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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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33-軋んだ歯車-sideユリウス

 どこかの歯車が軋み始めたかのように、俺の日常もギシギシと音を立て始めた。


「ユリウス殿下、こちらは比較検討用の資料です。どうぞお使いください」


「殿下! 他国の王子が直接意見を伺いたいと伝書鳩を飛ばしてきました。至急、ご確認ください!」


「兄上、国の方針を臣下に考えさせるのはやめてください。これは、兄上の仕事です」


 だんだんと机に書類が積み上がる。

 今まで承認印を押すだけでよかったのに、比較検討しろだの他国とのやり取り、方針の作成……やたらとやるべきことが増えてきた。


「あ、できましたか? 私が確認しますね……はい、問題ありませんね。……できはするんだよなぁ」


 ちょうど一つ仕事が終わったときにアルベルトが来たので、作成した書類を渡す。

 何かぽつりと呟いたが、内容は聞こえなかった。


「ユリウス、エマーレ・フィンクベルの王太子妃教育の進捗はどうなっているのかしら?

 あ、国費から彼女の教育費を出す申請をしていたようだけど却下しました。貴方の私費から払いなさい」


 今度は母上から呼び出された。


「なぜですか?! レティシアの教育費は国費で賄われていたはずです!」


「正式な婚約者だったからですよ……。それに、レティシアは高位貴族としての教養がすでにありました。出費は最低限だったのよ」


「正式な婚約者であればいいというのなら、すぐに婚約します」


「資質が足りているとは思えません。まず、教養を身に着けさせなさい」


 高い教養を身に着けるための家庭教師への依頼料は高額だった。出費は痛いが、母上から正式に婚約者として認められれば、国費から返還するという約束を取り付けた。


「ユリウス様! 先生方が意地悪なことばかり言うんですの……あたし、辛くて……」


 久しぶりに会えたエマーレが涙を落とす。抱きしめて慰めながら話を聞いた。


「エマーレに用意した家庭教師は、最高峰の夫人ばかりだ。どういう意地悪を言われたんだ?」


「このお勉強が難しいのに、『この内容は子供のうちに習得しておくものです』と……」


 エマーレの教本を手に取る。高位貴族としての基本が載っていた。


「ああ、エマーレ。この内容なら俺も十歳のときに習った。聡明な貴方ならすぐ理解できるようになるだろう」


「え……」


 なぜかエマーレの口元がひくついた。一度に習う量が多すぎるのかもしれない。家庭教師に最初はゆっくり進めるよう言っておこう。


「……これ以上、でございますか?」


 家庭教師が片眉を上げた。


「殿下の即位に間に合いますかどうか……」


「それは陛下がすぐに退位されるとでも思っているのか?」


「そちらではございません。はぁ、レティシア様でしたら一度で覚えましたのに……」


 父上がすぐに国を放り出すとでも言いたげな物言いに腹が立つ。しかし、それを意に返さないように家庭教師は首を振った。


「殿下、請求書でございます」


「……多すぎないか?」


「いえ、すべて殿下の支出になります」


 一枚一枚確認すると、確かに俺が使っていた。俺個人の支出、エマーレの教育費、エマーレへの贈り物……ひと月の予算を使い果たし、翌月の予算まで手を出している。


「仕方ない、エマーレの教育費は削れない。他を控えるか……」


「まともな判断もおできになるのですね」


「何か言ったか?」


「いえ、何も」


 過去の支出と見比べてみる。同じものを購入していても、なぜか高い。


「これは、金額が間違っていないか? 金額が違いすぎる」


「いいえ、殿下。以前はレティシア様が吟味を重ね、購入先を厳選しておりました。今は一つの商会しか使用しておりませんので……」


 また、レティシア。

 何か問題が起きると、レティシアの名が出る。

 ……ということは、レティシアのやり方に問題があったのではないか?

 レティシアがいなくなっただけで、仕事がうまく回らないのは、あいつがきちんと仕事の覚書を残していなかったせいじゃないのか。

 あいつめ、いつも仕事が忙しいと言いたげに動いていたが、己の処理能力の低さが原因ではないか。

 俺は腹が立って仕方がなかった。

 せっかく目障りなものを排除したのに、視界の端にちらついてくる。

 まさか、俺に未練があってわざと引き継ぎをしなかったのか?


 許せん。


 一度呼び出して、償いをさせよう。

 俺は紙とペンを用意し、召喚状を書き始めた。


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