47-王都の友人
結婚式の日取りが無事に決まったので、仕立て屋に連絡を入れる。
ダグラーゼ領までの派遣契約を、ダグラーゼ王都邸で行うことになった。
これは問題なく締結され、当日を待つばかりとなった。
「レティシア様!」
フェリシア様との約束の日。
アイゼンヴァルト侯爵邸へ訪れる。応接室に案内されると、フェリシア様が笑顔で迎えてくれた。
アイゼンヴァルト侯爵家とモルゲンレート侯爵家はともに歴史の長い侯爵家だ。王族の婚約者同士とあって、顔を合わせる機会も多かった。
もっとも、一番話す機会が多かったのはユリウス関係に振り回されているときだ。最後の方は目だけで通じ合う絆が生まれた。
「フェリシア様、お久しぶりです」
挨拶をすると、フェリシア様が両手で私の手を包みこんだ。花がほころぶような笑顔を浮かべる。
「お会いしたかったです。今日はたくさんお話しいたしましょう」
「ええ、ぜひ」
私も微笑んで返した。フェリシア様の侍女が淹れたお茶を飲みながら、二人で談笑する。
私が嫁いだあとの王都の様子を教えてもらったり、ダグラーゼでの生活を話したりと、話題は尽きない。
「レティシア様は、本当に良い御縁を結ばれたのですね」
「そう思いますか?」
「ええ、もともとお仕事中は笑顔が多かったですけれど、ダグラーゼ領のお話をされるときは本当に柔らかい表情をされますもの」
仕事中の笑顔とは、恐らくハイで極まっている状態のことだろうな……。確かにそれと比べたら、ダグラーゼの生活は快適過ぎた。趣味の時間も、夫を愛でる時間まで十分ある。
「それに、レティシア様が情熱的な方だと初めて知りましたわ」
少し頬を染め、フェリシア様が目を細める。夢見る乙女のような表情になぜか嫌な予感がする。
「それは、どういう……」
「アルベルト様に聞きましたの。先日の事件、ダグラーゼ公爵と衆人環視の中で熱い抱擁を交わしたとか。私もその場で拝見したかったですわ」
アルベルト殿下——!!
なんてことを! それは、絶対言わなくていいやつ!
「あ、あれは! そんな。熱いというか、思わずというかっ」
「まあ! ふ、うふふ」
私があわあわと言い訳をすると、フェリシア様がこらえきれないというように笑い出した。
「……フェリシア様?」
「そのように、レティシア様のお心を乱せるのがダグラーゼ公爵なのですね」
「~~~~!!」
いや、違う! と言おうとしたけど、違わない。ジーク様のことになると、私は平静ではいられなくなる。
「もちろん、聞かせていただけますわよね?」
押し黙った私の様子を見て、フェリシア様が楽しそうに目を細めた。
「レティシア様はダグラーゼ公爵のどのようなところを好ましいと思っておられるのですか?」
「二の腕……あ、いえ、まずはジーク様は書類仕事は苦手なようなのですが、私に丸投げしようとしないところですわね。あとは、騎士として戦いに赴くときの眼差しがとても素敵で……」
「『まずは』で仕事のことが出てくるのがとてもレティシア様らしいですわね。……二の腕?」
「うぐっ」
「……レティシア様?」
フェリシア様がとても美しい微笑を浮かべている。あ、圧が強い!
「……実用的な筋肉といいますか、私はどうやら鍛えている殿方を好ましく思うようなのです」
「王都の騎士は駄目なのですか?」
「そういう目で見たことはございませんね。当時はアレの婚約者でしたから」
婚約破棄がなければ、一生知ることがない癖だったのだろうな、と思う。
「つまり、ダグラーゼの騎士たちは好ましく感じたのですか?」
「え? そんなことはないですわね。ジーク様だけ……。っ!」
言葉に出して、気がついた。はっとしてフェリシア様を見ると、慈愛の微笑みをたたえているのが、逆にいたたまれない。
「わ、私のことよりも、フェリシア様。これから、ますます大変になるかと思いますが、どうかアルベルト殿下とともに乗り越えてください」
「そうですわね。私、レティシア様がダグラーゼへ嫁いだ時点で、父に言われておりましたの。……覚悟をするように、と」
その時のことを思い出したのだろう、フェリシア様の瞳が翳った。
「アルベルト様は、元王太子に対して『超段階的教育』という名の再教育方法をとっておりました。しかし、元王太子はなかなかそれがご自分のためであると理解してくださらず……。それなのに、国王陛下は元王太子にやんわりとお伝えしていたとは聞いていたのですが……」
フェリシア様が私がいなくなったあとの王城での様子を語ってくれた。
やはりユリウスは私には理解のできない人間だったらしい。
「お仕事を処理する力はお持ちなのに、いつまで経ってもアルベルト様や私の負担は減らず、それどころか王妃陛下に『ユリウスを支える気はないか?』と打診までされて……」
その言葉に私は目を見開いた。私が早く嫁がなければ、エマーレを王妃陛下が『処理』する可能性があると思っていた。
けれど、私がいなければそれをしないだろうとも。
違った。フェリシア様が代わりに危険な場所に立たされていた。
「その時に、王妃陛下に申し上げましたの。国へ尽くす覚悟はございます。けれど、私はアルベルト様を愛しております、と」
「まあ……!」
王妃陛下相手になんてかっこいい。フェリシア様は見た目がおっとりとしているけど、とても強い女性だ。
「それで、王妃陛下はなんと……?」
「ひと言、『わかりました』とお返事いただきました」
フェリシア様が王妃陛下に自分の気持ちを告げたあとも、エマーレが『処理』されることはなかった。
そして、しばらくしたころにあの事件が起きたらしい。
「フェリシア様の言葉が、未来を変えたのですね」
「そうでしょうか……。いえ、そうだと思いたいですわね。アルベルト殿下の隣に並べることは、私にとって僥倖なことですから」
フェリシア様が美しく笑う。同性だけど、その笑顔に少し見惚れてしまった。
「アルベルト殿下は今、兄君のことで気落ちされております。レティシア様の一件があったあとも、兄君をなんとかしようと奮闘されておりましたから……」
そこでフェリシア様は苦笑した。
「私にとっては厄介な案件でしたけれど。それでも、私は私のすべてで彼を支えるつもりです」
「……アルベルト殿下とフェリシア様なら素晴らしい治世を築けると信じております。私も、辺境の地よりお支えします」
私の言葉にフェリシア様が頷いた。
「ありがとうございます。レティシア様の支えがあるのは心強いですわ」
二人で顔を見合わせて微笑んだ。
フェリシア様とはまた手紙のやりとりをすることを約束して、屋敷をあとにした。
馬車の中から、アイゼンヴァルト侯爵邸を眺める。
前世では都合のいい神頼みしかしなかった私だけれど。
大切な友人が幸せでいられるようレリウム神に祈りを捧げた。
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