3-49.勝負!
王子が飛竜を制圧したとか言ってる。
失礼しちゃうよね。
「王子、これが連れてきた飛竜・・・。あ、増えてる。」
「二頭も連れてきたのか?」
「いや、増えたって言ったじゃん。それに二人だよ。」
「動物だろ?」
「知能があって、一般的な人族より優秀だし、エルフ族より長寿命だよ。」
「そ、そうなのか?」
「私も<獣使い>じゃないんだから、知性の無い生き物を仲間にしたりできないよ。」
「それは、俺の無知だった。すまぬ。」
「ううん。私も知らなかったし。みんなサーガでぐらいしか知らないよね。ステラだけが乗ったことあったけど。」
「飛竜に乗ってみたい。」
「あのさ?『そこの王子に乗ってみたい』とか、簡単に言われたらどうする?」
「切り捨てるか、戦う。」
「知性があって、魔術が使えたら、当然その力を相手に行使するよね。」
「だって、ロメリア王国に飼いならされていたんだろ?」
「族長を幽閉して、それを盾に、若手の飛竜を奴隷として扱ってたんだよ。」
「まさか、ヒカリがそれを救出したのか?」
「ちょっとボロボロな方が私達で救出して連れてきた方。ちょっと年を召してる女性の方が新しく訪問してくれてる方。」
「全然判らないが、ヒカリを信じるしかない。乗るのは諦めるが、今後ともよろしくと伝えておいてくれるか?」
「言っとく。」
伝えてる振りをするために、
手や顔のジェスチャーを交えてコミュニケーションをする。
全然意味がないんだけど、そんな素振りを王子に見せる。
<<ヌマさん、グルーさんお騒がせしました。この人はこの国の皇太子です。今回の戦争をが上手く収束すれば私の旦那さんになるかもしれない人です。今後ともよろしくとのことです。>>
<<こちらこそ、世話になる。必要なら若手の使いを寄越すから遠慮なく言ってくれ。母も少々世話になるからよろしく頼む。>>
<<うん。モリスっていう私の補佐に伝えておいたから不自由なことがあったら<念話>で伝えて。妖精の長達は、水の妖精ウンディーネ、風の妖精シルフ、闇の妖精クロ、光の妖精ライトがいるから、必要なら<念話>で声掛けてね。>>
<<ありがとう。>>
「ヒカリ?」
「今、伝えておいたよ。」
「伝わるのか?」
「たぶん。なんとなく。」
「そうか、そうなのか・・・。」
「じゃ、次はクロ先生に会ってみる?」
「もう、夕方だけどいいのか?」
「多分大丈夫だよ。どこにいるか分かんないけど。多分、農場か森だと思う。」
「また、農場へ行くのか?」
「地下に穴を掘って作った農場だよ。でも、どこに掘ったか知らないや。適当に探そう。」
「適当なんだな。」
「適当でいいんだよ。みんなが自由にやってくれてるから。」
「ヒカリらしくないな。」
「私より優秀な人がいっぱいいるときは、その人に任せることにしてる。」
「そうなんだ。クロ先生を探すか。」
「うん。」
ーーーー
「農場の入り口も見つからないし、クロ先生もいないね。モリスに聞きに行こう」
「最初からそうしたらよかったんじゃないか?」
「すぐ見つかると思ったんだけどね。なんだか関所の拡張が進んでるね。」
「拡張と言えば、今日の農場はなんなんだ。ヒカリがやったのか?」
「だから、私じゃなくて、ベイスリーさんが指揮してくれてる。50世帯ぐらいは移住済みだよ。」
「ああ。騎士団長に戻すって話があったな。」
「うん。枠が空いてるなら喜ぶよ。無ければ私の護衛になるかも。」
「フウマがいるだろ?」
「ベイスリーさんは、戦場で死にたいんだって。」
「あの人はそういう所があるな。でも、開拓騎士団長を引き受けてくれたんだ。挙句失敗の汚名を被って犯罪奴隷に落ちた。」
「うん。だから王子ならなんとかなるかなって。」
「俺一人では決められないが、考えておくよ。」
雑談しながら関所を歩き回ったけど、結局見つからないからモリスに会いきたよ。
「モリス~。クロ先生はどこいったか知らない?」
「レナードさんと剣の打ち合いに行かれました。」
「どこへ?」
「多分、私の自宅の裏手じゃないでしょうか?」
「それって、飛竜が休んでる隣接だよね。」
「はい。川を渡った入り口からは奥手方向になりますが。」
「モリスありがとね。王子、飛竜が居た場所のもっと奥だって。」
「そうか。レナードが既に行ってるなら、俺たちも直ぐ行こう。」
ーーーー
カンカン、キンキン、コン、カーン、キキーーン
なんか、激しくぶつかり合ってるよ。
型の練習とかと違って、打ち合ってこういう音がするんだね。
王子と二人で邪魔にならないように、建物の裏手にこっそり周ると・・・。
レナードがさんが兜も鎧もなく、軽装で両手剣をを振り回しながらクロ先生に打ち込んでいる。髪も振り乱して、汗もキラキラどころか、ダラダラと滝のように滴ってる。
一方、クールなクロ先生は、鎧を着たまま殆ど場所を動かずに、レナードのさんの剣を捌いたり受け続ける。
ある意味防戦一方にもみえるけど、全ての攻撃を受け流してるだけな気もする。素人の私には全然判らない。
「王子、あれって・・・。」
「し、静かに。二人が動きを止めるまで待って。」
「ハイ」
連撃の打ち込みが終わって、足を止めるタイミングでクロ先生が軽く薙ぎ払う。それを大きく退く形でレナードさんがかわす。間合いの中で攻撃と防御を持続できないってことは、レナードさんが攻めあぐねてるって感じなんだろうね。
2,3呼吸を整えてからレナードさんがまた攻め込んで連撃を打ち込む。左右へのステップ、上段から切り下して受けられて流された位置から、今度は足元へと攻撃を転じるけど、そこもまた半身ずらして剣で流される。
クロ先生は受け止めずに流すんだね。いろいろな意味があるんだろうけど良く判らない。
また、レナードさんの連撃の繋がりが途切れると、クロ先生の払いが飛んできて、レナードさんが後ろに下がった。
「ヒカリ、クロ先生って何者だ?」
「わかんない。私の剣術の先生になってもらってる。」
「いや、なんでヒカリがあの人を知ってるんだ?」
「なんか、ラナちゃんを連れて、傷つきながらここに辿り着いた。助けてあげたお礼ってことで、私に剣術を指南してくれることになったよ。」
「あれは、人の動きじゃないぞ?」
「何が?」
「そもそも、ヒカリがあの二人の動きを目で追えてるか、良く判らないけど、ヒカリも<身体強化>が使えるだろ?レナードさんも俺も<身体強化>の魔術が使えるんだ。
その魔術を<戦闘能力全体の向上>に応用することが出来て、疲れにくくなるし、スピードも単純な移動能力だけでなく、視覚や反射神経も高めることができる。だから、武術のみを極めた師範代クラスの人間に負けることはない。
そのレナードが一撃も当てられずにいる。」
「剣で受けてるよね。」
「いや、受けてない。受け流してるんだ。
受け流すことが出来るってことは、剣の太刀筋が見えて、力を適切に流すことができないと出来ないことなんだ。受け流された側は力を削がれて、体勢の立て直しにも時間が掛かる。当然疲労が多く溜まる方は受け流された側だ。
これを<相手に受けさせる>ことができると、相手は自分の体勢を立て直すために、自分と相手の両方の体重を支えるため、疲労がたまる。あと、受ける側は剣本体を攻撃され続けると、互角な<業物>だったら、剣を切ったり、折られたりする危険がでてくる。」
「それ聞くと、クロ先生はレナードさんの練習台として立ってるだけみたいじゃん。」
「だから、クロ先生は何者だって言ってるじゃないか!」
キーン!
レナードさんの剣が跳ね上げられて飛ばされた。
クロ先生がこっちをみる。
剣を飛ばされたレナードさんは剣の落下先を見つつ、片膝を着き、ゼイゼイと息を切らしている。
「ヒカリさん、どうされましたか?」
「あ、クロ先生、王子が手合わせして欲しいんだって。」
「これはこれは。突然声が聞こえたので、レナードさんの剣を流し切れず、跳ねてしまった。申し訳ないことをしました。」
「クロ殿、こちらこそ長い時間お付き合いいただきありがとうございます。正直打ち合いどころか、一方的な攻撃の練習台として付き合って頂いただけでした。」
「いやいや、レナード殿は打ち込みも素晴らしく、足の運びで交わし切れるものではございませんでした。非常に達者でいらっしゃる。」
「レナード、正直どうなんだ?」
「王子、正直、私の人生において、魔物を含めてこれ程の方と手合わせしたことはございませんでした。もし、受け側にまわっていたら、簡単に剣を折られていたかもしれませぬ。」
「そんなにか。<身体強化>は使っていたのか?」
「練っている魔術は全て<身体強化>方面へ費やしました。防御、索敵などは全て捨てて攻撃に特化させても敵いませんでした。」
「クロ殿、ヒカリから先生の話を伺ってこちらに参ったのですが、私ともお手合わせ願えませんでしょうか?」
「私は構いませんが・・・。」
「何かご不満な点が?」
「ヒカリさんはどうですか?」
「え?私が何を?」
「王子と手合わせを。」
「え?無理だよ。私、剣とか持ったこと無いし。この<ナイフ>だけだよ。」
「<斬撃>が出せるのであれば、面白い勝負になりますぞ。」
「当たったら、王子が怪我するじゃん!」
「いや、それは、<王子に当てられる前提>でしょう?また、<当てられそうな予感>があるとすれば、王子と面白い戦いになりますぞ。」
「なるほど。」
「ヒカリ、俺に攻撃を当てられるのか?」
「やったことないよ。クロ先生に習って、まだ一週間ぐらいだし。当たったら痛いだろうし。」
「ヒカリ殿、私が両者に特別な魔術コーティングを施します。<当たってもケガには至らない>のであれば、お互い安心ですよね?」
「王子、どうなのよ?」
「俺がヒカリに一撃入れることが、クロ先生との手合わせの条件なら仕方あるまい。」
「私が勝ったら?」
「俺の嫁にしてやる。」
「それ、私は得しないじゃん!怖い思いするだけじゃん!」
「ヒカリ殿、王子に一撃を入れられたら、今回の戦争で完璧な護衛を演じます」
「ちょ、ちょっとだけ、やってみようかな?今度の戦争で死にたくないし。」
「お前、本当にやるのか?」
「私も魔術とか使っていいんだよね?」
「当然だろ。
勝負始める前に、クロ殿の魔術コーティングの威力を試させて頂けないだろうか?」
「確かに心配ですな。そこの棒きれにコーティングを施しますので、確認してもらっても良いでしょうか?」
クロ先生が太さ10㎝長さ80㎝ぐらいのかなり太めの棒を持って来て、コーティングらしきものをしてる。ラナちゃんのコーティングのときと違って、なにか黒い靄みたいのが覆っていくのが見えた。
「終わりました。順番にお試しください。」
棒を立てた状態に対して、王子が上段から袈裟切りに振り下ろす!
キーン!
なんか金属音がして、棒が吹き飛んだ。
棒を拾ってくると、棒は無傷だった。
でも、受けたエネルギーは伝わって吹きとばされるんだね。
「クロ先生、すご~い!私も斬撃試していい?」
「もちろんです。」
立てた棒に向かって、真っすぐ狙いを合わせて、斬撃を当てる
ズガガガガ!キーン!
地面がガリガリと削れて、その上に在った棒が硬い金属音を立てて跳ね上がった。
棒を回収してきたけど、特にダメージらしきものはない。
「おお~。クロ先生、安心して勝負できそうだね。」
「ああ。ただし、何発も耐えるコーティングでは無いから、1合あったら、その都度距離をとって、貰う必要があるからご容赦を。」
「ヒカリ、一合で勝負付けるから大丈夫だよ。」
「く、くやしい~~」
そのあと、二人へコーティングをしてもらいつつ、
私は<身体強化>と<体内循環><エーテルの流れの可視化投影>の魔術を施す。これで多少のフェイントには眩まされないし、エーテルの動きを読めば攻撃の斬撃を王子の移動地点へ事前に置ける可能性が出て来るよね。
お互いの距離を5歩ぐらいとって、クロ先生の開始の合図を待つ。
「はじめ!」
王子が中断に構えたまま、ずかずかと歩いてくる。
エーテルの流れと視認する形とでズレが無い。
2mぐらいの距離で右上段に振り上げて、剣をそのまま振り下ろした。
私は構えをとる訳でもなく。
というか構えとか知らないし、ナイフだし。
ぼーっとみてたんだけど、そんなの当たる訳ないじゃん。
スルッと右に半身交わした。
そこからV字に下から上に向かって切り上がって来るので
今度はそのまま一歩後ろへ下がる。
鼻っ面を下から上へ剣が抜けていく。
って、今度は速度を上げて、一歩踏み込んだ状態から私の胴体を左側面から胴体を横なぎ。
これ、避けられないじゃん!
しゃぁないから、伸びた腕の内側に突っ込んで抱き着く。
王子がバランスを崩して倒れる。
「待て!」
クロ先生からストップがかかる。
だって、受けとか受払とか知らないから、逃げる方向が前方ならそうするしかなかったんだよ。
「クロ先生!ああいうの、どうすればいいの?」
「ヒカリさん、ナイフで刺したら貴方の勝ちでした。」
「あ~あ~あ~。避けることに夢中だったよ。そっかナイフ使えば良かった。クロ先生みたいに受け流そうとしたけどナイフじゃ怖くて出来なかったんだもん」
「ヒカリ、たまたまじゃなくて、見えてたのか?」
「あ、私が下手でごめんね。打ち合いとかしたこと無いんだよ。クロ先生とレナードさんみたいにキンキン、カンカンできたらカッコ良かったのにごめんね。」
「いや、そういう問題じゃなくてだ。」
「うん。今の速度なら大丈夫。もうちょっと速度あげてもついていけるよ」
「分かった。」
2度目のクロ先生の合図で再開した。
今度は速い!
目に写る像より、エーテルの像が前にぶれてる。
ってことは、視覚神経の遅延速度がでるくらい速いんだね。
でも、攻撃パータンはさっきと同じ。
だったら、ナイフの斬撃を放って・・・。
私が右手を動かしたら、王子がステップを踏んで左に飛んだ。私から見て右手ね。
かなり残像が残ってるから、私の右手を切りに来てるのかな?
だったら、こっちは右足を引いて、右側を半身後ろにずらして・・・。
うわ!こんどは左足のステップで、真正面から突っ込んできた!
さっきとパターンも速さも全然違うんですけど!
でい!
王子正面に横なぎにナイフの斬撃を放つ!
あ、王子飛んだ!斬撃の空間飛び越えて私の頭上から突き降ろし。
私はそのまま後ろに2歩ステップして、王子の着地後の横なぎの範囲外にでると、
王子の着地地点を狙って、膝の高さに水平に横なぎの斬撃を放つ!
王子が剣を地面に突き刺して、逆立ち状態になり、そこからトンボを切ろうとするけど・・・。
キーーーン!
王子の剣が折れた。
王子はバランスを崩して横倒し。
私はそこに縦方向に容赦なく、最後の斬撃を放つ!
キーン!
王子の保護コーティングにヒット!
「それまで!」
クロ先生の終了の声がかかる。
「王子、大丈夫?」
「体は大丈夫だが、剣が折れた。」
「なんか、安い剣でも持ってきたの?脆くない?」
「バカ言え!これでも神器に準ずるぐらいの<業物>に著名な魔術師のコーティングもしてあったんだぞ!あーあ。」
「ご、ごめん・・・。クロ先生、あの剣直せる?」
「いや・・・。ニーニャさんと相談されては如何でしょうか?」
「敗因は王子がヒカリ殿を舐めて掛かりすぎたせいですな。ヒカリ殿は確実な斬撃を放っただけで、王子が剣でかわすなどしなければ、剣は折れませんでした。」
「レナード。2回目はそれなりに速度を上げたぞ?」
「本気を出されなかったのが敗因です。気持ちは判りますが、剣が折れた根本原因は王子です。」
「王子、ニーニャに相談してみようよ。直るかもしれないし。私のこのナイフもニーニャが作ってくれたんだよ。」
「そうなのか?<斬撃>なんか、神器かそれに近い魔術コーティングでないと、出せないぞ?」
「コーティングは別の人に・・・。」
「そ、そうか。でも確かに剣本体だけでも直れば、コーティングは別の魔術師でも良いしな。ちょっと、そのニーニャさんに会いに行こう」
「クロ先生、護衛の話はまたいつかお願いします。やっぱり、私も王子も本気では出来ないみたいだよ。」
「承知しました。剣を壊してしまったのは私にも一端があると思います。<著名な魔術師>ではありませんが、知り合いに魔術コーティングができるか、今度聞いてみましょう」
「うん。王子が好きなタイプのコーティングがしてもらえると良いね。」
「その辺りは剣の修復が済んでから考えましょう。」
「ハイ」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
また、誤字・脱字の報告ありがとうございます。
簡単に修正ができました。
作者自身も気が付いたときはなるべく直すよう、心がけます。




