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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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43-失ったものsideユリウス

「ダグラーゼ公爵とモルゲンレート侯爵の連名で抗議が届いた。ダグラーゼ公爵夫人が不当に拘束された、とな。ユリウスよ、申し開きはあるか?」


 父上が最初に発言した言葉は理解できないものだ。不当? 正当に決まっている。


「それは間違いです、父上。レティシアは国家反逆罪を犯している。正当な拘束です」


 俺が発言した途端、空気がピリついた。母上が今度はため息をついた。


「ユリウス、貴方とレティシアの婚約は解消されています。親しげに名を呼ぶのはおやめなさい」


「? モルゲンレート侯爵令嬢は……」


「ダグラーゼ公爵夫人だ」


 俺の言葉をダグラーゼ公爵が遮る。名ばかり公爵が。


「レティシアは結婚などしていないのでは?」


「……三か月前にレリウム教司祭を証人とし、証明書への署名は済んでいる。国王陛下からも承認していただいた」


 ダグラーゼ公爵の言葉に父上が頷く。そんな前に。レティシアに婚約破棄を言い渡してすぐではないか。……ヤケを起こしたのか?


「……ダグラーゼ公爵夫人は俺の仕事を妨害しました。それに対しての召喚も拒んでいます」


 そう言うと、ダグラーゼ公爵が反論した。


「妻への召喚状は正式な書式ではありませんでした。そのため、妻が拒否する旨の回答書を作成し、私が承認しております。使者も立てましたので、王都の方にも受領記録があるはずです」


 その言葉を受けて、宰相が何かの書類を出す。


「受領記録はここに。……また、夫人の回答書はこちらにございます」


 そう言って、グシャグシャになった紙を父上の前に掲げた。


「……確かに」


 内容を確認した父上が承認する。下座で文官が記録を取っていた。


「では、お前が業務妨害をしたとする根拠を述べよ」


「レティ……ダグラーゼ公爵夫人が、引き継ぎを拒否したからです」


 癖でレティシアの名を呼ぼうとしたことに、母上が目を釣り上げる気配を感じたので、仕方なく今の立場に言い直す。


「それは認められません。ダグラーゼ公爵夫人は、引き継ぎ書を作成していました」


 今度はアルベルトが発言した。手には何かの紙束を持っている。


「こちらはわかりやすくまとめられていて、引き継ぎ書として申し分ない内容になっています。私も参考にしていました」 


 アルベルトはそれを父上に渡す。内容を見た父上が目を細めた。


「この力を王家に取り込めれば良かったのだが……」


 俺に渡された内容と違うものがあったのか? まさか俺にだけ正しい引き継ぎ書が渡らないようにされていたとか……許せん。


「それは俺にだけ偽物が渡されていたのか?!」


「……そちらはユリウス殿下が突き返してきたものです」


 そう言って発言したのは、なんと俺の侍従だった。


「ユリウス殿下は、レティシア様がご自分の仕事を肩代わりされておいでであることを、認識されておりませんでした」


 酷い裏切りだ。俺は信じられないものを見るように、侍従を見つめる。


「此度の事件でも、レティシア様にすべての仕事を肩代わりさせるよう命じられております。しかし、国家機密である内容も含んでいるため、封印をさせていただきました。レティシア様はおそらく封印を破るようなことはされていません」


 その言葉に、母上が視線だけで騎士を走らせる。三名ほど、王の間を出ていった。


「ユリウス、レティシアへは貴方の仕事を、婚約者として手伝う許可を出していました。婚約が解消された今、レティシアに国政へ関わる権限はありません」


「そんな! いえ、あの者は嬉々として仕事をしていました。俺はダグラーゼ公爵夫人が自主的に、俺の気を引きたいがために、引き受けたものであると主張します!」


「まあ、嬉々としてやっていた……は否定しませんが。娘は、たびたび殿下が仕事をしてくださらないと悩んでいましたよ」


 茶々を入れてきたのは宰相だ。ほら、レティシアは俺の仕事を喜んでやっていたじゃないか!


「それは把握しています。レティシアへ、ユリウスの仕事を手伝い続けるよう指示したのは私ですから」


 母上が沈痛な面持ちで額に手を当てた。は? 母上の、指示? そんなこと、知らない。

 俺の表情を見て、何を考えていたか気づいた母上がまたため息をつく。


「私が貴方に折に触れて注意をしていたのは、響いていなかったようですね」


 母上に怒られた記憶は、ある。内容は思い出せない。レティシアが告げ口をしたのだと、憤った覚えはあるのに。


「国王陛下、王都騎士団をユリウス殿下が私的利用したと訴えが届いております」


 宰相がまた何かの書類を父上に渡した。受け取ってそれを確認した父上の手がぷるぷると震えている。


「王太子に与えられている緊急時の命令権を悪用したのか……」


「だから……」


「黙れ! お前の主張は先ほどから否定されている」


 父上の怒鳴り声など初めて聞いた。思わず身体がびくりと震える。


「騎士団を私的利用した上に、ダグラーゼ公爵夫人を王族の幽閉室に監禁した、そうだな?」


「監禁など! ダグラーゼ公爵夫人が逃げ出す可能性があったから、仕方なく……。それに王族の幽閉室を選んだのは俺としては恩赦のつもりでした」


「恩赦、だと……?」


 父上の顔がだんだんと赤く染まっていく。それに伴ってか声が地を這うように低くなった。


「ダグラーゼ公爵夫人は王太子妃になりたがっていましたから」


「いつから王太子は司法まで司るようになったのか。娘は高位貴族として、国のために殿下と婚約したのです。別に王太子妃になりたかったわけではない。現に貴方と婚約が解消された際、復縁を求めたりしておりません。すぐにダグラーゼへ嫁いだではないですか」


「ヤケを起こしたのだろう。現に式も挙げていないではないか」


 そう反論すると、宰相までため息をついた。


「準備期間が足りなかっただけです。今回ダグラーゼ公爵夫妻が王都に来られたのは、式の日程を我々に相談するためなのですから」


 ではなぜ俺がこんなに苦しい思いをしなければならないのか。レティシアとの婚約を破棄してから、何もかもがうまくいかないのに。


 ギイ……と重たい音が響く。

 王の間の扉が開いた。騎士に先導されて入ってきたのは、レティシアだ。高位貴族らしく、優雅に歩いてくる。


「レティ」


 ダグラーゼ公爵がレティシアを愛称で呼んだ。それに気づいたレティシアが立ち止まる。


「ジーク様!」


 走った。レティシアが。あの、いつも礼節を崩さなかったレティシアが。

 ダグラーゼ公爵も王座の階段を駆け降り、走ってくるレティシアを抱きとめた。


「ジーク様、ジーク様……!」


 俺の前で表情を乱すことがなかったレティシアが、こんなにも感情を露わにしている。


「ありがとう、ございます。助けに来てくれて……」


 ふわりと笑った。美しい、柔らかい笑顔。

 俺は、あんな表情を見たことがない。レティシアは、まさか、あの男が好きなのか……?


「ああ、レティ。無事でよかった」


 ダグラーゼ公爵がレティシアを抱きしめる。レティシアも幸せな表情を浮かべ、抱きしめ返していた。

 なぜだ。

 なぜ、あいつらは幸せそうなのに……。

 王座の方に視線を移す。驚き、微笑み。壇上の面々がそれぞれダグラーゼ公爵とレティシアの二人に対して表情を見せていた。負の感情はどこにもない。

 今度はうつむいて足元を見た。赤い絨毯。いつでも変わらず、そこに敷かれている。

 それなのに。

 俺は自分の足元がガラガラと崩れる音が聞こえる気がした。


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