労力をかけて治水を行うことはできないよ。
それに姉さんみたいに、石を軽くして持ってくることもできないし、水に強い煉瓦や粘土の在り処も判らないし、ドワーフ族の様に水路を設計して施工できる人も居ない。」
「そういうもん?」
「そういうもん。」
「わかった。それで川はどう超えるの?」
「飛んでもいいし、船で渡ってもいい。」
「橋も作ってくれてないんだよね?」
「無いよ。そもそも、川は領地マーカーの範囲外だから、作ってくれる人がいないんだ。小さな水路とか、不便な場所は村や町の顔役が有志を募って対応するけどね。」
「なんでこの川には橋がないんだろう?」
「川を見に行けば判るけど、対岸まで百メートルぐらいあるよ。そんな川が氾濫したら橋なんかすぐに流される。そんな土木事業にお金も時間もかけてる意味がないさ。」
「ひょっとして、川を領地マーカーで囲わないのは、国としてその面倒見たくないってこと?」
「うん。自然災害に対して対応をとることはしないさ。そこの住人たちの問題。国の領地として認めていたら、その責任も国がとることになるからね。」
「それ、なんか変じゃない?国は国民を守るし、守られてるからこそ、国民は納税をするんでしょ?」
「川の氾濫が怖ければ、川の傍に住まなければいい。
例えば、森に大型の魔物がでて、人的被害がでるような場合には軍隊が対応する。
他国の軍隊が制圧しにきたら、国土と領民を取り返すために軍隊が出動するよ。」
「国民ってなんなの?」
「そこに住む人。働いて生活して、納税する人。国に愛着とかないよ。強い側に従うだけ。」
「『納税したくない!』とか、反乱を起こしたら?」
「普通は村や町の顔役がとりなして、その反乱となる元を断つね。
そこで収まらない場合には、顔役が軍隊を呼んで制圧してもらう。
顔役や、その地域全体が発起するような場合には、一種の革命になるね。」
「それって、民衆が国にすごい不平・不満が溜まった状態で、そこらの軍隊じゃ制圧出来ない状態ってことだよね?」
「そうだね。」
「過去にそんなことが起きたりしたの?」
「あるよ。」
「どんな感じのとき?」
「水害で農業ができなくなって、そこに伝染病の追い打ちが掛かった。食べる物も無く、人がどんどん死んでいくのに、納税を求められたら蜂起もするさ。」
「水害が問題の根っこじゃん!伝染病も水害の後の不衛生な状態から被害拡大が原因だよ。きれいな水があれば、伝染病の被害も最小限にとどめられたかもしれないよ。」
「姉さんにはそう見えるけど、当時の統治者には、そう見えなかったんだろうね。」
「そっか・・・。そうか・・・。」
「なんか、思いついた?」
「今度さ、水害を利用してミラニアとかロメリアの戦力とか削ろうと思ってたんだけどさ。その話を聞くと、地場の住人にとって壊滅的なダメージになって、戦争どころじゃないし、戦争に勝っても復興がえらい時間かかるよ。」
「だったら、ロメリアとの戦争は楽に勝てるね。」
「勝った後が問題だよ。味方が制圧に行っても、伝染病を貰ってくるだろうし、食料も何倍も用意しておかないと、ロメリアの国民が飢えるから統治が難しくなる。」
「それでも戦争するんだろ?」
「関所のみんなを守るためには、戦争して勝つしかないよ。ちょっと考えるよ。」
ーーーー
「姉さん、川に着いたよ。」
「うん。随分大きな川だね。だけど、これ、土手がちゃんとしてるね」
「上に登れば判るけど、川面が畑より高い位置なんだ。アルバートさんは『河川の堆積作用で天井川になってる』って、言ってたよ。」
「決壊しても排水路とか、水の汲み上げ設備とか無いんだよね。」
「ああ、無いよ。自然堤防を越えたときの被害は大きいよ。」
「もっと、川の上流はどうなってるの?」
「今、見に行くかい?」
「渡し船の時間が間に合うなら見に行きたい」
「乗り合いの渡し船なら、1日5-6回往復してる。個人雇いの船なら割高だけど、いつでも大丈夫だよ。問題があるとしたら、アルさんとの合流が少し遅くなることかな。」
「アルさん以外に問題が無ければ、先にちょっと見ておきたいな」
「じゃ、行こう。飛んだ方が全体が見えるから、飛んでもいいね?」
「是非お願いします。」
空から見ると川全体が平原の真ん中を走ってて、ほぼ真っすぐなんだね。
多少蛇行してて、三日月湖みたいな物が出来た跡があるのは、教科書通りの河川の作用の結果なんだだね。
川の中流域は土手がしっかりしてる訳ではないし、東西がはっきり区別できにくい。
土手をきっちり作ると、東西での治水工事の差が明確になりそう。
新しい三日月湖が出来ちゃわないように注意が必要だね。
「フウマ、もっと上流も確認できる?」
「いいよ。ただ、人が住んでて、農耕がされているのはこの辺りまで。狩猟や採取で森に入ることはあるかもしれないけど、この先に住人は居ないはずだよ。」
「うん。念のために、山の裾野に達するぐらいまで見ておきたい。」
「わかった。」
川は山の左右に分かれて分岐して流れてるね。
ってことは、ロメリアの王宮の辺りにも川が流れているはずだから、水不足はなさそう。裏からトンネル掘る時に、この川に瓦礫を流すと、水が濁って異変に気付かれる恐れがあるね。やっぱり、雨を降らしながらか、瓦礫の処理をしつつ、トンネル工事ってのが効率良さそう。
「フウマ、この辺りの領地マーカーの設置具合って、何か調べる方法はあるかな?」
「他国の領地マーカーを<索敵>すれば結界を把握できるたはず。山が邪魔で判らないけど、山からこっちの川や森はどこも領地として囲っている様子は無いね。」
「海の島のときに<飛び地>って囲えたけど、ここはどうだろう?エスティア王国として隣接してないと、領地マーカーって設置できない?」
「そもそも論として、領地で囲うってのは、<占有権>を主張するためのもの。
だから、相手が侵略してきたり、問題ある行動をしてきたときに武力衝突も辞さないだけのメリットがある領地を囲うためのもの。
姉さんが、ここを囲うメリットは何があるの?」
「この辺りからトンネルを掘る。あと、街道作成や治水工事のための、土砂や岩を切り出す。」
「それなら、ついでに、川の両岸で領地マーカーとして囲われてない辺りも囲っておくといいね。どこに街道を通して、どこに治水工事をしようと全部姉さんの責任の範囲だからね。」
「むむ。だとすると、私の領地の川が氾濫して、ロメリアの領地を浸水させたら、私が訴えられたりするかな?」
「姉さんの好きな<国際法>の上では、領主である姉さんの責任になるね。」
「人が1000人ぐらい死んだときの補償とか、見舞金はどれくらい?」
「一人金貨10枚も必要ない。相手国に対して、金貨1万枚で示談が成立するよ。」
「ってことは、この先200回も川を氾濫させて、相手にダメージ与えられるね?」
「ロメリアとしては、姉さんに『治水工事のお願い』をするだろうね。」
「『自国領内では問題無いので、自由に治水事業を許可する』とか、ありかな?」
「有り・無しで言うなら、有りだよ。これまた武力衝突の切っ掛けになるけど。」
「そしたら、また川が氾濫して、今度は相手方の騎士団まで水没するよ」
「姉さん?」
「なに?」
「姉さんが本気出して、<いろいろなお願い>を駆使すると、その想定質問が実現出来るって、わかってる?」
「策の1つとして、持っておきたいよね。」
「人も死ぬし、浸水被害でロメリアの平民へのダメージは大きいし、ストレイア帝国の仲裁も覚悟しないといけないよ。」
「なんでストレイア帝国が出てくるのさ?」
「<税収が減るから>だよ。」
「それも水害で水没させたら?」
「熟練の暗殺部隊や魔導士部隊を複数チームで送り込んで、姉さんを暗殺する。」
「逃げる」
「サイナスも関所も全て帝国の持ち物になる。」
「お~い~!」
「姉さんがいろいろ考えて行動するのは構わないし、発想が普通じゃないのも認めるし、そして、それを実現できる力を持っているのも凄いよ。
でも、この世界のルールも予め知っておいて貰うことも、僕の役目だと思うんだ。」
「フウマはいい子だね。」
「じゃ、渡し船の所に戻ろう。領地マーカーはどうする?」
「まず、このトンネル工事地点の岩場一帯を囲う。それが終わってから、サイナス側の街道予定地と川の淵ギリギリまで囲う。」
「じゃ、今日はそれだけ済まそう。」
「うん。」
ちょっと、空想はほどほどにしよう。
現実に即した解を見つけないとね。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




