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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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31-昔の夢

 ——夢を見た。


 私はユリウス殿下の婚約者で、登城して王太子妃教育を受けていた。日々、覚えることは多く忙しい。

 その教育の一環で、城の内政にも携わっていた。

 ある日、一人の文官がユリウスに怒鳴られて執務室を追い出されているのを見てしまった。


「レティシア様、これはユリウス様にご判断いただかなければならない案件なのに、まとめて最終案だけを渡せと言われてしまいました」


 私が関わっていいのかわからず、王妃陛下にそのことを報告すると、ため息をつかれた。


「あの子はもう……、貴方に案件を整理してユリウスに上げる権限を与えます。国政に関わること自体は勉強になりますから。ただし、最終決定はあの子にさせなさい。ユリウスのことは定期的に報告してください」


 王妃陛下が去っていく。

 次の瞬間にはユリウスが目の前に現れた。


「なんで貴様が書類を持ってくるんだ!」


「王妃陛下から頼まれたからですわ。先日、ユリウス殿下が差し戻した案件ですが、文官と共に整理し、二案にまとめました。検討をお願いいたします」


「む? ……ふむ、使えるじゃないか。貴様に俺の仕事を手伝わせてやろう」


「……」


 ユリウスが最終的に案を選び、承認印を押す。期日までに仕事が完成した。

 目の前の光景が消え、また別の文官が現れた。


「レティシア様! ユリウス殿下の機嫌が悪くて書類を見もせずに突き返されます!」


「書類を確認いたします。ああ、期日が迫っておりますね、私が対応いたします」


「レティシア様! 他国の大使がお見えですが、ユリウス殿下が見つかりません! どなたに代理をお願いすれば……」


「他国の大使はアルベルト殿下に対応していただいて……」


 王太子の仕事が滞ると、私に報告が来るようになった。

 定期的に王妃に報告し、その度にユリウスは王妃陛下に怒られていた。

 そして翌日には、私に『告げ口をするな!』と八つ当たりされる。


「ユリウス殿下、こちらの二案をご検討ください」


「む、これは選びにくい条件だな……。レティシアはどう考える?」


「! 私は、一つ目の案が長期的には利益が出ると思いますわ」


「そうか。ならそちらにするか」


 どう利益が出るかは聞かれなかった。一瞬私の意見に興味を持ってくれたのかと思ったのに、それは幻だった。


「ユリウス殿下、この案件ですが……」


「貴様はどちらがよいと思う?」


「……二つ目の案です」


「ならばそれにする」


 だんだんと私が選んだ案をユリウスが選ぶようになった。理由は、聞かれない。


「ユリウス殿下、最終案を持ってまいりました……」


「そうか」


 何案か作っても、どうせ何も聞かれないのなら、最初から最終案を持っていくことが一番楽だと気づいてしまった。

 ユリウスは気づかない。

 私も、諦めてしまった。私が正式に王太子妃になってもきっとユリウスは変わらない。

 なら、最初から私がやった方がストレスは少ない。

 王妃陛下に許可をもらい、月に何件かは何案かに絞った状態で、アルベルト殿下に確認してもらった。私がユリウスを利用し、傀儡化していると言われるのを防ぐためだ。


「私はこちらの案が地味ですが、最終的な費用対効果は高いと思います」


「うん、私から見てもその案が良いと思う。……レティシア嬢、うちの兄がすまない」


「殿下が謝ることではありません。こちらこそ、お手数をおかけして申し訳ございません」


 アルベルト殿下が選んだ案をユリウスに持っていく。ユリウスには、伝えない。もう、いい。


 そうやって表面上は仕事が順調に回り始めた頃、ユリウスはエマーレに執心し始めた。

 もう私は冷めた目でそれを見るしかできない。エマーレは爵位が足りない。きっと火遊びなのだろう。

 王妃陛下への報告も、エマーレとの逢瀬に時間を使って執務の時間が減っているという報告が中心になった。


「あの子は……! レティシア、貴方がよくやってくれていることはわかっています。エマーレの件は、私が処理します」


 王妃陛下はそう言ってくれたけれど、もう考えたくなかった。

 ただただ、疲れた。

 王太子妃教育、婚約者としての内政業務、ユリウスの補佐……。この結婚は政略婚だ。嫌だと言うことはできるけど、その代償が怖い。

 仕事だけならよかった。

 でも、この結婚にはもれなくユリウスが付いてくる。辛い。


 ユリウス主催の夜会で私宛のドレスが届かないと知ったのは、家に早く帰れるようになった三日前だ。私はもう笑うしかない。

 仕方なく、別の夜会のために仕立てたドレスを着用した。

 そして、運命の日。

 あの横顔を、きっと一生忘れない。



※



 ふ、と目が覚めた。

 苦しい、辛い夢。

 ダグラーゼ邸の寝室。見慣れて久しい天井。起き上がって、夫婦の寝室の扉を見る。

 固く閉じられている。

 けれど、不安は感じない。

 ジーク様の顔を思い浮かべる。優しい笑顔。抱擁したときの幸福感。

 外はまだ暗い。

 早く日が昇るといい。

 ジーク様に抱きつきたい。ジーク様の真っ赤になった顔を見て、きっと私は笑うだろう。かわいくて、素敵な私の夫。

 私は、枕を抱きしめた。

 


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