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殲滅公爵と恐れられた夫が、私の限界オタクだった件  作者: よし はるか


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23-緊急遠征

 ジーク様は負傷者たちから一刻ほど遅れて帰還した。当日の後処理が終わり、屋敷に帰ってきたところを呼び止める。

 あの後、ハンスに


「その改ざん要求も記録に残すことになりますよ」


と無情にも言われてしまったので、私は洗いざらいジーク様に吐き出し、謝罪した。

 やらかしたことは、早めに対処するほど傷が浅くて済むことは仕事で身に沁みている。先手必勝だ。


「貴方という人は……」


 そう呆れたような顔をして言われたけど、直後にふっと表情が緩む。


「俺の言葉を思い出してくれてありがとう」


「はい……」


 甘くなった空気に、溺れてしまいそうだ。

 手を絡め、ジーク様に自室へ送ってもらう。


「ゆっくり休むといい」


 そう言って、少し指の力が強められた後離れていく。名残惜しかったけど、ジーク様は討伐の直後で疲れている。

 私は素直に頷き、ジーク様が自室に入るまで見送った。



※



 討伐の後処理が落ち着いた後、補佐官の部屋で仕事をしているとジーク様から呼び出された。

 隣に移動すると、騎士服を身に着けたジーク様の姿がある。

 ソファを指し示され座ると、ジーク様が隣に座った。

 ジーク様の話は、討伐の話だ。

 今回帰還中に現れた魔物はゴブリンの群れだったそうだ。


「群れは大きかったのですか?」


「ああ、中隊ほどだ。……一度遠征する必要があるな」


 ラディウスが眉を顰めた。

 以前読んだ資料によると、単体では脅威にならない小物だけど、増殖期には爆発的に増えるそうだ。


「レティが来てから、遠征は初めてだったな」


「はい。遠征とは何を行うのですか?」


「いつもの巡回ルートより、奥深くを巡回する。『魔物溜まり』という魔物が生まれやすい場所を見回るんだ」


 季節の移り変わりの頃に定期遠征というものがあるというけど、今回のように異常が発見されたときは緊急遠征を行うそうだ。


「魔の森は広大で、すべてを見回ることはできない。今回のような異常があるときは、すぐさま確認して群れが育つのを防ぐ」


「いつものルートに組み込むことはできないのですか?」


「奥まった場所にあるからな。組み込むとなると、人が足りん」


 そう言われて納得した。話が終わると、ジーク様は期日の短い書類を片付けるという。

 その後は騎士舎に赴き、副団長たちと共に緊急遠征の人選を最終確認するそうだ。

 ラディウスとユーグは緊急遠征の兵糧の手配。私もその仕事を覚えるため、二人に同行する。

 遠征はおおよそ一週間かかると告げられた。


「……寂しい」


 ぽつりと漏らした呟きが、ジーク様の耳に届いてしまったようで、立ち上がろうとしていたジーク様が座り直した。


「そう、思ってくれるのか」


 静かな声だった。ジーク様の顔を見ると、穏やかな目で私を見ている。

 頬が熱くなった。


「はい、とても。でも、我慢いたします」


 私は素直に頷いた。

 ジーク様への思いは降り積もる雪のように、静かに静かに積もっていく。もう地面は見えない。


「遠征が無事に終わることを祈っています」


「ありがとう」


 ジーク様が微笑む。私の心臓は、壊れたように早鐘を打った。



※



 ジーク様が遠征中、私は暇があれば蔵書室に籠もっていた。

 蔵書室に入るとすぐに騎士たちの覚書を手に取り、備え付けられた机につく。

 アミュレは何も言わず新しい紙とペンを脇に用意してくれた。

 いつもと同じように、ひとまとまりの覚書をすべて読み終えると、頭の中で内容をまとめ上げ、紙に書き出していく。

 書き終えるとまた新しい覚書を手に取る。

 いくつかのまとめを書き終えた頃、アミュレがそっと紅茶を置いた。

 顔を上げると、アミュレが優しく微笑む。


「レティシア様、少しお休みいたしましょう」


「ありがとう。そうするわ」


 椅子の背に身体を預けると、じわりとした疲れを実感する。

 前世なら、情報を打ち込めば条件検索や日付のソートなども簡単にできた。けれど、今世はパソコンのパの字も存在しない。データベースが欲しい。

 私が本物の天才ならば、覚書をすべて読み込んだ上で、簡単にまとめ上げることもできたのかもしれない。

 私には、できない。

 ジーク様のお役に立ちたい。私も戦えたらよかったのに。よくある転生物みたいに、魔法や治癒が当然のように使えるチート。そんなものがあれば、こんなに不安も寂しさも覚える必要はなかったかもしれない。

 そう考えても、できないものはできない。結局私に残されたのは、できることで役に立つことだけ。

 ひと息ついた私は、また覚書を手に取った。


「ふう……、傾向が読めてきたわ」


 ずっと覚書を読んでいると、ある程度魔物の出現場所や発生時期が読み取れるようになってきた。

 事前に読んでいた資料ではわからなかったことだ。


「レティシア様、少しペースを落とされてはいかがですか? ジークヴァルト様が遠征されてから、根を詰めすぎです」


「……自覚はあるのだけど、だんだん楽しくなってしまうのよね」


 自分でもどうかと思うけど、自分を追い詰めれば追い詰めるだけハイになる。

 前世では主に繁忙期の残業時に同じ状態になることが多かった。


「自覚がおありでしたら、なおのこと、ご自愛くださいませ」


 ぐうの音も出ない。今日はもう、早めに休もう。アミュレを怒らせると後が怖い。

 そうして久しぶりに早めに入ったベッドは気持ちよく、すぐに意識を手放した。


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