3-46.ガラスを作ろ(1)
ささ、ガラスづくりの開始だ。
<<モリス、アリアさんはどこ?>>
<<トーマスさんと石切出しの岩山にいると思いますが>>
<<歩いて行ったの?>>
<<細いですが、馬車は通れるようです>>
<<ありがと>>
「アリアさんは、今、岩山だって。」
「ヒカリと一緒に飛ぶのか?」
「私、魔力回復したかな?回復してれば飛ぼうか」
「いいぞ。でも、無理はするんじゃないぞ」
朝から休憩して、大分時間が経ったら大丈夫だと思うけどね。
斬撃やらなにやらしなければいけると思う。
念のため、<身体強化><重力遮断><光学迷彩>を順番に発動。
<<ナビ、今の私の魔力残量は?>>
<<1000ぐらいあります。消費より回復のが多いので、ご安心ください>>
<<ありがと>>
「ニーニャ、いけそう。」
「頼むんだぞ」
「ハイ」
とりあえず、岩山のどこにいるか判らないから上空から探してみる。
確かに、農場の街道から岩山へ細い道ができていて、岩山の入り口辺りに馬車が一台停まってるね。この山に来てるのは間違いなさそう。
あとは・・・。
ドローンとかで上空から撮影するのが流行ってるけど、こんな感じなのかな。
岩山全体を見渡しても判らないから、小さな谷間とかも点検していかないとね。
娼館用に切り出した大理石に水晶が混ざっていたから、その辺りなら珪砂成分があるんじゃないかな?
いたいた!
四角く切り出した跡に二人して居た。
よし、着陸だ。
「トーマス、アリアこんにちは。」
「ヒカリさん、元気になられたんですか?」
「うん。アリアに相談があって、ニーニャと二人で飛んできたよ。」
「本当に空を飛んできたかのような、早業ですね」
「うん、まぁ、移動方法は夕食会のときにでも。」
「それで、どういったご用事でしょうか?」
「ガラスを作ろうかなって」
「あら、丁度トーマスさんと相談してたところです。鉄の大量精錬には<高温炉>が必要ですけど、少量のガラスなら作れるんじゃないかって、トーマスさんと相談に乗って貰ってます。」
「ガラスの材料はあったの?」
「ここに珪砂の元となる珪石があるので、ここから掘り出せそうなんです。純度が高いので結構簡単にガラスの元になると思います。」
「切り出すの手伝おうか?粉にするのはニーニャに手伝って貰わないとダメだけど」
「は、はい。どう切り出せばいいかトーマスさんと考えてるところでした。」
「じゃ。切るね。」
サクサクサク・・・。
一辺が20cmぐらいの塊をラナちゃんのナイフで切り出して半分にした。
比重が2.5ぐらいだから、半分で10㎏ぐらいかな。
これなら持てる重さだよね。
「これぐらいでいい?もっと必要かな?」
「少し作るには十分です。すみませんが、そのナイフは何なんですか?」
「ニーニャに作って貰ったナイフに魔術コーティングしてもらった。」
「そ、そうですか・・・。」
「アリアさんはヒカリさんとの付き合いが短いから判らないだろうけど、この人はいつもこうだから気にしててもしょうがない。」
「トーマスさん、それフォローになってないよ。アリアは錬金術師でさ。科学的に説明できないことが納得いかないんだから。」
「世の中、科学で説明できないことの方が多いだろ?例えば<どうして魔術が使えるか>とか<どうして空が青いのか>とかな。」
「そうだねぇ。いろいろと不思議なことで満ち溢れてるね。
空が青いのはレイリー散乱だけど、この国にはレイリーさんがいないから説明が難しいね。」
「ヒカリさん!空が青いのは、海の水が雲になってるのではないのですか?」
「あ~。悪くないよ。雲とかの微小な粒子が原因の一旦を担ってるから。でも、海が青いのと空が青いのは全然別の理由だよ。」
「そ、そうなんですか・・・。錬金術は部屋でする学問が多いので、自然現象は想像でしか説明できません。まだまだですね。」
「うん。そのうち皆で勉強すればいいよ。今日はトーマスさんもニーニャもいるから、このままガラスを作っちゃおう。」
「「「ハイ」」」
ーーーー
念のため4個切り出して、一人一個ずつ馬車まで運ぶことにした。
この岩山が想像以上に広くて大きくて、たかが一個10㎏ぐらいなんだけど、<身体強化>してないと、結構面倒な重さ。飛んだり、重力遮断ができることは、夕食メンバー以外には秘密だから、ここは我慢しておこう。
アリアさんは、必死に持ち方とか変えて運んでる。トーマスさんもニーニャも余裕なんだよね。ただ、トーマスさんが誰かの荷物を手伝うと、こっちは女性3人だからね。下手に声を掛けにくいのはあるんだろうね。
そんな道中の気を紛らわすためにアリアとこの後の準備の相談を始めたよ。
「アリア、この石を関所まで持って帰ったあと、どんな準備が必要?」
「まず、この珪石を粉にします。そこに竈の灰と石灰を混ぜます。長石ですと、天然のガラス成分となるので混ぜなくても融点が下がります。
次に、耐火煉瓦などで組み上げた炉で、粉を溶かします。鉄も溶け始めますので道具類は注意が必要です。」
「耐火煉瓦はトーマスが作ってくれるよ。だけど、鉄より高い温度で溶けない金属ってのは難しいね。ニーニャ何かアイデアある?」
「白金なら1800℃近くまで溶けないぞ。でも、非常に高価だし、細工しにくいんだぞ。」
「ヒカリさん、耐火煉瓦を焼く前に、茶碗のような形を作っておけば、その粉が融けたものを入れる器になるのではないでしょうか?」
「トーマスさん、そうなんです。耐火煉瓦のような素材にガラスの元となる粉を入れておくと表面から先にガラスが溶け始めるんです。ただ、石はいろいろな不純物が入っているので、必ずしも思った温度で溶けるかは、やってみないと判らないのです。」
「ふ~ん。粉にして、器を作っておいて、その後はどうするの?」
「熱を逃がさない特殊な構造の炉を作って、炭をどんどん投入します。投入する係の人を別に雇わないと、火力が持続せずに途中で温度が下がって、ガラスが固まってしまいます。」
「ニーニャ、トーマス、その特殊な構造の炉は<高温炉>そのものだね。燃料の投下口、地面からの断熱、熱の反射、排熱の還流による炉内温度の維持などの工夫をすることになるよ。」
「ヒカリさん、そうなんです!熱を逃がさないだけでなく、熱い空気を戻す構造にしたり、地面側も予め断熱しておくことで、炉全体の温度が保たれるんです!」
「アリアさん、無事にガラスが融けたらどうするの?」
「鉄が融けない温度でガラスになりましたら、今度は鉄のパイプを刺して、ガラスを掬います。その融けたガラスに息を吹き込んで膨らませます。自分が望む厚さまでガラスを含ませて伸ばしたら、あとは切って開いたり、細長く延ばしたり、いろいろ自在に加工ができます。」
「それはすごいね。ニーニャ、トーマス早く作るのを見てみたいね。」
「ヒカリさん、ニーニャと一緒に小型の炉は作ってあるんだ。ちゃんとアリアさんの監修も受けているから、多分大丈夫だ。」
「アリア、それは本当なの?」
「はい。あと、言い忘れていましたが、ガラスは急激に冷やすと割れてしまいますので、ゆっくり温度を下げられる様に、別の窯も用意してもらっています。」
「そっか、じゃ、燃料を用意するのと、これを粉にしたら実験開始ってこと?」
「はい、そうなります。」
「じゃ、みんなで馬車で戻って、石を粉にしよう!燃料はちょっと考えてみる。いいアイデアが見つからなければ、木炭を大量に作るしかないね。」
「「「ハイ」」」
うんうん。
実際にガラスを作ったことがある人がいて良かった。
例え少量とはいえ、こんな大掛かりな設備を立ち上げさせてくれたって、
ランドルさんはアルさんとアリアさんを大事に育てたんだろうね。
これは、単にアリアさんの能力だけの問題じゃないよ。
ーーーー
岩山を超えて、馬車で2時間ぐらい揺られてると
あっという間に時間が経っちゃったね。
荷物を降ろしたら、一旦解散して、
明日に備えて各自が準備を進めることになった。
夕飯に入る前に、早いところラナちゃんに会って燃料の問題をなんとかしてもらった方がいいね。
<<ラナちゃん、いまどこ?>>
<<ヒカリ、元気になったのね。『ば~か、ば~か』って言ってくれる親切な人が3人ぐらいは居たかしら?>>
<<ひ、一人だけ居ました・・・。>>
<<あら、薄情者だけでは無かったのね。次から死なずに済むわ。ところで何の用かしら?>>
<<熱源の作成にご協力頂けないかの相談です。>>
<<戦争に使うものかしら?>>
<<いいえ、ガラスという素材を作るのに、材料を溶かす必要があり、2000℃近い高温が必要なのです。>>
<<そのガラスで戦争をするのかしら?>>
<<直接戦争には使いません。また、間接的にも戦争に結び付くには何段階かのテクノロジーの発展が必要であるため、ガラスとその周辺技術単体で高度な戦争への転用はなされません。>>
<<ヒカリの先読みは大体正しいから信じるわ。具体的に何をすればいいのかしら?>>
<<北東の方向にある岩山に<高温炉>と呼ばれる熱効率を高めた<窯>があります。そこでガラスの元となる粉を溶かすのですが、その熱源の供給が必要です。
炭焼きをして、準備をすることも可能ですが、そのためには膨大な木々を伐採して炭焼き作業を行う必要があります。
一方で、この領地の農場を発展させるためには、森林を伐採すると土壌の流出などにより、良い発展が望めません。
現在農場は妖精の長達のおかげで非常に良好な成果を出し始めています。そこを壊すことなく技術の進歩を促したい次第です。>>
<<ふ~ん。ヒカリは人間にしては良く考えてるじゃない。森の一生なんて、貴方が生きているうちにはどうにもならないわ。貴方の死んだ後のことを考えているなら、私が支援する意味はあるわ。今からそこへ行くわよ。>>
<<は、はい!>>
本当に深く洞察している方なんだなぁ。
お妃様とは別の意味で怖いよ。
念のために<光学迷彩><重力遮断>をしてから<飛行術>っと。
ラナちゃんを上空で探すと、ぼや~って光る物体を発見。
<<ヒカリ、私はここよ。案内しなさい>>
<光学迷彩>すら関係なく、私の所在が分かるのか。
もう、妖精の長の本気は人間がどうこうできる世界じゃないよ・・・。
<<こちらになります>>
割と高速で飛行移動して、昼間に馬車へ乗り込んだ場所を目印に、
下見をしていた高温炉のミニタイプがある場所へ着陸する。
「これね。熱源はどこへ設置して、どこで調整するのが良いかしら?」
「先ほどのライトさんの戦争技術への発展抑止策を考えますと、
<エネルギー源としての魔石投入場所>
<エネルギー変換の印>
<操作パネル>
この3点の構成で行うのがいいと思います。」
「それは良い案だともうわ。
ヒカリの仲間達や妖精を除いて、そう簡単に魔石生成はできないし、
私の<エネルギー変換の印>が無ければ、移植も出来ない。
もしこの印を移転しても大量生産はできないわ。
ヒカリやステラが読み解いたとしても、読み解いた人間しか効力は発揮できないから機密性は高いままよ。
ヒカリも段々と、この世界との付き合い方がわかってきたじゃない。」
「ありがとうございます。皆さんのアドバイスや指導のおかげです。」
「魔石は貴方が準備して。私は魔力を元にナノ核融合反応を起こさせる印を描くわ。」
「核融合ですか?」
「原子レベルで制御すれば出来るわよ。
ヒカリは原子の波動関数を元に衝突予測を導いて制御できないのかしら?
それさえできれば、その電磁波エネルギー以外の核子の飛散位置に電磁場を発生させて効率よくトラップできるわ。」
「全く判りません。私の浅薄な知識を恥じるばかりです。」
「ヒカリでも解からないことがあるのね。簡単にコピーされても困るし良かったわ。ヒカリは魔石を作っておいて。大きさは・・・。クッキーぐらいのを5個作れば一年は維持できるわ。」
「分かりました。直ぐ作ります」
テニスボールサイズぐらいでいいかな?
5個なら直ぐ作れるね。
ちゃちゃっと作っちゃおう。
ゴロゴロゴロ・・・。
「できました!」
「あら、速いわね!でも、その大きさならそんなに要らないわよ。
ところでこの煉瓦、ちょっと硬いわ。ヒカリのナイフを貸して。」
「ハイ!」
クロ先生同様に訳の分からない紋様をずらずらとナイフで彫り込む。
今度は制御パネルなのかな?炉の外側まで線を結んで別の印を掘る。
「できたわよ。試してみる?」
「ガラスの元となる石がありません。」
「この岩山で採ったのでしょ?採ってきてよ。その間に温めておくから。」
「ハイ!」
ナイフを返してもらって、とっとと取りに行く。
お試しって言うし、昼間と同じぐらいの大きさで良いよね。
予備含めて2-3個かな。
<重力遮断>してから抱えて持ち帰る。
「待ってたわよ。そこに入れて」
「ハイ」
「ここの印のところに手を当てて、念じてね。
一応、水が氷る温度=0℃、水が沸騰する温度=100℃
っていうヒカリの世界の温度基準で思い浮かべた数値で制御できるわ。
ヒカリが『1000℃になれ』って念じれば、熱源が煉瓦表面を1000℃まで上げてくれる。魔術が全く使えない人や、温度の概念が無い人には使えないわ。
その辺りはヒカリが教えてあげてね。」
「分かりました」
「まず、1000℃からね。」
うわ。いきなり煉瓦が赤くなるよ。
これ、煉瓦が先に融けたりしないよね?
トーマスさんの焼き煉瓦に期待するしかない。
酸化アルミナ系のセラミクスなら2000℃くらい耐えるよね?
「ヒカリ、融けないわ。もう少し上げるわよ」
「ハイ!」
「1400℃で表面が少し粒粒に融けて来たわ。粉なら熱容量と接触面積の関係で十分に融けそうね。」
「あ、ありがとうございます!」
「制御温度だけ下げて帰るわよ。この石は明日冷えたら取り出して頂戴。
ヒカリと一緒にご飯を食べるのは久しぶりだから楽しみなのよ」
「ハイ!」
ふぅ~~~。
疲れた。全然わからない。理解が追いつかない。復習しとこ・・・。
<<ナビ、核融合反応と、その問題点、制御方法を教えて>>
<<整理しますので少々お待ちください>>
<<うん。>>
<<残念ながらヒカリのいた世界の核物理の技術では、
エネルギーを取り出せる意味でのナノ核融合という言葉は存在しません。
原子の動きや放出される核子の軌道を制御する技術もありません。
あくまで、太陽等の恒星でおきているプラズマ状態の物質反応を
地上にある各種手法で閉じ込めて実現するための要素技術開発に留まります。>>
<<ありがとうね。大学で学んでもいない私が判る訳ないか。ありがとね。>>
<<ヒカリがその現象を正確にイメージできれば・・・。>>
<<イメージしてエーテルさんに頼めばいいんだね。
高校までの物理では波動関数とか量子力学とか習ってないよ。
ちょっとした専門書で勉強することはあっても、
それはあくまで理論物理学であって、
本当の現象に即した物かは判別が難しいよね。>>
<<ヒカリがゆっくり時間をとれるようになったら、いくらでも付き合いますよ>>
<<そのときは一緒に手伝ってね>>
<<ゆっくり、お待ちしております>>
う~ん。
クロ先生の印なら読み解けそうなきがするけど、
ラナちゃんのは大変だ。
知識をダウンロードしてきて現象が見えるほど甘くないね。
さ、ご飯食べに帰ろう!
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
また、誤字・脱字の報告ありがとうございます。
簡単に修正ができました。
作者自身も気が付いたときはなるべく直すよう、心がけます。




