↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/63

28-崩壊の足音-sideユリウス

「レティシア・エーデル・モルゲンレート侯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!!」


 俺が主催した夜会で、俺は高らかに宣言した。

 レティシアはピクリとも表情を動かさない。

それどころか、


「殿下、理由をお聞きしても?」


と感情を乗せない声で問われる。可愛げがない。

 エマーレは逆に可愛い。俺のことをいつも「すごい」「素敵」と褒めてくる。

 エマーレの腰を抱いていた腕の力を強める。彼女の肩がピクリと跳ねた。

 俺が婚約破棄の理由を述べ、エマーレが証言をしてもレティシアの表情は崩れない。


「貴様の言葉など信用しない! ……しかし、顔だけはいいからな。役に立つこともあるだろう。

 ジークヴァルト・セルシア・ダグラーゼ公爵!」


 俺が名を呼ぶと、一人の男が進み出てきた。辺境の地を守ることしか能がない、王都での力も持たない名ばかり公爵。


「殲滅公爵……」


 誰かの呟きが、ホールに響いた。肩書きだけは御大層だ。俺は笑う。


「レティシア、貴様は下げ渡すことにした。

 ジークヴァルト・セルシア・ダグラーゼよ、貴殿にレティシア・エーデル・モルゲンレートとの婚姻を命じる!」


「……御意に」


 男が臣下の礼をとった。邪魔な女を排除し、愛するエマーレを妻にする。

 こんなに完璧なことはない。このときはそう思っていた。



※



「兄上は、エマーレ嬢が王妃にふさわしいとお考えですか?」


 翌日の食事の席で、弟のアルベルトに尋ねられた。


「エマーレは愛くるしい。民に愛される王妃になるはずだ」


 答えると、今度は母上がため息をついた。


「愛くるしいだけで王妃が務まると思っているのですか」


 言葉は鋭い。だが、俺には自信がある。


「少なくともレティシアよりは俺の隣にふさわしいと思っています」


「ああ、そう、そうね。今の貴方(・・・・)には相応しいわね……」


 母上は額に手を当てながら肯定した。そして、父上に視線を向ける。父上は黙っていた。顔色が悪い。


「父上、顔色が悪いようですが、身体の具合でも……?」


「ぬ、問題ない」


 問題ないと言いながら、食は進まないようだ。


「兄上、レティシア嬢が代行されていた仕事はどうするおつもりなのですか?」


 食事の席で仕事の話など、無粋な奴だ。


「ああ、そんなものもあったな。問題ない、俺がやる」


「できるとでも?」


 アルベルトの声が一段下がった気がしたが、俺は気にしなかった。


「レティシアがやりたいと言ったから、やらせたまでだ。アレにできるなら俺でもできるだろう」


 なぜか給仕をしている使用人まで動きが止まった。しかし、それも一瞬のことだ。


「そうですか……」


 アルベルトが引き下がったので、俺は食事を続ける。エマーレに今度は何を贈るか。そんなことばかりを考えていた。



※



 俺の執務室に入ると、書類が散乱していた。侍従を呼んで、叱責する。


「これはどういうことだ!」


「これは今までレティシア様が代行されていた殿下の仕事です」


 淡々と告げる側仕えにイライラする。


「これはどう見ても、レティシアが余計な仕事まで引き受けている! 各部門に差し戻せ!」


「……かしこまりました」


 そう言って侍従は書類をすべて持ち出した。

 戻ってきたとき、持っていた書類は十枚ほど。

 やはりレティシアが領分を超えて仕事をしていたようだ。

 俺はいつものように書類を流し読み、承認印を押した。それからすぐにエマーレへ手紙を書き始める。

 愛しいエマーレ。早く共に朝を迎えたい。

 情熱的な文言を書き入れ、満足して封をした。


「鳩舎に向かう」


 侍従を伴って鳩舎に向かう。これが一番早い。

 途中でアルベルトとその婚約者であるフェリシア嬢を見かけた。

 二人とも分厚い紙の束を抱えている。


「あいつらは仕事が遅いな」


 きっと余計な仕事まで抱えているのだろう。レティシアと同じだ。

 仕事が遅い人間のことなどどうでもいい。早くエマーレに手紙を送ろう。

 俺は鳩舎へ急いだ。



※



「エマーレは可愛いな」


「そんな、ユリウス様、嬉しいですわ」


 俺の言葉に頬を染めて、エマーレが微笑む。少し舌足らずな、砂糖菓子のように甘い声。

 それに似つかわしくない、肢体。

 エマーレは俺のために努力をしていると言った。王太子妃としての教育も努力してくれるはずだ。レティシアにできたのだから、エマーレも少し学べば問題ないだろう。愛らしく聡明な俺の妻。うん、よい。


「ユリウス様、あたし、今度はネックレスが欲しいです」


「そうか、商人を呼ぼう」


 王城に商人を呼ぶよう、侍従に声をかけると感情を見せない表情でそれはできないと断られた。


「今月の予算は使い切っております」


「では来月の予算から払え」


「……かしこまりました」


 侍従が部屋を出ていく。

 翌日、いつもと変わらないお抱えの商人が呼ばれた。何も問題ない。

 仕事も多少増えた程度。生活も何も変わらず、愛しいエマーレと過ごす。


 レティシアがいなくとも、何も問題ない。そう、そのはずだったのに。


面白いと思っていただけたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをしていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。