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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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07-特訓

「特訓、とは?」


 公爵様に恐る恐る尋ねてきた。


「白い結婚を回避するために、公爵様には私に慣れてもらいます」


 あ、公爵様が白目をむいた。

 ぐらりと身体が傾いだ瞬間、その両肩をラディウスが掴む。


「旦那様、耐えてください」


 公爵様が持ち直した。姿勢を正して、「続けてくれ」と先を促された。


「まず、呼び名を変えましょう。私はジーク様とお呼びいたします。ジーク様は、私をレティとお呼びください」


「そんな!」


「これは、早急に対処しなければならない問題です。反論は聞けません」


 正直、呼び名を変えるくらいで文句を言わないでほしい。


「そんなに急ぐ必要はないのではないか? もう少しゆっくり……」


 なおも言い募ろうとするジーク様に、私はぴしゃりと最悪の可能性を突きつける。


「鑑定魔法をかけられる可能性がございます」


 私の言葉を聞いて、ジーク様が愕然とした表情を浮かべた。


「まさか、あれは人の尊厳など何も考慮しないのだぞ? それに恐ろしく金がかかるはずだ」


「常識が通用するような相手ではございません」


 バカはバカらしくバカなことをするから、バカと言われるのだ。

 ユリウスの婚約者として、隣にいたころ、ユリウスのお気に入りだった儀礼用の剣を紛失した事件があった。

 あのバカはこともなげに、私に対して『お前が怪しいから、鑑定魔法を使うか』と言ってのけた。

 この世界には魔法があると知ったときは胸が躍った。だけど、魔法が使える人間はごくわずかで、私には使えなかった。

 この世界の鑑定魔法は、鑑定結果が空中に文字として表示される。名前から、来歴、秘匿したい情報まで——ありとあらゆる情報が強制的に開示される。

 そんなものを軽々しく、『使う』と言ったのだ。

 結局、城で働く使用人たちを総動員して捜索し、剣を発見した。

 ユリウスが自分で持ち出し、それを忘れていたのだ。後で王妃陛下にこっぴどく怒られたと聞いたので、溜飲は下がったけど。


「わ、わかった」


「ご理解いただけてなによりでございます。では、早速やってみましょう。ジーク様」


 私はにっこりと笑って、ジーク様の逃げ道を塞ぐ。


「れてぃ」


 ジーク様は、たった一言を発するのに、ずいぶんと時間をかけ、発した瞬間に気を失った。

 私は思わず「先が思いやられる……」と呟く。できた使用人たちは、聞かなかったふりをしてくれた。





 翌日、ラディウスが屋敷内を案内するために私の部屋を訪れた。アミュレを伴って玄関ホールに繋がる階段に向かう。

 昨日は幕で隠されていた壁が露わになっている。そこには巨大な絵画が飾ってあった。高さは私の身長を優に超える。


「これは……」


 近づくまで大きな額によく阻まれて見えなかった絵は、踊り場まで降りたことで全容を確認することができた。


「私、ですわね……」


 エルデンライヒ王国では、玄関ホールに当主や家族の絵を飾るのが一般的だ。

 それが、一番目立つ位置に私の肖像画が飾られている。この構図は三年前に描かれたものに似ていた。


「ジーク様の肖像画より大きいなんて」


 よく見たら、端にひっそりとジーク様やご家族の絵が飾られていた。

 これでは誰がこの屋敷の主人かわかったものではない。


「ラディウス、歓迎してくださるのは嬉しいけど、これはやりすぎではなくて?」


 そう声をかけると、ラディウスは眉尻を下げた。


「奥様、こちらは三年前からこの場所に飾ってあります」


「どういうことかしら?」


 三年前はジーク様と一切関わりがなかった。このような目立つ場所に、私の絵が飾られる理由がない。


「旦那様が、『いつも女神のお姿を視界に入れたい』と望まれたのです」


「……」


「昨日休憩された応接室も、普段は奥様の絵姿が飾られています」


 頭を抱えたくなるのを、精神力で押さえつける。


「昨日は、どうして隠していたのかしら?」


「旦那様からのご指示です。引かれてしまうと困るから、と。……まあ、無駄な作業でしたな」


 後半のセリフは独り言のように小さかったけど、しっかり聞こえてしまった。

 ラディウスは割と毒舌なのかもしれない。


「ラディウス、私の絵は全て片付けてほしいわ」


「理由をお伺いしても?」


 ラディウスは高位貴族に仕える使用人らしく、表情を崩さなかった。


「ジーク様はこの絵を見ては、私への信仰心を募らせていらっしゃるようなので」


「なるほど」


 今度は感情が声に乗った。


「旦那様へ確認いたします」


「ええ、お願いいたします」


 私は貴族の笑みを浮かべて、鷹揚に頷いた。





 夕食後の時間はジーク様との特訓の時間としてもらった。

 ジーク様の負担にならないよう時間は短い。


 ——コンコン。


 ノックの音がしたので、アミュレが対応する。

 ジーク様が侍従のユーグを伴って入ってくる。


「れ……貴方は、ラディウスに絵を片付けろと言ったそうだな」


 不機嫌そうだ。怒りがあっても、私の名前を呼ぶことはできないらしい。


「はい。必要ございませんので」


「必要だ!」


 強い口調で反論された。私がじっと見つめると、途端にたじろぐ。


「必要ございません」


 私は表情を変えず、ジーク様に伝える。


「しかし……」


 それでもまだジーク様は食い下がった。私はそれを毅然とした口調で切り捨てた。


「そんなに私の顔を確認したいのであれば、生身の私をご覧になってくださいませ」


「貴方の……」


 ジーク様が私の顔を見つめる。にこりと微笑んでみた。


 パタリ。

 倒れるジーク様を見ながら、私はもう一度ラディウスに絵の除去を指示しようと決めた。

 

 


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