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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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40/63

40-寝不足でも問題ない

「こ、これは……」


「あら、まあ……」


 最初の宿で、ジーク様は部屋の中を見て立ち尽くしていた。

 私も後ろから部屋を覗き込み、その理由を理解する。


「ベッドが一つ……」


 そう、キングサイズくらいのベッドが置かれた部屋だったのだ。

 手配したのはラディウスのはず。何か作為的なものを感じる。


「ジーク様、ちょうどいいですわね」


 私はジーク様の二の腕に触れる。ジーク様は悲壮な顔をしながら、首を傾げた。


「『特訓』です。討伐もないのだから、寝不足になっても問題ありません。何もしないので、一緒に寝ましょう」


「寝っ……!」


 硬直した。しかし、割とすぐに戻ってくる。


「ふふ、寝る直前までジーク様とお話できますね」


 私がそう言って微笑むと、ジーク様は顔を赤くしながら頷いた。


 夜、身を清めて夜着に着替え終わったころ、ジーク様が部屋に戻ってきた。

 ジーク様自身の支度は護衛の騎士の部屋で済ませたそうだ。

 アミュレが入れ違いに部屋から出ていく。

 ジーク様は初夜のときに着ていたバスローブのような夜着だ。

 ちらちらと素肌がのぞいていて悩ましい。自分で『何もしない』と言ったことを少し後悔した。


「さあ、ジーク様」


 私は先にベッドに上がり、ぽんぽんとベッドを叩く。ジーク様の頬が赤くなる。さらに、一歩後ろに下がった。


「? ジーク様?」


 私が首を傾げると、また一歩下がる。なぜ。


「レティ、足が……」


 私は自分の足を見た。下ろした髪がさらりと流れる。……なるほど、夜着の裾がめくれてふくらはぎのあたりまで露出していた。

 この世界では、足はお尻の延長のように考えられているらしい。ふくらはぎが見える程度でも、はしたないとされる。

 正直私には理解できない考えだ。

 それでもジーク様に痴女のように思われるのは嫌だからさっさと隠した。


「これで大丈夫ですわね?」


 そう言って私が微笑むと、また一歩下がってしまった。だから、なぜ。


「レティ、少し待ってくれ……! 慣れる、慣れるから」


 とうとう片手で自分の視界を塞いだジーク様に懇願されてしまった。

 そんなに過剰な刺激を与えるような格好だろうか? 初夜のように扇情的なデザインでもない普通の夜着。化粧は落としてしまった。


「わかりました。でも、早くしてくださらないと、私、本当に寝てしまいますからね」


 ベッドにすら上がってくれないのでは仕方ない。私はジーク様のスペースを空けて、布団にくるまった。

 高級宿だけあって割と寝心地はいい。ダグラーゼの自分のベッドには敵わないけど。

 久しぶりに一日中馬車に乗っていたので疲れていたようだ。すぐに睡魔が襲ってくる。


「レティ……?」


 遠くでジーク様に呼ばれた気がするけど、もう眠くて返事ができない。

 ギシリ、とベッドが揺れた。

 ジーク様からまた呼ばれた気がする。もう、よくわからない。

 眠りに落ちる直前、唇に何か柔らかいものが触れた気がした。



※



 朝、鳥の声で目が覚めた。身動きが取れない。

 身じろぎすると、腹のあたりをギュッと拘束される。目を開けると、昨日と変わらない室内の様子が見える。

 両手は動かせたので、布団をめくるとたくましい腕が私を抱えていた。

 いつの間にか抱き枕にされていたようだ。


「ジーク様、朝ですわよ」


 私はジーク様の腕を軽く叩いた。


「ん……レティ?」


 寝ぼけているのか逆に腕の力が強まった。後頭部に唇を寄せられる。


「いい匂いがする……」


 すん、と匂いを嗅がれて恥ずかしくなった。なんとか抜け出そうと試みるけど、鍛え抜かれた男の腕はびくともしない。

 結局私は、ジーク様が覚醒して叫び声を上げるまで抜け出すことはできなかった。


 ジーク様は初日の過剰供給が功を奏したのか、翌日からは多少躊躇するくらいで、隣で寝られるようになった。

 そして、朝になると私は抱き枕にされた状態で目が覚める。なんなら、ジーク様は寝ぼけた状態だといつもより触れられるようになるらしい。

 下腹部を撫でられるくらいならまだしも、足の付け根をつぅと長い指でなぞられたり、うなじに唇を寄せられたりするのは……本当に、もう!

 王都に近づくにつれて、私の方が羞恥に耐えかねて疲れてしまった。



 そして、王都の入り口にある検問で王都の騎士が私たちの乗っている馬車を止める。

 いつもならば身分が確認できたらすぐに通れるのに、やけに時間がかかっている。

 ジーク様が様子を見に馬車を降りた。

 少しして、ガチャガチャと騒がしい足音が馬車を取り囲んだ。


「レティシア・エーデ……あれ? こほん、レティシア・セルシア・ダグラーゼ公爵夫人! 貴殿に国家反逆罪の容疑がかかっております! ご同行願います!」


 色々な意味で頭の痛くなる同行要求が聞こえてきた。 


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