3-48.王子の訪問その2
王子とレナードさんと一緒の夕食会だ。
でも、今日は普通の夕食のはずなんだよね。
「モリス、ただいま~。今日の夕飯は何になった?」
「ユッカちゃんの要望で<タコ丸パーティー>になりました。」
「え?」
「リチャード王子が、『ユッカちゃんが一番食べたいものにしよう!』と、ご機嫌をとったところ、全員一致で決まりました。私も食べたいです。」
「ハッ!忘れてた!王子とレナードさんが来たってこと?」
「予めマリアさんから話を聞いてますので、大きな問題にはなっておりません。」
「食料も補充してないんだけど・・・。」
「ユッカちゃんが、飛竜の食事と人間の素材を毎日何回も運んでいますので問題ありません。また、そのことをヒカリさんに伝えないようにと言付かっております。」
そっか。ユッカちゃんにコッソリ感謝だね。
「いや、あれ、材料は簡単だけど、焼くのに時間がかかるし・・・。」
「鉄板6枚を炭火のコンロの上に設置して対応することになりました。」
「場所は?」
「当然、屋外です。」
「暗くなるよね?」
「篝火を設置することになりました。」
「寒くないかな?」
「ヒカリさんは、何か中止したい理由がおありでしょうか?」
「な、無いです!毛皮に包まって対応します!」
「ユッカちゃんが怖いですか?」
「怖くないです!農場でジャガイモをこっそり頂戴。炭火で焼いて食べるから。」
「承知しました。皆様には内緒でしょうか?」
「だって、私が寝てる間に、あの美味しいジャガイモみんなで食べたんでしょ?」
「ゴードンが付け合わせのマッシュポテトとして供しました。」
「え?それだけ?」
「ジャガイモ料理は茹でるか、スープかマッシュポテトです。」
「焼いたり、あげたり、肉乗せたり・・・。」
「ヒカリさん?」
「何?」
「私は、ヒカリさんと同じ炭火で<タコ丸>を焼きます。そして、私は二人前のジャガイモを準備します。宜しいですね?」
「宜しいです。その代わり、本日の寝室の部屋割りもモリスに任せた!」
「では、各自の要望を満たすべく、最善を尽くします。」
「よろしく!」
じゃ、あのポタージュは誰が作ったんだ!
すっごい美味しかったんだけど?
あれか!
ビスクの技法をジャガイモに転用したのか!
ゴードン恐るべし!
てか、なんでこの関所には人材が集まってるんだろ?
お金じゃ買えない仲間だよ・・・。
ーーーー
「あ、王子とレナードさんお久しぶりです。」
「ヒカリ、言いたい事はいろいろあるんだ。」
「なになに?」
「誕生会の日に、うちの母を連れ出したな?」
「ハイ」
「冷蔵庫を見せて、それを作りにドワーフ達を派遣したな?」
「ハイ」
「なんで、母本人が冷蔵庫そっちのけで、ここで保養してるんだ?」
「ハイ」
「そこは『ハイ』じゃないだろ?」
「ハイ」
「母のことはいいよ。俺も人のことを言えないから。
ベッセルさんを財務大臣に推薦したのも母だろうから、それもいいよ。
飛竜だか、ドラゴンを助けたんだってな?」
「ハイ」
「死にそうになったんだって?」
「仮死状態だったみたい。」
「死んでるな?」
「ハイ」
「ステラさんとユッカちゃんの必死の看病で回復したんだってな?」
「ハイ」
「なんで、そんな冒険が必要なんだ。スザクはどうした?」
「ハイ」
「言い直すよ。フウマは、今どこにいて、何をしてるんだ?」
「フウマは、今、ロメリアにいて、治水工事の計画をしています。」
「ハイ」
「王子、それ、私の台詞なんだけど。」
「お前が『ハイ』しか言わないから、やってみただけだろ!」
「ハイ」
「おい!なんで、フウマがロメリアの治水工事をするんだ?」
「雨が降るの。川が氾濫すると大変だから治水工事をするの。」
「わざとやってるな?」
「だって、お腹すいたし、レナードさんが笑い堪えてるし。」
「一緒の席で夕飯をたべるぞ。」
「モリスが先かな。」
「俺とモリスでは、どっちが大事だ?」
「ハイ」
「他にも先約がいるのか?」
「ラナちゃんも一緒に食べたいって。」
「俺は何番目だ?」
「ハイ」
「枠外なのか?」
「10番目ぐらいかな?」
「婚約者だよな?」
「そうだっけ?皆が『まだ正式に婚約してないし、戦争負けたらどうする』とか、言ってくるんだよ。」
「ハイ」
「王子は皇太子なんだって?」
「ハイ」
「どうやって戦争に勝つつもり?」
「ハイ」
「相手に飛竜騎士団が居て、制空権握られてるから、こっちの戦力配分とか、全部敵に知られるよ。城壁築いても、堀を掘っても、投石機で内側を狙われる。その意味わかる?」
「それは不味い。」
「知らなかったの?」
「知ってたが、戦争する準備として考える候補に入れてなかった」
「戦力比で相手が10、こっちが1だよね?」
「ハイ」
「地形効果とか自然の力を使って、戦力を補うのが良いよね?」
「思いつきませんでした。」
「例えば、川の両岸で対陣してさ、相手側の治水工事が不十分な状態で大雨が降れば、相手はまともな戦力にならないよね?」
「それができれば凄い。」
「半年に一回ぐらい、雨季が来るよね?」
「ハイ」
「戦略に組み込めるよね?」
「戦略ってそういうものか?」
「ハイ」
「レナード、どうなんだ?」
「王子が全面的に平伏す状態ですな。全ての理がヒカリ殿にあります。
強いていうなれば、エスティア王国の食料自給率不足の問題ぐらいでしょうか。餓死者が3000人程度見込む必要があり、勝てた後も国力の低下に対する復興計画が重荷になるでしょう。」
「お前ら、そんな先まで考えて戦争するのか?」
「「当然です」」
「解決できるのか?」
「ふふ~ん」
「『ハイ』じゃないのか?笑ったよな?」
「ふふ~ん」
「レナード、どうなんだ?」
「いや、判りませぬ。『ヒカリ殿だから』でしょうか?」
「ごはん!ごはん!ご・は・ん!」
「レナード、もう、俺には無理だ。夕飯にしてもらおう。」
「それが宜しいかと。」
ーーーー
さぁ、夕飯だ。
篝火が煙いんだよね。煤とか出るし。
それより、座席レイアウトで一揉めあった。
参加者は以下の12人。鉄板6枚だから丁度いいね。
王族と大臣が3人
夕食会メンバーはモリス、ステラ、ユッカちゃん、ニーニャ、私の5人
妖精さんたちが4人
モリスの家族が2人
<誰がヒカリの正面に座るか>
食事のことに関しては、ヒカリの傍以外は無いって、席の争奪戦が起きたよ。
私の正面が王子、右隣がユッカちゃんとモリス、左隣がシルフとラナちゃん。
<子供は上手く焼けないだろうから、ヒカリが手伝ってあげるべき>
ってことになった。妥当な采配だよね。
で、私の前の炭火には<タコ丸の鉄板>じゃなくて、
普通の鉄板と、油が入った鍋がおいてある。
ふふ~ん。
ここはジャガイモ料理なんだもんね~。
・皮ごとの素焼き
・薄切りに脂身の肉を載せたもの
・短冊切りのフライドポテト
これらを仕込んで待つだけだ。
今日はコロッケの作成は控えておこう。
この人数分を揚げてたら、私の食べる時間が無くなる。
「ヒカリ、俺らはなんで<タコ丸>じゃないんだ?」
「なんでだと思う?」
「判らない」
「美味しいし、答えが判るからだよ。」
「判らない。」
「食べないと判らないよ。」
「わかった。」
「食べてないのに、判る訳ないよ。」
「そういうことじゃないだろ?フウマとの会話も、いつもこうなのか?」
「そうだよ。」
「フウマは幸せなのか?」
「一人他国で、ご飯も寂しく、土木工事の準備して、私から連絡があるのを待ってる」
「お前、ちょっとはフウマを労わってやってくれないか?」
「ジャガイモ焼けた。食べてみて。熱いから<ふ~ふ~>ってするんだよ。」
「話を逸らしたな?まぁ、食べるよ・・・アチチ!」
「ハイ」
「『ハイ』じゃないっていうか、この食べ物はジャガイモなのか?」
「モリス、どうなの?」
「ジャガイモかどうか、私も食べてみないと判りません。」
モリス、上手いね?
でもユッカちゃんがこっち見てるの気付いてる?
「どうぞ~。はい。ユッカちゃんの分もあるよ。」
「あ、ヒカリさんありがとうございます。」
「王子様、私が焼いた<タコ丸>あげるね」
「ヒカリさん、この肉汁とジャガイモの組み合わせは格別です!そして、このジャガイモが肉の旨味に負けてないのが素晴らしいです」
「おねえちゃん、美味しいよ!おねえちゃんのお芋だよね!」
「ユッカちゃん、ヒカリがこの芋を育てたのかい?」
「そだよ。おねえちゃんの農場で働いてる人が作ったの。」
「ヒカリ、森を開墾したのか?」
「うん、ちょっとね。」
「そうか、自家栽培程度には丁度いいな」
「モリス、どれぐらい出来た?」
「第一期目で、10a=1/100haでしたので、約3000㎏です。」
「へぇ。主食として、一人一ケ月で10㎏消費計算とすれば、100人分で3ヵ月か。いい感じじゃない?」
「小麦やカブ、牧草などと混ぜて区分けしていることと、開墾時期が異なりますので、安定した食料生産は、やはり後2-3ヶ月はかかるかと。」
「ヒカリ?」
「何?」
「ヒカリの農場って、ユッカちゃんが言ったよね」
「うん。」
「ジャガイモが3000㎏ってなに?ロメリアの農場でも買収したの?」
「してないよ。他国の領土を勝手に買えないでしょ?戦争になるよ。」
「どういうことなんだ?」
「もう、夜だから無理だよ。モリス、ユッカちゃん、ジャガイモ美味しいね。」
「おねえちゃん、他のも頂戴!」
「うん。ちょっと待っててね。」
「明日ならいいんだな?」
「モリス、ベイスリーさんは明日空いてるの?」
「問題無いかと。」
「ヒカリ、なんでお前がベイスリーを知ってるんだ?」
「だって、奴隷として雇用してるもん。王子が騎士団長に戻してあげれば喜ぶよ。」
「モリス殿、もう少し丁寧に教えて頂くことは可能だろうか?」
「モリス、冷めるよ?」
「あ、はい!明日、ベイスリー殿とご一緒することとして、今は食事を楽しみましょう。」
「モリス、酒をくれないか?」
「王子、今メイドに持ってこさせますので少々お待ちを!ただ、深酒は夜の営みに影響しますので、ほどほどに・・・。」
「モリス様、お酒をお持ちしましたわ。」
「って、なんで母さんが、メイドの格好してるのさ!」
「レナードは<タコ丸>焼くのが下手なのよ。中身のタコがいつもこぼれてて、別々なの。ヒカリさんの所が楽しそうだからお酒をつぎに来たわ。」
「マリア様、なんか、すみません・・・。」
「いいのよ。王宮で見られない物や食べられないものだらけだから。楽しんでるわ」
「あ、宜しかったら、このジャガイモ料理は如何でしょうか?」
「じゃ、座ろうかしら。リチャード、邪魔よ!ヒカリさんの隣行って!」
王子がこっち来る。
なんか久しぶりに王子と接触だ。
わ、私もお酒飲もうかな!
「ヒカリさん?」
「はい。」
「欲しい物があるの。」
「私で出来ることでしょうか?」
「貴方しかできないと思うわ」
「ロメリアとの戦争のことでしょうか?」
「違うわよ。孫の顔がみたいの。」
「あ、が、ぐ、ががが・・・。」
俯いて、ちらっと王子の方を見る。
王子は目に手を当てて<やれやれ>って感じ。
しゃあない!
お酒をがぶっと飲んで一言!
「精いっぱい努力します!」
ーーーー
「王子?」
「なに?」
「明日はゆっくりでいいの?」
「ああ。」
「私が起きるまで待ってて。」
「いいよ。その代わりちゃんと付き合えよ」
「わ、わかった!」
二度目だしさ。
お酒を飲んでリラックスしているからかもしれない。
今日は王子のタイミングに合わせられるかも?
私もちょっとは成長したね!
ふふ~ん。
おやすみなさい。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
また、誤字・脱字の報告ありがとうございます。
簡単に修正ができました。
作者自身も気が付いたときはなるべく直すよう、心がけます。




