表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

第十二章

 古ノ美の父三田村太一郎はエリート官僚だ


 彼は警察にも人脈があり、三田村古乃美と葛城優が、容易く三浦省吾の収容されている病院


へ入れ、彼に面会できる手はずが整ったのは、三田村太一郎の見えない力だった。


 当然、あまり現場警官には歓迎されなかった。彼等とすれば高校生の少年少女など捜査の邪


魔であり、探偵の真似事は越権行為なのだ。


 だが、決意した古乃美は強かった。非友好的な視線をはじき返して、ずんずんと三浦の病室


へと歩く。


三浦省吾みうら しょうご』とプレートがかかった一人用の病室を前にしても臆するこ


ともなく、ノックして返事の前にもう扉を開けていた。 


「な、なんだ……お前ら?」


「三浦先輩……私は一年二組の三田村古乃美です、こちらは葛城優君、私たちは今回の事件を、


怪人・火廻りを捕まえるために来ました」


「はあ?」三浦は目を白黒させ、聞き返す。


「事件を解決するために、お話を聞きに来ました」 


 こんな時、古乃美はもの凄い行動力を発揮する。三浦の了承を得る前に、壁に立てかけてあ


るパイプ椅子を取り、三浦のベッドの横に座った。


「……ま、まあいいか」三浦が頷いたのは、明らかに古乃美の迫力に負けたからだ。


 第一関門突破だ。ここで三浦がごねたら、優はぶっ飛ばすつもりでいた。


 拷問も悪くない。


「まず、あの怪人……先輩に火を放った人物ですが、三浦先輩は橋爪先輩だ、と断定しました、


何故ですか?」


「ああ、それか……花火だよ……ええと、俺と橋爪は夏休みの練習後、必ず学校の屋上で花火


をやったんだ。二人だけで……これは須藤も知らない……俺たちだけの秘密だ、あいつはそれ


を知っていた、だから橋爪だ」


「あの人殺しは橋爪だ」吐き捨てるように三浦はもう一度断じた。


「花火……詳しく教えて下さい」


「うん? そんなこと意味あるのか? まあいいさ、ほら、この街、夏に河原で花火大会やる


だろ? 俺と橋爪……まだあいつがマトモだったときにそれを見にいこうとしたんだ。だけど


スゲー人混みで、とても居られなかった。そん時あいつが学校の屋上に思い付いたんだ、で、


行ってみるとこれがドンピシャで、花火大会の隠れ名所だった。その後くらいから、何となく


屋上で二人で花火をすることになったんだ。まあ、コンビニで売っている程度の奴だが、俺た


ちも色々ストレスがあって、夜の屋上で発散してたんだな。誰々先輩は嫌いだ、とかコーチの


クソ野郎、とか叫びながら」


 三浦の瞳に違う色がたゆたう。過去の自分たちを見ているのだろう。


「でも」古乃美は唇の横に人差し指を添えて、考えている。


「学校はその時間閉まっていますよね? 屋上も」


「ああ、それは用務員の熊谷さんに話しを通したんだ。いい人だよ、いつからか花火も用意し


ていてくれるようになった」


「なるほど……で、須藤先輩のことですが」


 ぐぐっと三浦が白い歯を剥き出して唇を噛む。まだその話題は地雷のようだ。が、古乃美は


臆さない。


「須藤先輩は橋爪先輩の失踪は自分のせい、と言っていましたけど。それについてですが」


 三浦はふて腐れたように顔をそむけるが、古乃美は待つことにより催促する。


「わかったよ……ああ、そうかもな……実は、今まで黙っていたことがあるんだ、その、ケー


サツにも」


 三浦は唇を歪め、綺麗に狩っている頭部に手を置いた。


「橋爪があんなだし、言わなければ行けないなー、とは思った、だから教えてやる、アイツが


消える前、俺とアイツで殴り合いの喧嘩したんだ、須藤についてな」


 優は息を飲む。それは確かに新情報だ。


「放課後の学校で、んで俺がノックアウトした。まあ喧嘩は俺の方が強かったんだ。アイツは


白目を剥いてぶっ倒れたから俺は怖くなって、人を呼びに言った。だけど戻ってきたらアイツ


はいなくなっていた。鞄や持ち物も一緒に、きっと気が付いたけど気まずくて帰ったんだ、と


思った……その後消えちまった」 


 ここで言葉を切ると、三浦は毛布の上から自分の足を叩く。


「だけどよ、だからって復讐しに来ること無いだろ? なんで里見を殺したんだよ! あの人


殺し!」


 三浦は荒れ、橋爪への憎しみの言葉を幾つも宙に投げつける。


 優は詰まらない映画を鑑賞しているように無感動だが、ぎゅっと握った拳を膝の上に置いて


いた古乃美は、前触れもなくすっと立ち上がった。


「古乃美ちゃん?」


「判りました……ありがとうございました」


 三浦は驚い様子で黙ったが、一切構わず古乃美は病室から出た。


「はあ」と大きな息を吐く。


「優君」


 古乃美は泣き笑いのような表情で、見上げてきた。


「私、判っちゃった……何もかも」


「ええと」


「動機も、怪人の正体も、きっと当たりだよ」


 優は答えられない、古乃美の寂しげな微笑に見とれるだけだ。


「どうして火だったのか、どうして三浦先輩なのか……里見は……」


 ぶつぶつと誰かに呟いている。


「その……優君、だから私、同じ方法で怪人を捕まえようと思うの……つまり、うん、だから


三浦先輩を囮にするわ」


「……それは危険だっ! 古乃美ちゃん!」


 子細を聞いた優は反対した。古乃美の提案は無茶だった。相手が『怪人』かはまだ判らない。


しかし、普通ならアルコールを使う芸の火吹きを、口の粘膜を考慮しないでガソリンを使う『尋


常ならざる相手』であることは間違いないのだ。


 が、彼女は頑固に首を振る。


「これが一番なんだよ、怪人をおびき出す」


「でも」優は更に幾つか彼女への反論を舌に乗せてみた。が、結局それを形にしない。いざと


いうときの古乃美がテコでも動かないことを知っている。


「わかったよ……古乃美ちゃん」長い討論の末、優はため息と共に首肯した。



感想、いいね、評価、ブクマ。




頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ