表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/17

第三話 星条旗のもとに

テストが一段落したので、何とか投稿いたしました。


 ハワイ真珠湾。合衆国太平洋艦隊の母港として君臨する世界屈指の大軍港である。今ここの狭い湾口に入ってきた大型空母、CVB-9「ゲティスバーグ」は彼女に将旗を翻す男を短艇で送り出した。

 アーレイ・アルバート・バーク中将。第71任務部隊司令官を務める俊才である。彼は「31ノット・バーク」と呼ばれる水雷屋であり、艦隊参謀長を務めるシャープな頭脳をも持ち合わせていた。ゲティスバーグ級を中核とした第71任務部隊編成に際して、

 「搭乗員資格を持たぬ彼に機動部隊を与えるのか」

 と反対意見は強かった。しかしながら合衆国艦隊司令長官チェスター・ニミッツ大将、海軍作戦部長レイモンド・エイムズ・スプルーアンス大将は反対を押し切りバークに最強の機動部隊を与えた。つい先日までハワイ沖で行われていた演習においてバークは上官たちの期待を全く裏切らなかった。錬度において大きく問題のあったゲティスバーグ級空母群だったが、乗員たちは見事に鍛え上げられていた。搭乗員たちもまたしかり。

 (だが)

 バークはその表情を曇らせた。あれほどの空母群をそろえて大演習をやるとは、日本を刺激しすぎるのではないか?確かに我々の航空戦力は圧倒的だ。一隻当たり120機の搭載能力を持つあの最新鋭空母部隊はひとたび命令が下れば強力無比の破壊兵器と化すだろう。日本海軍は空母戦力でわれわれに劣っている。だが、彼らはトーゴ―の弟子たちなのだ。戦艦数で劣っていた日本海海戦も、巡洋艦以下の総合戦力、そして艦隊運用能力で覆したではないか。まあ、旅順封鎖、黄海海戦など、日露戦争で彼らはへまをしていることの方が多かったのだが。


 「よく来てくれたな。アーレイ。何か飲むかね」

 「あなたと同じものを、ソック」

 太平洋艦隊司令長官、チャールズ・「ソック」・マクモリス大将はその怪異な容貌を緩めた。口さがない連中は彼を「オペラ座の怪人」というが、まさにそうだとバークは思っている。もっとも、彼ら高級士官は敬意を表してマクモリスのことをソックと呼ぶのだが。

 「どうかね、新着の空母は」

 マウンテンブルーのコーヒーを口に含み、喉の奥に送り込んでからバークは答えた。そうですね、それなりにみられるだけの錬度にはなってきたと思います。しかし日本とやりあうとしたらまだまだでしょうな。

 「そうかね」

 といってマクモリスはバークに背を向け湾を見下ろした。太平洋艦隊司令部の建物は湾を見下ろす位置に立って、いるのだ。かつては真珠が取れたことからその名がついた溺れ谷には今艨艟どもが巣食っている。今回結集した空母は「ゲティスバーグ」級18隻、「アラスカ」級巡洋戦艦を改装した「カウペンス」級中型空母4隻、「インディペンデンス」級軽空母8隻。空母だけで30隻。巡洋艦以下の艦艇は数えるだけで嫌になるくらいである。

 「ソック。あなたはどう思われますか」

 マクモリスはその狂相をさらに凶悪なそれにして答えた。

 「何とも残念なことだがね、アーレイ。俺たちはおそらく日本艦隊の咢に突撃することになるだろうな。ワシントンのスプルーアンス作戦部長から聞いた話だが、太平洋艦隊は戦前のオレンジプランに従って進撃することになる。それをすでに知っている日本は南洋の根拠地を要塞化しているのだと」

 「そいつは困りましたな。レザーネック連中がどれだけ血を流すことになるか」

 「そうだ。オレンジ計画に従って進んでいけばすさまじい数の死傷者を出すことになる。我々は開戦第一撃で彼らの戦意を砕かねばならない」

 バークはすぐに悟った。

 「それで、我々はどこを叩くのです。横須賀ですか、それとも呉?」

 


 東京の海軍軍令部。小沢治三郎軍令部長は楽しげに報告書を読んだ。

 「三島の奴、なかなかやってくれるではないか」

 三島を連合艦隊に送り込んだ男は静かに笑い声を漏らした。わざと偽の情報を流すのは兵法の常道だが、奴は実際に南洋根拠地の要塞化をやった。金も時間もかかったが、各地に送り込まれた諜報員情報によるならば米軍はその策に引っかかっている。素晴らしい。あの名将たちを罠にかけるとは。 

 小沢は壁にかかった太平洋の地図を眺めた。さあ来い合衆国海軍。貴様らの機動部隊を日本近海に引きつけて孤立させ、沈めてやる。


 太平洋上、第一艦隊旗艦、「紀伊」。第一艦隊司令長官、早川幹夫中将は参謀長の吉川潔少将とともに砲撃演習を指揮していた。独立旗艦「播磨」を除けば間違いなく最強を誇る紀伊級戦艦は基準排水量115000t、満載排水量134000t。全長340m、全幅45mの巨体に50口径51cm砲9門を搭載している。もちろん、主砲のみならず対空装備も充実している。あまりにも巨大すぎるがゆえに運用しにくい「播磨」よりも重宝する戦艦であった(あくまでも戦艦として、であるが)。

 今巨艦は同型艦「尾張」「相模」「肥前」を従えて波濤を蹴る。

 「なあ、参謀長」

 早川は艦橋の窓を通して水雷戦隊を眺めながら吉川に話しかけた。

 「なんです、長官?」

 「いやあ、妙なものだと思ってしまってな」

 確かに妙なものだな。吉川はそう思った。早川も吉川も水雷屋だった。おかしな話だ、砲戦部隊たる第一艦隊の司令長官と参謀長がそろって水雷屋とは!

 「まあ、それはそうですな。本来なら私なんかよりも黒田(黒田吉郎少将、海兵52期)あたりの鉄砲屋に任せるべき仕事でしょうに」

 早川はそれにうなづきながら考えていた。おそらく水雷屋が第一艦隊を任された理由はこうだろう。水雷屋は一般的に駆逐艦、巡洋艦の艦長職を経験することが多い。それに引き替え、砲術士官は艦長職に就くことはあまりない。就くとすればそれは戦艦の艦長になった時だ。つまり、それだけ水雷屋は艦隊運動の何たるかについて広範に知っているということになる。つまり。

 「実戦的配置が行われているのかもな」

 吉川が息をのんだ。従来の慣例を無視した実戦的な人事。それが行われるとすれば、すなわち。

 「開戦、ですか」

 なんてことだ。彼は頭を小さく振った。彼は誰にも聞こえない、小さな声でつぶやいた。

 「さて、親愛なる吉川君。素晴らしき、糞のような武力闘争にようこそ」

史実の人物が大挙登場いたしました。早川中将と吉川少将に死亡フラグが…


ご意見、ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ