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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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45/63

45-反省

 ユリウスの弾劾後、必要な手続きを終え、ダグラーゼ公爵家の馬車で王都の屋敷へ移動した。

 本来の予定なら王都に着いた当日に両親を訪ねる予定だったけど、父も余計な仕事が増えたため翌日に仕切り直しとなった。

 ダグラーゼ公爵家の王都邸は領地邸とは違い、エルデンライヒ王国ではよくある建築様式で建てられていた。大きさも公爵家としては随分と小さい。社交をほとんど行うことがなく、一年の大半を領地で過ごすダグラーゼ公爵家にとって、この屋敷は必要最低限の機能しか持たせていないのだそうだ。

 ここにも実利を重んじるダグラーゼの血が表れていた。


「レティシア様、紅茶をご用意しました」


 アミュレがミルクティーを淹れてくれた。お茶請けは私が王都に住んでいたときからお気に入りのお菓子だ。アミュレの気遣いに嬉しくなる。


「アミュレ、ありがとう……」


「とんでもございません」


 アミュレは私の感謝をすました顔で受け取ったあと、ふわりと口元を緩める。


「レティシア様がご無事に戻られて安心いたしました」


「心配かけたわね……」


 紅茶を一口含む。優しい味わいにホッとした。

 ひと息ついたあとは、少し一人にしてもらった。ソファに座って、クッションを抱きかかえる。

 怖かった。ジーク様は私が連行されたあと、すぐにモルゲンレート侯爵邸へ向かい、父と共に抗議文を出してくれた。

 王家の面々は、ユリウスを再教育しようとしていたらしい。それと同時に、おかしい挙動があれば、すぐに動けるよう監視もしていたという。

 今回の事件があまりにも早く決着したのにはそういう背景があったのだと、馬車の中でジーク様が教えてくれた。


「それにしても」


 私はクッションに顔を埋めた。


「やらかした……」


 王家の面々や父の前で、礼節がスッポ抜けた。ジーク様しか見えていなかった。


「恥ずかしい……」


 明日、どういう顔で父の前に立てばいいかわからなくなった。



※



「ふ……」


 夕食後のジーク様との時間。

 紅茶を淹れる隙も与えられず、ジーク様に抱きかかえられた。

 そのままジーク様の膝の上に横向きに座った形になり、キスをされる。

 息継ぎすら惜しむようなキス。溺れそうになりながらジーク様の服を掴んだ。

 やっと唇が離れたと思ったら、ジーク様の目が不安げに揺れていた。


「レティ……」


 強く抱きしめられた。もう二度と離すまいというように。

 不安にさせてしまっていた。結果的に助けてもらえたけど、あの選択は失敗だった。

 想像の埒外にある人間であるなど考えもしなかった。


「ごめんなさい……」


 こぼれた言葉は甘えたような謝罪。

 抱きしめる腕が緩んだ。ジーク様の手が頬に触れる。


「肝が冷えた。あのようなことは二度と経験したくないな」


 父と連名で抗議文を出したあと、貴族の容疑者を収監する施設へ面会を申し込んだそうだ。

 しかし、そこに私の名はなかった。

 即座にアルベルト殿下へ伝書鳩を飛ばした。

 アルベルト殿下はすぐに調査を開始してくれて、そこで騎士の証言を得た。そして、王族用の幽閉室へ連れて行かれたことがわかったのだという。

 もし、アルベルト殿下へ連絡を取らなかったら?

 そう考えるとゾッとする。


「私も、もう嫌です」


「ならば、もうこんな無茶はしないでくれ。俺も、もう許さない」


 返事はできなかった。言葉も吐息もすべて飲み込まれる。

 やっと解放されたころには息が上がっていた。


「ジーク様……」


 ジーク様の瞳に熱がこもっている。彼の目に映る自分も、熱に浮かされている。


 もっと触れたい。


 そう思うけど、この状況に既視感(デジャヴ)を覚えるのは気のせいか。

 え、これまた何か言ったら硬直される? 言っちゃ駄目かな?

 迷いが顔に出たのか、ジーク様が私の顔を覗き込んできた。


「どうかしたのか?」


「あ、えっと……」


 思わず目が泳ぐ。私の様子を見たジーク様の眉がキュッと寄り、眼光に鋭いものが宿る。


「まさか……」


 直前まで話していた内容を思い出し、慌てた。違う、そうじゃない。


「無茶はしません!」


「そうか。ならば良かった」


 私の言葉にジーク様の表情が緩んだ。よかった。やってもいない罪で詰められるのは嫌だ。


「そうではなくて、その……」


 熱に浮かされた状態なら言えるのに、正気に戻った状態で言うのは恥ずかしい。

 もじもじしてしまうのをジーク様が不思議そうな顔で見つめてくる。

 察しろというのは無理な話だ。


「ジーク様、そろそろ寝ましょうか……?」


 結局、婉曲に伝えてみた。寝るのならば、ベッドに移動しなければならない。


「そうだな。今日は早く休むべきだ」


 あ、これ伝わってないな。

 そう思っていたら、ジーク様は私を抱きかかえたまま立ち上がった。

 そのまま夫婦の寝室へ移動する。

 宝物のようにそっとベッドに降ろされて胸が跳ねた。

 ジーク様もベッドに上がってくる。

 そのままキスを一つ。……と、腕を引かれて倒れ込んだ。

 私の身体を抱きしめて、ジーク様が言う。


「レティ、おやすみ」


 ——やっぱり伝わってなかった!!


 悶々としていたら、時間を置かずにジーク様の腕が緩む。規則正しい寝息が聞こえてきた。

 私も諦めて目を閉じる。幸い夢は見なかった。


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