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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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25-結果報告

 遠征から戻った騎士たちは、かつてないほど沸き立っていた。

 特に重症だった騎士たちは、騎士に戻れるかわからないほどの怪我を負っていた。

 それがたった二人の治癒師のおかげで、奇跡のように未来が開けた。

 おかげでレリウム教への寄進が止まらないらしい。


「ほっほっほっ、結構なことです」


 と生臭く笑う使者が、今回の派遣費用の請求書を届けに来た。複雑な気分だ。


 ジーク様はまだしばらく後処理で忙しいそうだ。


「しばらくは特訓も休まねばならない」


 と律儀に謝りに来た。あんまりしょんぼりと言うものだから、うっかり抱きしめたくなる。

 その衝動に耐えながら、なんとか身体を気遣う言葉を告げた。


 夕食をとった後の時間は、本来ならジーク様と特訓をする時間だ。けれど、彼が忙しいので私は今日も蔵書室にこもった。

 もう少しで十年分の覚書がまとめ終わる。今回の遠征も付け加えたら、中間報告としてジーク様に確認してもらおうと思う。

 騎士たちからも話を聞きたい。

 やりたいことはどんどん出てくる。私は頭の中で優先順位をつけながら、次の段取りを考えた。



※



 数日後、私はジーク様にエスコートされて騎士舎へ訪れた。

 軍議室に入ると、副団長二人とルドーがすでに待っていた。

 遠征後の疲れは残っていなさそうだ。さすが鍛えている。


「では、今回トリアージを行った結果ですが、赤八名、黄色十八名、緑三十名、黒二名でした。無傷と申告した騎士は二十二名です」


「今、救護棟に残っておるのは何人だ?」


「三人ですね。彼らは赤の中でも特に重症で、治癒師から『これ以上の治癒は騎士に負担がかかりすぎる』と言われました」


「む、治癒師にかかればすべて治せるわけではないのか」


 ルドーの報告にゲオルグが片眉を上げた。他の二人も怪訝そうな顔をしている。


「いい疑問ですわね。そう、治癒師は万能ではありません」


 全員が私を見た。


「治癒師の力は人の回復力を極限まで高める力です。怪我がひどければ、それだけ治癒師にも本人にも負担がかかります」


「奥様はお詳しいのですね」


「ええ、以前治癒師の方に詳しくお話をお聞きしたことがありますの」


 才能を調べてもらったときだ。令嬢である私は、大怪我もしないし、幸い大病もなかった。治癒師に会う機会なんてそうそうない。せっかくだから質問攻めにした。


「今、救護棟にいる三人もなかなか目が覚めなかったのではなくて?」


「その通りです。最後の一人が今朝やっと意識を取り戻しました」


 私とルドーのやり取りを、ハンスが苦い顔で見ていた。


「今回治癒師のおかげで助かった者は多いですが、あまり過信しないようにしなければならないということですね」


「そうだな。レティ、貴方のように治癒師から直接話を聞きたい」


 私は頷いた。


「では、レリウム教会にお願いして、治癒師の方に騎士団へ来ていただきましょう。治療ではなく、講師として。治癒師本人からお話を聞くことは有益ですわ」


「ああ、治癒師がいるからと無茶をする者を牽制できるであろうな」


 ゲオルグが言い添えた。

 そして後日、治癒師の講習を行うことが決まった。


「講習後はトリアージの運用手順書とともに、治癒師の派遣要請基準も残したいところですわね」


「手順書?」


 私が手順書の話題を口にすると、なぜかルドーが首を傾げた。


「誰が見ても同じように判断できるよう、文書に残しておくでしょう? 騎士団では運用手順書の型などあるのかしら?」


「いえ、そのようなものは作成しておりませんね。口頭か覚書で運用しております」


「え?」


 思わず声が出てしまった。ルドー以外の三人を見ると、一様に不思議そうな顔をしている。


「規則や記録は文書に記しますが、運用の手順を残すことまでは行っておりません。担当者から次の者へ伝えます」


 ……そういえば、王都の文官たちも手順書とは覚書の束だった。 


「口伝で問題なく伝わっている。今さら必要か?」


「必要です!」


 ゲオルグの言葉に反射的に言葉を返す。


「それでは、明日担当者が突然いなくなったらどうするのですか?」


「そのために複数人で聞くことになっている」


「担当者は全員同じ理解度ですか? 聞き間違って覚えていることを次の担当者に伝える可能性は? トリアージなら、判断基準を間違えたら大変なことになりませんか?」


 矢継ぎ早に放つ質問に、答える者はいない。


「手順書とは、誰がいつ確認しても、同じ理解を得られるようにするものです。担当者ごとにばらつきがあってはなりません」


 そう締めくくると、軍議室内に静寂が訪れた。

 ルドーが恐る恐るというように発言した。


「奥様のおっしゃることは理解しました。ですが、手順書というものを作ったことがないので、助言をいただけますか?」


「もちろんです! ちょうど遠征時の備蓄から兵糧を出す手配の手順書を作成したところですの。ジーク様、機密には当たらない内容なので、お貸ししてもよろしいかしら?」


「あ、ああ。構わない」


 ジーク様が椅子に座ったまま後ろに引いている。周りを見ると、そっと視線を外された。なぜ。


 その後は、緊急遠征の話を聞くことができた。

 定期遠征と比べて様子がおかしい場所はあったのか、ゴブリンの群れは普段と違う動きはしたのか、覚書や資料で見た内容を思い出しながら、質問をする。今回は待機組だったゲオルグが過去の経験から補足をしてくれた。

 覚書をまとめたものに追加しようと思う。


 軍議を終えると、全員で救護棟に寄った。以前、乱雑に置かれていた使用済みのリネンを入れたカゴはきれいに片付いていた。


「以前より、治療にかかる時間が少なくなりましたので、他の運用も見直しました」


 ルドーがそう言っていた。

 騎士の見舞いは上官三人が行った。ベッドの上にいる騎士は、もう駄目だと思っていた身体の傷が治りかけていることに加え、治療そのものがこれほど疲れるものなのかと驚いたと話していた。

 私はそれを少し離れたところで見守る。

 騎士の表情は明るい。

 彼らの未来を守れてよかった、そう思えた。


 騎士舎からの帰り道、ジーク様と話しながら屋敷へ向かう。


「トリアージがうまく機能してよかったですわね」


「ああ、騎士たちも今回のことで理解が進んだようだ」


 実は平民騎士も運用に戸惑っている者がいた。貴族騎士が睨みつける中、自分の治療が優先される状況は恐怖だったに違いない。

 ジーク様が貴族に対して詰めるのを見て、少しずつ怯えなくなったようだ。


「治癒師がダグラーゼに常駐するようになったのもありがたい」


「ふふ、過去の自分が出した改善提案が役に立つ瞬間を、目の当たりにできたのは嬉しいものですね」


 当時はダグラーゼ領の騎士たちがここまで過酷な状況で戦っているのを知らなかった。

 ただ、治癒師という役に立つ資源を、王都に閉じ込めている状況が無駄に思えたからに過ぎない。

 けれど、ジーク様が穏やかに笑うのを見て、私は過去の自分に感謝した。


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