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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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24-遠征からの帰還

 ジーク様がいない間、どこか屋敷が寒々しかった。

 ふとした瞬間に彼の姿を探してしまう。

 私はジーク様が自分の中でとても大きい存在になっていることに改めて気づいた。

 早く会いたい。

 手を繋いだり、隣り合って話したり。そういう些細なことで二人の時間を過ごしたい。


 ジーク様がいない間、日中はラディウスやユーグと共に仕事に励み、休憩時間には使用人たちとおしゃべりをする。隙間時間を見つけると、蔵書室に籠もった。

 不安でたまらないけど、ジーク様が戻られたときに、彼の机に書類が積み上がらないよう仕事を片付けていく。

 途中で治癒師が無事に着任したと報告があった。これからはレリウム教会に常駐する。

 すぐに無事着任した報告と、お礼の手紙をアルベルト殿下宛てに書き、伝書鳩を飛ばした。

 騎士舎にも治癒師の件を連絡する。ルドーが直々に感謝を伝えに来た。



※



 翌日、昼食を食べている最中にラディウスから、ジーク様から帰還の合図である信号弾が打ち上げられたと報告があった。

 一度目の信号弾の後、続けて二発打ち上がったそうだ。それは負傷者多数の合図と説明された。

 すぐにレリウム教会へ治癒師の派遣を要請するようラディウスに頼む。

 ジーク様は無事だろうか。

 つい先ほどまで美味しかった食事は、急に味がわからなくなった。

 それでも、無理に詰め込む。肝心なときに、動けなくなるのは困る。

 ユーグが信号弾が打ち上がった場所から推定して、日が暮れきるまでには第一陣が帰還するのではないかと教えてくれた。


 期限は決まった。ジーク様たちが戻るまでに、受け入れ態勢を整えよう。

 騎士たちが帰還した後の流れはすでに叩き込んである。

 私は最後の一口を飲み込むと、逸る気持ちを押さえ込み、貴族としての所作を崩さぬよう静かに立ち上がった。


 空が茜色に染まり始めた頃、第一陣が帰還した。

 彼らは無傷か軽傷者が多い。本隊の正確な情報を即座に伝える役割があると、待機していた騎士が説明してくれた。

 私は動きやすいよう、貴婦人用の乗馬服に着替えて報告を受けた。

 遠征したばかりで泥にまみれた姿の騎士たちは、公爵夫人である私がこの場にいることにギョッとしていた。

 騎士舎に待機していた騎士たちも、遠回しに屋敷に戻ったほうがいいのではないかと提案してきたけど、あえて無視をした。

 救護棟にはすでに治癒師が二人待機している。彼らには身分の高い者から治癒をするのではなく、赤紐をつけた重症者から治癒をするようお願いしてある。治癒師たちは首を傾げながら、それが領主であるジーク様の定めた運用手順だというと納得した。


「奥様、第二陣が到着しました!」


「わかりました。医療隊はいつものように選定をお願いします。私は人員、物資の調整を行います。足りないものがあればすぐに報告してください」


 先日の緊急討伐で赤紐の検証が進んだものの、いまだ症例数は少ない。しかし、今回は治癒師がいる。救える命は多くなるはずだ。


「レティ!」


 周りがざわついているのに、不思議とその声はよく聞こえた。

 振り返ると、ジーク様が立っていた。

 鎧は赤黒い色で汚れ、頬にも線が走っている。

 けれど、自身の足でしっかりと大地を踏みしめ、よろける様子もなかった。


「ジーク様!」


 思わず、駆けた。ジーク様が驚く顔をするのを見て、貴婦人らしからぬ行動をしたことに気づく。慌てて足を緩め、貴婦人らしく優雅に歩いた。


「これは、貴方が?」


 ジーク様の視線の先には、重症者を治療する治癒師の姿。


「はい、ジーク様が遠征中に無事に着任いたしました。負傷者が出ていると報告を受けましたので、派遣を要請いたしました」


 ジーク様は緑色の紐をつけていた。その事実にホッとする。

 赤紐をつけている騎士も多かった。彼らは順次治癒師が治療して回っていた。

 黄紐をつけている騎士たちは、医療隊の騎士が薬草を持って回っている。

 黒紐は……二人だけつけているのを見た。私は一度だけ祈りを捧げ、二人から離れた。


 途中、黄紐をつけた貴族騎士が順番について苦言を呈していた。治癒師がいるのなら、それは貴族である自分が優先されるべきだ、と。

 すぐにジーク様に詰められていた。それを見ながらルドーに言うと、苦笑いされた。簡単に意識は変わらない。


「もういっそのこと、まだ不満を持つ貴族騎士には、頭に袋でも被せてしまいたいわ。そうすれば、誰が先に治療を受けているかわからないもの」


「奥様、それでは顔色が見えず困ります。あと、容態が急変した場合、窒息の危険性もありますので……」


「……私が軽率だったわ」


「お気をつけください」


 疲れると思考まで荒れるようだ。後で甘いものを食べようと心に決めた。


 騎士たちが帰還し、全員が治療を受けたのを見届けて、私は屋敷に戻った。

 ジーク様はまだやることが残っているようだ。

 屋敷に戻って、最低限身を清めるとベッドに倒れ込んだ。

 夢も見ないくらい、深く眠った。


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