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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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26-中間報告書

 覚書のまとめは、今回の緊急遠征の報告を追加し、中間報告書として完成させた。

 完成したものを改めて読んでみる。

 魔の森の地図を使って魔物のおおよその分布図を作成し、増殖期の周期が推測できる種についてはその傾向をまとめた。

 さらに、習性、弱点、異常行動をした場合に何を留意すべきかなど、今まで騎士たちが経験則として培ってきた知識を、誰でも理解できるよう書き記した。

 ジーク様に確認してもらうのが楽しみだ。


「ジーク様、ぜひ確認してもらいたいものがございますの」


 朝、私は仕事を始める前に、ジーク様に報告書を渡した。


「お手すきのときで構いませんので」


「いや、今確認しよう」


 私の浮ついた空気が伝わったのか、ジーク様は柔らかな笑顔を浮かべて頁をめくった。

 数頁読んだあたりから、ジーク様の表情がどんどん真剣な顔になっていく。

 地図の頁に差し掛かると、目を見開いて、それから私を見た。


「レティ、これは、貴方が作ったのか?」


「蔵書室に保管されていた騎士の覚書を十年分ほど、まとめ直しました」


 私が笑顔を作ると、ジーク様は立ち上がり私の横に歩み寄った。

 そして跪き、恭しく私の手をとった。熱に浮かされたような瞳で見つめられ、心臓がはねる。

 ——手の甲に、キスをされた。


「っ!!」


 騎士が貴婦人に対して行う、最上級の敬愛の証。

 頭ではわかっているのに、手の甲に触れた唇の温もりに身体が熱を持つ。


「レティ、貴方はやはり女神でもあった」


「……違います」


 『でも』という言葉に、私が生身の人間でもあるという意味を感じ取って否定する声が弱くなった。


「いや、違わない。私の妻は、私にはもったいないほど素晴らしい人だ」


「そ、そうですか。ジーク様がそう思ってくれるよう、精進いたしますわ」


 しどろもどろになりながら、ジーク様から目をそらした。顔が熱い。真っ赤になっているのを見られるのが恥ずかしい。

 私の様子に、ジーク様はくすりと笑って立ち上がった。手は、まだ握られたままだ。


「ユーグ、ゲオルグを呼んでくれ」


「かしこまりました」


 ユーグが退室する。ジーク様は私をソファの方に誘導し、座らせた。

 机に置いていた中間報告書を持ってきて、隣に座る。


「貴方に了承を得ずにゲオルグを呼んでしまった。しかし、これはぜひ彼にも確認してもらいたい」


「構いません。私もこの地で長く戦い続けてきた方の意見を伺いたいです」


 また、手を握られた。

 ジーク様の顔を見ると、優しい微笑みを浮かべていた。甘く感じるほどの。


「待っている間、細かいところを確認させてくれ。貴方の声で、聞きたい」


「はい……」


 私は頷いて、ジーク様に聞かれたことに答えていく。

 頁をめくるために外されてしまった手が寂しくて、身体をジーク様の方へ寄せる。

 ジーク様の腕に身体が触れた。態度は変わらない。


「お呼びでしょうか、閣下」


 一通り説明が終わった頃に、ユーグに伴われてゲオルグが到着した。


「ああ、まずはこれを確認してくれ」


 ジーク様がゲオルグに対面の席を勧めながら、中間報告書をゲオルグに渡す。

 ゲオルグはソファに座ると、中間報告書を読み始めた。


「これは……!」


 カッ! と擬音がしそうなほど、目を見開いてゲオルグが唸った。

 地図の頁だ。


「閣下、これを作成したのはどの騎士でしょうか?」


 それを聞いて、ジーク様が笑う。


「これは、妻が作成したものだ」


 聞いた途端、ゲオルグはすごい勢いで私の方に顔を向けた。強い眼光は、睨まれていると感じるほどだ。


「奥様、これはよいものですな」


 一言一言噛み締めるように言われた。


「私の感覚とも一致しています。地図にまとめられると、こんなにも見やすくなるとは……」


 ……二人とも、地図の頁で反応が変わった。

 図解を多くしたら、もっとわかりやすくなるだろうか?

 経験の少ない騎士との反応の違いはあるのだろうか?

 統計を取ってみたくなった。


「魔物別の習性や弱点をまとめた頁もわかりやすい。……しかし、このオーガの頁に添えられた犬の絵は何ですかな?」


「オーガです」


 オーガの頁に描いたのだから、オーガに決まっている。


「私が、描きました」


「「……」」


 ジーク様とゲオルグが、奇妙なものを目にしたような顔で私を見てきた。

 後ろで静かに仕事をしていたラディウスとユーグがゲオルグの後ろから中間報告書を覗き込みに来た。


「ぐっ!!」


 ユーグが口を押さえた。腹のあたりが激しく痙攣している。

 ラディウスはピクリと眉を動かし、静かに目をそらした。


「……ジェイに描かせましょう。あれは、筆が上手かった」


 ゲオルグが静かに告げた。私の絵では駄目なのか。


「レティ、貴方は実際にオーガを目にしたことがないだろう。このような資料にするなら、一目でわかるようにするべきだ」


 ジーク様に優しく諭されて、納得した。資料にあいまいな記述はいらない。犬に見えてしまうのであれば、それは資料に使うべきではない。


「わかりました。確かに実物を見た方には勝てませんものね」


「……そうだな」


 ジーク様が少し間を置いて、肯定してくれた。視線が合わなかった。


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