14-アルベルト殿下の手紙
最初に書いてあったのは、お祝いの言葉だ。アルベルト殿下は私が義姉にならなかったのを残念がっている。私も殿下が義弟にならなかったのは少し残念に思った。
そして、次に今回の原因が書かれていた。
「今回の発端は、ユリウス殿下がダグラーゼ領に送るはずの伝書鳩を横取りしたことのようです」
なぜ伝書鳩を横取りしたのかというと、浮気相手に手紙を送るためなのだそうだ。
王都内なので使者に手紙を託しても、一日以内でやりとりはできるだろう。しかし、使者を介することで生じる数時間すら待てなかったユリウスは伝書鳩でエマーレとやり取りすることを好んだ。
問題が起きたのは、各地へ治癒師を配置する通達と、受け入れる教会と用意が整う時期の返答を求める書簡が、伝書鳩で順次送られている最中のことだ。
鳩番たちは書簡を括り付け、各地へ飛ぶための擬似巣の位置を魔道具で刷り込む。
そして、使用した魔道具、伝書鳩に割り振られた番号、放たれた日付を帳簿に記載するまでが手順として決められている。
「そのような手順があるのであれば、齟齬が発生すればそこでわかるのではないか?」
「普通は、そうですわね」
ジーク様の疑問は当然だ。
しかし、最悪のタイミングでユリウスが現れた。
ダグラーゼ領への書簡を用意して、まさに放つ直前だった伝書鳩を止めたのだという。
『その伝書鳩は俺が使う。緊急で書簡を出す』
王太子にそう言われて拒否できる者はいないだろう。
『この書簡は俺が後で出す』
そこまで言われてしまったので、鳩番は仕方なく、他の仕事を片付けに行った。
ユリウスは自分が使う分の帳簿は侍従に記載させ、ダグラーゼ領宛ての書簡は自分の執務室へ持ち帰ったそうだ。
そして、そのまま忘れられ、机の引き出しに放置された。
アルベルト殿下がこの件で自ら立ち入り調査をし、書簡が発見されたのだという。
戻らない伝書鳩もおらず、文官たちの手元に書簡もない。膨大なやりとりの中で、ダグラーゼ領の通達そのものが届いていない事実は見過ごされた。
「例外的なことが起きた場合の手順が確立されておりませんでした。お詫びのしようもございませんわ」
「貴方が謝ることではない」
「いえ、この責任者は私でした。……表向きはユリウス殿下でしたが」
王太子として『箔』をつけるために、いくつかの事業や法案を王太子の名で私が担当した。
国王陛下直々の依頼で断ることなどできなかった。
「いかような罰でもお受けいたします。どうぞおっしゃってください」
「そんなことは……」
ジーク様の言葉が止まる。なぜか私の顔をじっと見つめた後、視線が下に落ちる。
そのまま、後ろに倒れた。
なぜ。
ジーク様の視線が落ちた先を確認しようと私も下に視線を動かす。……今日は割と胸元が開いたドレスを着ていた。
何をどこまで考えたのだろう。
順調に私を一人の生身の女性として認識し始めているのだろうか。そう考えると、よい兆候のように思えて嬉しくなった。
少しして、ジーク様が目を覚ました。私の顔を確認すると、頬が赤くなった。
その様子に思わず頬が緩む。
「先ほどのお話を撤回するつもりはありません。罰が必要だと思われたら、いつでもおっしゃってくださいね?」
「う、うむ……」
今度は否と言わなかった。私はまたクスクスと笑ってしまう。
ジーク様は視線を泳がせている。ラディウスとユーグの聞こえないふりは見事だった。
「では、あとはアルベルト殿下が決められたダグラーゼ領に対する補償のお話をいたしましょう」
気持ちを切り替えて、先ほどの話を続ける。一番重要な内容はこれからだ。
「まず、早急な治癒師の派遣を行います。治癒師の移送は、王都騎士団の馬車を使用。治癒師を配置する教会の選定をお願いします。今回に限り、着任の費用は王家が持ちます。
また、本来配置されていれば必要がなかったと想定される治療費のほか、退団せざるを得なかった騎士やその家族に対する補償金などを算出をしてください。これは精査したうえで、支払われます」
「ラディウス、領都のレリウム教会に打診を。あと、ユーグを騎士舎へ使いに出してくれ」
すっ、と表情が領主のそれに切り替わる。私に関しては挙動不審になるのに、こうして自分の責務には実直なところが素敵だ。
「かしこまりました」
ラディウスは隣室の扉を開けて出ていった。
「すでに、例外時の伝書鳩使用については手順が改められています。
今後は、例外的な使用が発生した時点で、部署の責任者に報告し、使用者を除く二名以上の確認を必要とします。
……ここまでで、何か不明点はおありですか?」
「いや、ない。……まるで王都から派遣された文官のようだな」
「こちらへ来る前は似たようなものでしたわ」
ジーク様が苦笑した。
裏では『ユリウス殿下の尻拭い係』と揶揄されていたことも知っている。
普通の婚約者は、ここまでしない。
それでも、目の前で問題が起きていて助けを求められたのなら、動かずにはいられなかった。
「レティ、礼を言いたい。貴方がいなければ、この地に治癒師が来ることはなかったかもしれない」
「ふふ、とんでもございません。
……私もお礼を申し上げます。貴方が私を受け入れてくれたから、この地のために動くことができました」
そう返すと、ジーク様は目を見開いた後、破顔した。緊張も何もない、素のままの笑顔。
それを真正面から見た私の心臓が、大きくはねた。
面白いと思っていただけたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをしていただけると励みになります。




