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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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44-事件の終幕

 王族の幽閉室に一人残された私は、ジーク様の顔を思い出したことで少し落ち着いた。

 ソファに移動し、改めて室内を見回す。


「逃げられそうな場所は、ないわよね……」


 そもそも王族用の幽閉室なのだから、逃亡するのも侵入するのも難しいように厳重な造りになっているだろう。

 ユリウスが意図してこの部屋を選んだかはわからないけど、私は大人しく待つしかないようだ。

 しばらくすると、ユリウスの侍従が書類を携えてやってきた。真新しい机にそれらが置かれる。確認する気も起きなくて、侍従の様子をぼーっと眺める。


「ダグラーゼ公爵夫人、こちらはユリウス様が貴方に処理するよう命じられた仕事です」


 感情を見せない声で、侍従は説明する。


「国家機密を含む内容には、封印(・・)をしてあります」


 私は侍従の言葉が耳に入った瞬間、やっと彼の顔に視線を向けた。

 ユリウスが仕事を私に押し付けたいなら、封印など意味がない。侍従は、ただ静かにこちらを見つめていた。


「夫人、あと少し耐えてください」


 侍従は私の返事を待たず、頭を下げ部屋を出ていった。

 さらにしばらくすると、今度はバタバタと複数の足音が響いてきた。

 ガチャリと鍵が外れ、扉が開く。


「ダグラーゼ公爵夫人、ご無事ですか?」


 騎士が入ってきた。私の安否を尋ねる者、机の上を確認する者と分かれていた。


「封印を確認いたしました。ダグラーゼ公爵夫人への機密漏洩は確認されませんでした」


「現在、ユリウス・サンクト・エルデンライヒ王太子殿下の権限は凍結され、夫人に対しての拘束命令も国王陛下により無効化されています」


 私はいつの間にか詰めていた息を吐く。ジーク様が動いてくれたようだ。


「あの、夫は……ジークヴァルト様はどちらに?」


「ご案内いたします」


 騎士が先導して私を案内する。部屋には入れ違うように新たな騎士たちが入っていった。机の上の書類を回収していたのが見えた。


 王の間の扉が開かれる。

 赤い絨毯。その先に、騎士に囲まれたユリウスの姿が見えた。驚いた顔をしているけど、何も感じない。

 王座には国王夫妻の姿。


「レティ」


 そんなに大きな声ではなかったのに、私の耳には飛び込んできたように感じた。

 私は立ち止まって声の主を探す。


 ——壇上にジーク様の姿があった。


「ジーク様!」


 気づいたら駆け出していた。ジーク様も階段を駆け降りて私の方に向かってくる。私はジーク様の胸に飛び込んだ。


「ジーク様、ジーク様……!」


 何度も名を呼ぶ。温かい。ジーク様が頭を撫でてくれた。


「ありがとう、ございます。助けに来てくれて……」


 見上げると、ジーク様が微笑んでいた。私もそれに安心して笑顔がこぼれる。


「ああ、レティ。無事でよかった」


 ジーク様が優しく抱きしめてくれる。私も彼の背中に手を回した。息を深く吸い込む。ジーク様の匂いがした。


「レティ」


 ジーク様とは違う声で私の愛称が呼ばれる。壇上を確認すると、父がこちらを見ていた。……気づかなかった。


「お父様も、ありがとうございます」


 ジーク様から離れて、父にお礼を言う。父は目元を和らげて軽く頷き、国王陛下の方へ向き直った。


「娘は無事に戻りました。国王陛下のご采配に感謝申し上げます」


 臣下の礼をとるのを、国王陛下が複雑そうな顔で見つめている。


「レティシア、此度の騒ぎはすべてユリウスの不徳が引き起こしたものです。貴方に咎がいくことは決してありません」


 王妃陛下が宣言したことで、私の無実が正式に証明された。その言葉に、今まで心あらずといった様子だったユリウスが顔を上げる。

 王妃陛下と私の顔を交互に見て、なぜか慌て始めた。


「それでは俺の仕事は誰がするというのですか?!」


 いや、お前だよ。思わず半眼で睨みつけてしまった。国王夫妻はユリウスの叫びに反応しない。

 父も同じようにユリウスの言葉を無視し、ユリウスの罪状を読み上げ始めた。

 私一人を捕らえるために、いくつもの罪を重ねている。


「ユリウスよ、お前はもう仕事をする必要はない」


 国王陛下がユリウスに声をかける。何の感情も浮かばない表情。対してユリウスは明らかに喜色を浮かべた。


「では、やはりダグラーゼ公爵夫人が」


「お前を廃太子とし、王族の籍を抹消する」


「は」


 ユリウスの動きが止まった。


「誰もが己の責務をまっとうする中、なぜお前は権利だけを享受できると思うのだ」


 国王陛下はユリウスのことをかわいがっていた。そのはずなのに、今国王陛下がユリウスを見る目には何の感情も浮かべていない。


「本来苦楽を共にするはずの婚約者に己の責務を押しつけた上に、いまだに所有物のように扱うお前に国王は務まらない。そればかりか私欲のために、民を巻き込むお前に権力を持たせたままでは国が傾く。

 ここまでに何度もお前に手を差し伸べた。どこかで己の過ちに気づいていれば、王籍には残してやれたものを……」


 ユリウスの口がわなわなと震えた。国王陛下の顔をじっと凝視し、国王陛下が意見を変えることはないとわかったのだろう。

 そのまま崩れ落ちた。


「連れていけ」


 国王陛下が騎士に命じる。ユリウスは騎士たちに抱えられ、王の間をあとにした。


「アルベルト」


 アルベルト殿下の名前が呼ばれる。


「ユリウスの廃太子に伴い、お前を王太子に任ずる」


「賜りました」


 そして、アルベルトが新たな王太子として任じられ、ユリウスの廃太子事件は幕を閉じた。


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