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第四話 日本の現状1950

更新遅れて申し訳ないです。

 1950年当時、大日本帝國は経済成長真っ只中だった。

 帝都東京はさらにビルの数を増し、東京駅では弾丸列車「ひかり」が大阪への発車を待っていた。日本航空輸送の中島AT旅客機は南京・漢城(金浦)と日本各地の飛行場を結び、さらに南洋にも航空路を広げつつある。中東からは八八艦隊計画の際に整備された民間造船所の船渠で完成したタンカーが石油を運ぶ。

 農村にもわずかながら自動車が姿を現わし、中規模な都市であればテレヴィジョンは珍しくない。


 「ここまでやれたとはな」

 吉田茂は葉巻をくわえながら静かに言った。

 「我々も驚いていますよ。日本がここまで繁栄するとは」

 岸信介商工大臣が満足そうな笑みを浮かべた。無理もなかろう、彼の率いる商工務省こそが日本の経済発展の原動力となった。少なくとも岸自身はそう考えていた。

 実際はそれだけではない。さまざまな好条件、政治的、技術的にも恵まれた環境があったからこその発展でも有る。1940年に開催された東京オリンピックもまた日本の経済発展の起爆剤となった。五輪開催に伴い推し進められた帝都再開発。関東大震災の後後藤新平の主導で行われた第一次帝都大開発の後継プランであるこの計画により、帝都東京は大きくその姿を変えた。さすがにニューヨークには及ばないが、この地を訪れた欧米の新聞記者は

 「トーキョーはいまやアジア一の大都会である。ロンドン・パリの両市がその規模においてこの都市に追い抜かれる日は遠くない」 

 との記事を掲載し、また、留学・視察で来日した中華民国・大韓帝国の人々は

 「ここは本当にアジアの都市なのか?」

 とあっけに取られたという。朝鮮併合が無かったためソウルは漢城府のままだが、それゆえに都市計画が遅れていたのだ。立派な洋風建築といえば中央駅か首都師団駐屯地(兼韓国軍参謀本部)くらいだった。


 「だが、繁栄の日々は終わりを迎えつつある」

 吉田は本題に入った。俺たちはちょいとばかし稼ぎすぎちまったな。合衆国はアジア方面のお客を軒並み―――ああ、奉天派を除いてだが―――掻っ攫われてカンカンだ。いつか来る大戦争のためにばかすか軍備を増強して経済破綻の二歩手前、つまりかれらはどん詰まりだ。

 岸は首相が落語好きであることを良く知っていた。そして、彼が落語の様に軽妙な口調で話したときには機嫌がよさそうに見えるが、実はとてつもなく腹が立っている状況にあることも知っていた。

 「戦争が起きますな」

 「長期戦になったら負けるな。仮に長期戦で勝っても困るが」

 吉田も岸も十分理解していた。アメリカの経済力・工業力の大きさを。つまり、必要上にでかくなっても困るが、弱体化してもらっても困るのだ。

 「やめ時が肝心ですからね、戦争てのは」

 

 帝国陸海軍はこの当時、かつてとは全く異なる軍隊へと脱皮を遂げていた。

 陸軍は総兵力35万、20個師団を中核としているが、常に定数割れを起こしている。20個師団に加え独立混成旅団やら何やらがいるので、本来であれば50万を超えているはずなのだ。ただ、それによって兵力が少ない分を火力で補う思想が陸軍で主流となり、また戦車の開発も促進された(欧米諸国の戦車がどんどん強力になっていたため、とりあえず強化したという感じだが)。

 20個師団の内12個師団は自動車化された上に砲兵2連隊を装備することになっていた。師団を減らした代わりに一個師団あたりの砲兵火力を増強した結果、榴弾砲、加農砲合わせて96門もの重砲が配備されることになり、米軍の師団火力と同等、あるいはそれ以上というレベルに達していた。小部隊同士の戦闘であれば完全に火力で圧倒している。米軍は擲弾筒を配備できていなかったし、一部で問題となっていた自動小銃の配備も、四式小銃が行きわたったことにより解決していた。

 東京瓦斯電気工業がチェコの自動小銃、チェスカー・ズブロヨフカZH-29半自動小銃をもとに開発した試製自動小銃乙型が原型となっているこの銃は当初、「命中率が悪い」とあまり歓迎されなかった。

 だが、国府軍軍事顧問団として奉天軍閥との交戦に加わった伊集院武少佐(当時)らが奉天軍に投射弾量で打ち勝った戦例を引っ提げてこの銃の採用を具申。同じような事例が数度も発生したため改良の末正式採用と相成った。

 豊富な近接支援火器、半自動小銃、そして砲兵火力。それらが自動車化された帝国陸軍は世界の陸軍将校の羨望の的と言ってもよかった。


 帝国海軍は八八艦隊計画を6年遅れで完結させ、そしてその後は狂気の産物ともいわれた「海軍拡張計画」にまい進。それでも国が傾かなかったところに日本の経済成長の恐ろしさが表れている。航空母艦も多数建造されてはいたが、陸軍に比べややドクトリンの進歩が遅れているとみられていた。実際、それは事実だった。

 なにせ各四隻の大和級・改大和級・超大和級に加え八八艦隊がいるのだから、これで時代遅れと言われない方がおかしい。空母を建造しているのは時代遅れとバカにされないため見栄を張っているのだという話まであるくらいだ。アメリカが凶悪なまでの空母機動部隊と高速戦艦部隊を整備しているが、それに対抗することができるのか、既に疑問の声も上がっていた。


 この日。大本営の陸海軍合同会議を終えた伊集院武陸軍少将は友人の大神善郎海軍少将とともに退出して食事をとることになった。

 「なあ伊集院よ。陸軍の動員はどうなっている」

 大神は上着を脱ぎながら伊集院に聞いた。

 「ロクなことになってないな。ここまで国が豊かになり、雇用が創出されている今となっては軍隊に志願してくる奴は少ない。昔は仕事も少なかったから、優秀な奴がたくさんいたんだが」

 伊集院の言葉は経済大国化した国家の軍隊における弱点をついていた。軍隊に入らなければ家族が飢え死にする、という時代はもう過ぎ去ってしまっていた。ある程度大きな町に行けば仕事はいくらでもあった。

 「アメリカと戦争になっても、命をかけて戦える奴はどれだけいるだろうか」

 大神もため息をついた。海軍は陸軍よりかはまだ志願兵が多いだけましだが、それでも定数割れは激しかった。伊勢級・扶桑級は新造艦に回す人員確保のために除籍解体され、金剛級は予備役状態に置かれている。経済成長は戦力の拡充を可能にするかと思われていた。だが、ハード面はともかくソフト面で様々な問題を生じていたのだ。

 「退役された東条大将ならば、徴兵制を維持するために頑張ってくれたかもしれないが。死んだ子供の年を数えるようなものだよなあ」

 伊集院の嘆きを聞きながら大神は酒をあおった。

 「アメリカがどんな戦略をとるかだな。マーシャルにどっと全戦力を叩きつけて艦隊決戦になったらそれで終わりだが」

 「南洋群島か?あの辺りには最近工兵隊が派遣されて要塞化を進めているぞ」

 やっぱりか。大神は頭を抱えた。向こうがヒット&アウェーを繰り返そうとして戦力を小出しにし、それを各個撃破して戦力を削るような戦いができればいいんだが。

 陸海軍のエリートである伊集院と大神は気づいていなかった。

 彼らの会話の話題の中に、連合艦隊参謀三島大佐がめぐらした詭計が隠されていることを。

詭計というべきなのだろうか、この作戦…。

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