パウエルの誕生
お見合い相手二人目も似たような人物でした。本来、お店を継ぐ事のできる相手を探していたのはこちらですし、野心があるのはむしろ良いことではあるのですけどね。だからといって、サナを大事にできないというのは言語道断という考えを義父母は持ち合わせていました。ありがたいことです。
問題は、三人目でした。
人柄も良く、性格は温厚で、頭も切れる、跡取りとしては文句の付け所がない人物でした。サナのことを気遣う様子も伝わってきましたから、この人で決定しようかという話が出たほどです。
サナとしても否やはなく、相手も好意的に接してくれました。けれど、サナの身に時折ふりかかる変化、つまりスピリットチェンジのことを伝えるべきか、それが気がかりでした。
夫婦となるのなら、いつかは伝えなければなりません。それを打ち明けるタイミングを計りかねていたのです。サナには自覚もありませんでしたしね。この頃の私はいつもその事について考えていたように思います。
そうして、何度目かの顔合わせの時でした。二人きりで少し出かけようと、村から出た先にある丘に行った時の事でした。義母にお弁当を用意してもらって、二人でピクニックです。サナにとっては人生で初のデートとなりました。
相手の彼は話もうまく、口下手であまりうまく話せないサナ相手でも気にする事なく、いろんなことを話してくれました。それはもう……少々、うるさいくらいに。
悪気はないのです。悪気がないことはよく伝わりました。きっと気を使ってるからこそ饒舌になっているのでしょう。それもわかります。けれど……
「サナはいつも時間が空いている時は何をしているんだい? 僕はね……」
といった具合に、質問を振る割には答える隙を与えず、自分のことばかり話してしまうのです。それでいて時折ハッと気付き、僕ばかり話していてごめんね? と申し訳なさそうに伝えてくるのです。そして、また同じことを繰り返す。それが、サナにはストレスとなっていたようでした。
本来、静かな場所と時間を好むサナですので、一方的なお喋りは騒音に感じるのですよね。そうでなくても、このお喋りっぷりは誰でもうんざりしてしまうかもしれませんが。会話にもなりませんから当然でしょう。ええ、本当に、悪気がないのが余計にタチが悪かったですね。
彼のご両親からも、彼は自分のことだけを話してしまうところがある、という話は事前に聞いていました。けれど、これほどとは。
「それで、この間同じことを言っちゃって、父にものすごく叱られてしまったんだ。本当に反省しているんだけどね、ついつい話してしまうんだよ。昨日だってね……」
彼のお喋りは、食事中も続きます。こんなにいい天気で良い景色のところにいるのだから、食事中くらいはもう少しだけ静かに楽しみたい、とサナは思っていました。けれど、サナの性格上、とても言い出せません。それに、せっかく義父母の家を継いで貰えそうな良い相手を見つけたのに、自分のわがまま一つでダメにするわけにはいかない、とひたすら我慢していたのです。
とはいえ、じわじわと溜まったストレスは、すでに限界に達していました。彼の口からトドメの一言が飛び出した時、それは起きたのです。
「ふふ、楽しいなぁ。結婚したら、毎日こうしてサナとお喋りしながら過ごしたいな」
サナとしては絶望的に感じたことでしょう。大袈裟かもしれませんが、これから一生、このお喋りに付き合わなければならない、それも毎日と思えば気持ちもわからなくもありません。これまで積み重なったストレスが爆発し、心の中の世界に濃い緑の光が溢れ出したのです。
瞬時に、ストレスによって新たな魂が生まれるのだとわかりました。だからこそ、最大限の警戒をしていたのですが……
光が収まったところに現れたのは、ボサボサな赤い髪をした大柄な男でした。カッと見開いた緑の瞳は、こちらを写していない事が見て取れます。念のため声をかけては見ましたが無反応ですし、何より、談話室のソファを突っ切って支配者の席へ向かいましたからね。認識していれば、ソファを突っ切ることはできませんし。
こうして、どうにもできない中、彼はスピリットチェンジで表に出てしまいました。その後のことは……今思い出しても頭を抱えてしまいますね。
「うわああああああああああ!!!」
「えっ、わっ、な、何……!?」
突然、両腕を上げて大声をあげたパウエルは、その場に立ち上がり、思いっきり拳を振りかぶったのです。唯一、助かったのは、その拳をお見合い相手に向けなかった事でしょう。いくら無機物しか破壊できないスキル【破壊】であり、サナの非力な身体であるといっても、力の強さは成人男性以上にあったでしょうから。
そうは言っても、現場は悲惨なことになりましたけどね。パウエルが拳を地面に向けて振り下ろした事で、ピクニック用のお弁当は粉々、敷物もビリビリにちぎれ、それどころかクレーターが出来上がってしまいましたから、その反動で彼は後ろにゴロゴロと転がっていってしまったのです。怪我はなかったでしょうが、かなりみっともない姿をさせてしまいました。今思い出しても、申し訳ないです。
そうなったら当然、彼の方は溜まったのもではないですよね。突然のことに最初は訳がわからない、といった様子で呆然としていましたが、何が起こったかを理解した瞬間、顔は青ざめ、全身をガタガタ震わせて叫んだのです。
「ひっ、ば、化け物おぉぉぉぉぉ!!!!」
その単語は禁句であるというのに。ま、この時はまだパウエルでしたから、サナの耳に届いていないことが幸いでしたね。ですが、その直後にストレス解消して満足したのか、パウエルは中へと戻ってきました。
戻ったサナは目をパチクリさせて首を傾げます。
「あ、あの……私、何かしてしまったの、かな……?」
目の前に広がる惨状を見て、なんとなく察しはしたのでしょう。無理やり取り繕った笑顔でサナは問いかけましたが、それがより恐ろしく見えたのでしょうね。お見合い相手の彼は、足をもつれさせて何度も転びながらも逃げるように去って行きました。遠くなっていく叫び声を聞きながら、サナはその場でがっくりと項垂れることとなったのです。
「また、なにかやっちゃったんだ、私……もう、どうしたらいいの」
自分の覚えのないところで、大きな何かをしでかしてしまう。それは、普通の生活を送れば送るほど、サナにとっては大きな障害となっていました。
ある意味、本当の両親のもとで放ったらかしにされていた頃の方が、このような悩みは抱かなかったでしょう。こうなる原因を作ったのが本当の両親なので感謝などはみじんもする気はありませんけどね。
「家、出よう、かな……もうこれ以上、迷惑かけられないよ……」
こうして、サナは家を出る決意をしたのです。ですがこの性格ですし、サナからは言い出せませんからね。オースティンの話術で説得し、サナとしてはいつのまにか義父母がサナの一人暮らしのための準備を整えてくれていた、という状況になります。自分がいらなくなったのかな、という誤解を与えてしまいましたけど……涙ながらに送り出した義父母を見れば、さすがに彼らの気持ちもわかってもらえたと思います。
そういった経緯でサナは、なんでもすぐに手に入れられて、義父母ともわりとすぐに連絡を取り会える場所、王都にあるあの小さな家で、いろんな苦労をしながらもそれなりに幸せに細々と生活をすることになったのです。
そう、勇者が押しかけてくる、あの日まで。





