42-崩壊した足下sideユリウス
レティシアが王都に戻ってくるということを聞いて、俺は準備をした。
あの女が逃げ出すことなく、仕事ができる場所。一番条件が近いのは、王族用の幽閉室だった。
王太子妃になりたがっていたからな。そのくらいの恩赦は与えてもいいか。
俺はそう考えて、幽閉室に新しい机を運ばせた。
宰相が休みの希望を出したと聞いて、レティシアが帰ってくる日だと当たりをつける。
そして、騎士に命令書を出した。
——国家反逆罪容疑のレティシアを捕らえよ。
命令書を渡した騎士がなぜか不服そうな顔をしていた。
「レティシア様のお名前が違うのでは? それに正式な書状の様式になっておりません」
「レティシアが結婚するはずなどない。緊急を要するため、省略した書状になっている」
「しかし……」
「従わないのならば、その剣を返してもらってもいいんだが?」
そう言うと、騎士は黙った。数日後、狙い通りレティシアを捕らえたと報告がくる。俺は幽閉室へ向かった。
室内には、美しい女が立っていた。
レティシアの顔だ。あのころはいつも疲れたような顔をしていた。しかし、目の前の女は頬に赤みが差し、冷ややかな視線を送るその瞳は、力強い光を宿した宝石のようだ。
「ようやく戻ってきたな」
レティシアが俺の名を呼ぶ。感情のこもらない声。俺の言葉に逆らう生意気なところは変わっていなかった。
まあ、いい。これからは一生ここにいる。ずっと俺の役に立つために生きていくのだ。
レティシアもきっとそれを望んでいる。あの女は俺の仕事を手伝うのが好きだったからな。
俺は愉快で仕方がなかった。
※
「兄上、幽閉室が使われていると報告があったのですが、何をされているのですか?」
突然アルベルトが訪ねてきた。幽閉室の話がもう伝わっている。誰が言ったのか。
「どうしてもあそこで仕事をしたいと言う者がいるので、俺が許可を出した」
アルベルトが黙った。何かを考えているようだが、幽閉室を使うこと自体は王国法で罪人以外を入れてはいけないとは定義されていない。問題ない。
「失礼します」
何かを思いついたように、顔を上げたアルベルトが部屋から出ていく。
俺は侍従に指示を出して、幽閉室に書類を運ばせた。ああ、仕事が片付いた。
「ユリウス、何か私に言うことはありませんか?」
母上が珍しく俺の執務室に訪ねてきた。何を言えというのだろう?
「特にありませんが」
「そうですか……」
母上は首を横に振った。そのまま部屋を去っていく。何だったのだろうか。
少しして、バタバタと大勢の足音が俺の執務室に近づいてきた。
俺に誰が来たか告げることもなく、侍従が扉を開け放つ。
「ユリウス・サンクト・エルデンライヒ、国王陛下から召喚状が出ている。ご同行願おう」
アルベルトが国王、王妃両名の承認印が押された召喚状を掲げた。
その後ろには、騎士たちが並ぶ。
「何を理由に?」
ただの用事なら、使用人に言伝して呼び出せばいい。
こんなに大仰に呼び出される理由がわからない。
「レティシア・セルシア・ダグラーゼ公爵夫人の拉致容疑です。……兄上、見損ないました」
アルベルトの顔が歪む。騎士たちが俺の両腕を掴んだ。
「触るな! 俺を誰だと思っている!」
「……連れて行け」
アルベルトの命令に騎士たちが従う。俺の言葉は誰にも届かない。
離せと何度も叫びながら、俺は混乱していた。
レティシアは、自分で王都に帰ってきたのだ。俺は言うことを聞かなかったあの女に自分の立場をわからせてやっただけだ。
むしろ、王族用の幽閉室を用意してやるなど丁重に扱ってやっている。
だいたいレティシアは俺に未練があるのだ。今の状況に満足しているに違いない。
そうか、それを言えばいいのだ。
父上にそれを説明すれば、こんな茶番も終わる。
俺は叫ぶのをやめた。両腕を拘束している騎士が眉をひそめる。
王の間に着き、扉が開く。
赤い絨毯が王座まで続いている。父上と母上が並んで座っていた。
アルベルトが先導し、そのまま父上の隣に並ぶ。そこは俺の場所だ。どうしてアルベルトがそこに立つ。
母上の隣には宰相と、背が高い黒髪の男。
「……ダグラーゼ公爵」
鋭い眼光が俺を射抜く。王太子に対して、なんて不遜な。
「それでは、ユリウスよ。お前の言い分を聞かせてもらおうか」
深くため息をついた父上が発言する。顔色が悪い。母上は何の感情も見えない表情で俺を見下ろしている。
そして、開かれたのは、俺の弾劾だった。
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