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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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5/12

05-初夜

 少し早めに用意された夕食は、味付けが工夫されていてとても食べやすかった。

 公爵様の気遣いに心がじんわりと温かくなる。


「この野菜は初めて食べます。ダグラーゼ領ではよく食べられているものですか?」


「……そうだ」


「……」


 肝心のご本人は、終始この調子で会話が続かない。

 ちらりと給仕をする侍女たちに視線を向ける。視線に気づいた侍女がにこりと微笑んだ。私も笑みを返す。好意を感じる。

 公爵様が私を歓迎していないのに、使用人だけ歓迎していることは通常ありえない。

 王太子妃として、人を見ることには慣れているはずなのに。

 

 ……公爵様の心がわからない。





 夕食後、やはり盛り上がらない会話を終えて夕食室を出た。まるで一問一答をしているようで、何のために会話を続けているのかわからなくなった。

 公爵夫人として用意された部屋に入り、扉が閉まると自然とため息がもれる。公爵邸に着いてからの妙な空気に緊張していたようだ。

 控えていたアミュレがすぐに紅茶を淹れてくれた。ミルクをいつもより多めに入れた紅茶は優しい味がした。


 落ち着いてから、夜の支度に入る。

 身体を清めたあとは、侍女たちに念入りに肌を整えられ、香油を塗り込まれる。

 いつもとは違う夜着に、今夜が初夜なのだと実感した。

 夜着は、薄い布を幾重にも重ねた繊細な作りだ。光に透けて身体の線が浮かび上がる。

 前世だってこんな扇情的な衣装を身に着けたことはない。

 けれど、初対面同然で身体を合わせるのであれば、このくらいの刺激は必要なのかもしれない。

 公爵夫人の部屋は、夫婦の寝室とつながっている。

 夫人側の扉から寝室へ入り、ベッドへ腰掛けた。胸に手を当てると、鼓動が伝わってくる。

 程なくして、公爵様側の扉が開いた。

 バスローブのような簡単な作りの夜着を羽織っている。

 公爵様はベッドに座る私に気づくと、たたらを踏んで閉じたばかりの扉に後頭部をぶつけた。


「公爵様?! 大丈夫ですか?」


 慌てて公爵様に駆け寄ると、わかりやすく顔ごとそらされた。その様子を見て気づいてしまう。

 歓迎、されていなかったんだ。

 ……見るのも嫌なほど。

 今まで感じた気遣いは、婚約破棄されたあげく、下げ渡された私への同情だったのだろうか。


「……公爵様、どうか今夜だけでいいので情けをかけていただけないでしょうか?」


 それでも私には、公爵様と正式な夫婦として認められる必要がある。

 顔を背けたままの公爵様に近づき、その手を取った。そのまま自らの胸の上に導く。


「っ……! 貴方がそのようなことをする必要はない!!」


 ビリッと音がするほどの勢いで手を外され強い口調で拒絶される。……ん? ビリッ?

 下を見ると、繊細な作りの夜着が破れていた。白い胸元があらわになっている。自分で言うのもなんだけど、大きさ、形ともに申し分ない。


「なっ、違っ!」


 公爵様は慌てたように手を振り回していたが、ふとその動きが止まった。

 ぐるんと眼球が上を向き、まぶたが落ちきらないまま、後ろにゆっくりと倒れ込む。

 ガンッ、と大きな音を立ててまた扉にぶつかった。

 そのまま床に倒れ、動かない。


「え……、公爵様? ちょ、公爵様——!!

 だ、誰か————!!」


 屋敷に私の叫びが、響き渡った。





 お抱えの医師が夫人側の扉を使用して寝室から出てきた。開け放したままの扉の奥には、公爵様が眠っているのが見える。

 私は破れてしまった夜着から別の服に着替え、公爵夫人の部屋で待っていた。

 部屋の中には、ラディウスや侍従、アミュレが待機している。


「……気絶、でしょうな」


「気絶……?」


 公爵様の容態を尋ねると、医師から返ってきた言葉に理解が追いつかなかった。


「命に別条はありません。感情が昂りすぎると、たまにあります」


「た、たまに……?」


 それは、大丈夫なのだろうか?

 倒れる直前の行動は……、私に触れることすら嫌だったということ?

 エスコートの時は大丈夫だった。手なら問題ないということ? それとも、自ら触れさせるような行動が悪かった?

 相当深刻な顔をしていたのだろう、医師が気遣わしげに声をかけてきた。


「奥様、旦那様はあな」「待て」


 医師の言葉を止めたのは、ラディウスだ。彼は首を左右に振る。医師はそれを見て口を噤んだ。


「旦那様が、ご自身でお話しします」


 何か事情があるようだ。私はその言葉に頷いた。

 それから四半刻ほどすると、寝室からうめき声のようなものが聞こえてきた。

 ラディウスが様子を見に行く。

 途端、取り乱したような公爵様の声が聞こえた。


「ラディウス、俺は死ぬ! 神罰が下るに決まってる!」


「旦那様、落ち着いてください」


「無理だ! 女神のご尊体に触れてしまった! やはり俺には過ぎた褒美だったのだ……」


 女神? 何のことだろう?

 心配になって、そっと扉から寝室を覗き込む。

 公爵様がラディウスの肩を掴んでいた。すごい勢いで揺さぶられている。


「公爵様……」


 声をかけると、ピタリと動きが止まった。ギギギと音がしそうなほど、ぎこちない動きでこちらに顔を向けてくる。


「い、今のを、聞いたのか……?」


「? はい……」


 パタリ。

 今夜、二度目の気絶をされた。

 


初日投稿分のお話まで読んでいただきありがとうございました。

明日からは1日1話18:10投稿予定です。

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