35-王都からの爆弾
「ジーク様、こんなものが届きましたわ」
昼過ぎ、ラディウスから王都より届けられた手紙を受け取った。
封印には王太子の紋章。燃やそうかと思ったけど、万が一正式な書状だったら困るので開封した。
……正式な書状ではなかった。
『召喚状』と書いてはあるけど、王家の正式な召喚に必要な印がない。あるのは王太子の印だけ。
あと、一番致命的なのが、宛名が間違っていること。
『レティシア・エーデル・モルゲンレート』侯爵令嬢宛てだ。
今の私は『レティシア・セルシア・ダグラーゼ』公爵夫人。お前が物のように下賜したんだろう、と襟首掴んでガクガクいわせたくなるとんでもないミスである。
召喚理由も『引き継ぎをせず、内政を混乱に陥れたから』。引き継ぎ書は作ってある。適宜、ユリウスに渡すようにお願いだけはしておいたけど、まさか見ていない?
一人で内容を先に確認しておいてよかった。ジーク様に見せられない表情になっていたはずだ。
「レティ、気持ちはわかるが……その、汚物みたいな持ち方はどうなんだ?」
「気持ちは汚物ですから」
私は親指と人差し指で紙の端っこを持った手を揺らした。
正式な書状ではないから、無視しても構わないとは思うけど、ユリウスのことだ。それはそれで、『不敬罪だ!』と言い出しかねない。
「私からは正式な回答書を書きます。ジーク様は承認印をお願いいたします」
「わかった」
私は仕事の前に素早く回答書をしたため、ジーク様に渡した。ジーク様も内容が問題ないことを確認し、承認印を押した。
「では、ラディウス。今日の手紙を出すときにこちらも一緒にお願いできるかしら」
「かしこまりました」
正式な記録にはならないけれど、ユリウスの召喚状と、どこが正式な書状として扱われないのかという点や回答書の内容を覚書として添付する。
そして、視界に入らない場所にしまってから執務室の机に座った。
ジーク様がこちらを見つめているので、笑顔で返す。
物量作戦には触覚の他に視覚も含む。もしジーク様の仕事が滞り過ぎるようなら、できる仕事は私が代行すると伝えると慌てて否定された。レティに負担をかけたくない、と言ってくれたのが嬉しい。
本当にジーク様に嫁げてよかった。
※
「ありましたわ……」
蔵書室に備えられた机で、騎士たちの覚書をまとめていた。
二十年前までは今までの情報を裏付けるように魔物の生態や増殖期の周期など、同じような情報が続いた。
そこからさらに古い覚書をまとめ出すと、目に見えて量が減っていく。
復興のためか、はたまた覚書を書く習慣がついたのがこの辺りなのか。
二十五年前くらいになると、一年の覚書が最初の頃の三分の一になり、さらに遡ると十数枚。なぐり書きのような字で判別が難しかった。二十八年前になると、領史と同じように覚書の量がまた少し増えた。
やはり、スタンピードで一度途切れる。
つまり、この少し増えた覚書より前の情報こそが私が欲しいもの。
スタンピードが起こる前に起こっていた『何か』があるのか。
私は気合いを入れて、残りのまとめに取りかかった。
オーガの異常個体がいた。
オーガの増殖期があった。
ブラックブルの増殖期があった。
ブラックブルの異常個体がいた。
ゴブリンの増殖期があった。
ゴブリンの異常個体がいた。
ホーンラビットの増殖期があった。
二十八年前より昔、増殖期と異常個体の出現が入り乱れていた。
関連性はわからない。
増殖期を迎えた魔物の位置を地図に書き写してみた。今までまとめていた分布図を少し外れる。これは誤差の範囲?
異常個体の発見場所も書き写した。増殖期を迎えた魔物の分布とも一致しない。
年表を作ってみた。
スタンピード前の増殖期の重なり方が異様なのがわかる。
個々の覚書では読み切れない情報が浮かび上がってくる。
今までのまとめを持ってきて、年表に書き込んでいく。
増殖期が似たような重なり方をする年もあった。けれど、スタンピードは起きていない。
スタンピードは増殖期が重なるだけでは起きない可能性が高いことが分かった。
スタンピードが起きた年と、そうでない年。
細かい情報を見比べてみる。
異常個体。
希少種。
発生時期の順番。
違いを丁寧に探していく。
「これ……?」
確証はない。スタンピードが起きた年は、小型、中型、大型……と弱い魔物から順に強い魔物が増殖期を迎えていた。
合間に、それぞれの異常個体が出現する。
スタンピード直後の覚書を見返す。あまりに字が崩れ、読むのを諦めた覚書。
じっと見つめた。
『共食い』
不穏な単語が、浮かび上がるようだった。
『強化』
『逃げた』
単語だけ読めても、文章が繋がらない。
私は諦めて、覚書と今までのまとめを手に持つ。
「アミュレ、ラディウスに騎士舎へ向かう先触れを出してもらってくれる? その後、マルゴと交代してちょうだい」
「……何か、わかったのですか?」
「わかりそうで、わからないの。これは専門家に話を聞くべきね」
「かしこまりました」
アミュレがラディウスに言伝に行く。先ほどから、鳥肌がおさまらない。
騎士舎で安心できる何かがわかればいい、そう願った。
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