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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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37/63

37-推測

 オーガの異常個体。何度か覚書に出てきていた。確か討伐には死者も出ている。


「その……、オーガの異常個体が出た場合も通常個体を襲うのでしょうか?」


「そうだな。そこはどのような魔物も変わらない。異常個体になると、身体が崩壊するまで周りを襲い、死ねば魔力を振りまく災害のようなものになる」


 ジーク様の淡々とした言い方に怖くなる。それが普通。それがダグラーゼの日常。


「奥様、オーガの異常個体はそうそう現れぬのでご安心を。小型の魔物のように数が多いものはたまに出ますがな」


 ゲオルグが気を遣って言ってくれたけど、それは安心してよいものなのか。ジーク様を見ると、頷かれた。騎士団としては小物が異常個体になったとしても脅威ではないようだ。


「ジーク様、オーガの異常個体が討伐されず死亡するとどうなりますの?」


「オーガ級となると、……新たな魔物溜まりが増える可能性があるな。魔物溜まりとは濃い魔力が溜まる場所でもある」


 異常個体が死んだ位置によっては、分布図が書き換わりそうだ。


「それはスタンピードの原因にならないのかしら?」


「それ単体では起きないだろうな。そこまで劇的な変化をもたらすものではない」


 ならばスタンピードが起きる可能性は何なのだろう。

 原因があるのか、それとも防ぐことのできない天災のようなものなのか。早くわかればいいのに。


「のぅ、ゲオルグ。これ、気にならんか?」


「どれだ? ……扇子のようだな」


 二人の会話を聞いて、地図を覗き込んだ。確かに、オーガの増殖期の記録を根本としてダグラーゼ側に波状に広がっているように見える。


「スタンピードが発生したとき、もー無理! って疲れ切ったころに、オーガの異常個体が襲ってきた記憶があるのぅ。あれは勘弁してほしかった……」


「オーガの異常個体が発生した別の事例と、増殖期が重なった年と比較してみましょう」


 私はスタンピード後の該当記録を並べた。

 オーガの異常個体の事例は、オーガは増殖期を迎えていなかった。

 増殖期が重なった年は、オーガは増殖期を迎えていたけど、異常個体はいなかった。


「これは……」


「オーガの異常個体からは当然、通常個体のオーガたちは逃げるじゃろうなぁ」


「そうであろうな。そして、逃げたオーガから中型以下の魔物も逃げる」


 ヴァルターがオーガの増殖期を記録した場所に指を置き、そのままダグラーゼ側へ指を滑らせる。魔の森の奥には山々が連なっている。


「そうやって、追い立てられた小物が、ダグラーゼ側にまとめて逃げてきたってことかのぅ?」


 くるりとダグラーゼ領の上で円を描いた。それを見たゲオルグが顎をさする。


「可能性としては、否定できぬな」


 複数の増殖期の重なり。オーガの増殖期と異常個体。


「個々の要因は普段から起こりうることだ。断言することはできないが……」


「それらが偶然重ならないとも限らない……」


 ジーク様の言葉を受けて、私は呟いた。言葉は重く、胸に不安を呼び寄せる。 


「巡回や定期遠征では重要警戒事項に入れておこう。何もなければそれでいい」


 ジーク様がそう言うと、騎士たちは頷いた。

 定期遠征に出ているハンスが帰り次第、情報を共有することになった。

 私はジーク様に送ってもらい屋敷に戻る。棚に戻す予定の覚書をマルゴが持ってくれた。


「レティ、今日はゆっくりしてくれ。疲れただろう?」


「いえ、……そうですわね。少し、ゆっくりさせていただきますね」


 騎士たちとスタンピードについて話し合ったことで、想像以上に精神力を奪われた。さすがに今日は細かい数字を追いたくない。

 今日は読書でもして過ごそうと思う。


「ああ、そうするといい」


 ジーク様が私の頬を撫でて、騎士舎へ戻っていく。さりげなく触れることが増えたと思う。特訓の成果が出ている。


「マルゴ、蔵書室へは私も行きます。たしか、領史と同じ棚にこの地方の植生について書かれた書物がありましたわね」


 そう言うと、マルゴが目を見開いて、私に尋ねてきた。


「お、奥様。ゆっくりされるのですよね?」


「ええ、部屋でゆっくり過ごそうかと……」


 なぜわざわざ確認されるのだろう? 私が首を傾げると、こわごわとマルゴが口を開く。


「その、植生の書物を読むのは仕事になるのでは?」


「いえ、趣味の読書です」


「……」


 マルゴが黙ってしまった。なぜか絶句しているように見えるのは気のせいだろうか。


「いえ、失礼いたしました。参りましょう」


 よくわからないけど、マルゴの中で何かが決着したようだ。

 私はマルゴを伴って蔵書室に向かった。


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