episode28
「おぅおぅ。いい匂いじゃあねぇか。」
「凛太朗さん。」
「京司。リクエストなんかして悪かったな。無性にお前さんの豚汁が食べたくなってな。」
「お安い御用ですよ。」
調理も終盤にとりかかった時、凛太朗さんがキッチンに姿を現した。
「凛太朗さんがリクエストして下さったお陰で献立が組みやすかったです。サバの味噌煮込みは、前に凛太朗さんと叶弥が美味しいって言ってくれたので久々に作ってみました。」
「...お前さん、そんな前の事覚えてんのか。いい嫁さんになるなぁ。」
いくつになっても凛太朗さんから褒められるのは嬉しく、くすぐったい気持ちになる。
「叶弥もいい嫁さん貰えて、おれは幸せもんだぁ。」
「嫁さんはやめてください。オレも男なんで。」
「ハハッ。そーかいそーかい。...しかし、お前さんがウチに来てくれて良かったとオレは思ってるぞ?ありがとうな。」
「...なんですか、急に。」
「別に。言いたくなっただけだ。気にするこたァねぇ。」
凛太朗さんがあまりにしんみりと言うものだから思わず疑問を持ってしまった。しかし次の瞬間には凛太朗さんもカラカラと笑うものだから、オレも気にしないことにした。
「もう出来上がるので、広間で待っていてください。」
「おぅ。そうさせてもらうわ。」
そう言って凛太朗さんはキッチンを後にした。それを皮切りにオレは料理を仕上げ、盛り付けていく。
「京ー。宿題終わったァ。腹減ったァ。」
「もう出来たから。運ぶの手伝え。」
「うぃー。」
凛太朗さんと入れ替わる様にキッチンに入ってきた叶弥には料理を運ぶ雑用を命じる。叶弥は文句を言わずに素直にオレの言うことを聞いた。...いつもなら、めんどくさい。ダルいと言って聞かないのだが。そう思っていると、叶弥が近づいて来たので料理を手渡そうとした。その時だった。オレの両手が塞がっているのをいい事に抱きついてきた。
「おい!危ないだろ!離れろ!」
「京ぃー。疲れたァー。」
「...早くしないと夕飯抜きな。」
「ちぇっ。ハイハイ。持っていきますよー。」
叶弥は油断も隙もあったもんじゃないから困る。今のオレらのやり取りを見ていた若衆のヤツらはポカーンとして固まっている。
「ん?どした?」
「け、京司さんが若に抱きつかれたことに対してはキレなかった...」
「むしろ、危ないって心配してた...」
コイツらももうダメだ思いながら全員の頭を叩いて、料理を持って行くように指示を出すのであった。そうして、広間に料理が出揃うと、凛太朗さんのかけ声で賑やかしい夕飯が始まるのであった。




