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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第十一魂 パウエル

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選択


 話し終えたナオは、先ほど言っていたように周辺に光魔法をかけ始めました。ちょっと手を振って軽々とかける様子は、大丈夫だと言っていた本人の言葉が本当なのだと見せつけられた気がしましたね。実際はそれなりに消費しているでしょうけれど。


 その後、進めば進むほど暗く、重苦しい空気となる森を進みました。まだ目的の北の森に入ってすらいないのですが……事は想像以上に深刻なようです。


「さらに酷くなってるな……」

「前はそんなでもなかったのか?」

「ああ、北の森に入ってしばらくはまだ健康な森だったからな……あ、ほら、あのひらけた場所あるだろ? あの向こう側からが北の森だ」


 カイルが険しい表情でそう言うと、ナオが聞き返します。闇を宿した魔王の魔力は、こうまで自然を侵食していくのですね。それもじわじわと、その範囲を広げているようです。


「ほんのわずかの期間でこれだもん。このペースでいったら、世界が闇に飲み見込まれてしまうのも大げさな話じゃないよね……」


 イーシャが体をブルリと震わせて不安そうに言いました。実際大げさではないと思います。まぁ、このまま何もしなければ、ですけれど。


「そんなことはさせないさ。ベリラルは飲み込まれてしまったかもしれないけど……ここで食い止めてみせる」


 そのために旅をしているわけですしね。ナオはグッと拳を握り、仲間たちも力強く頷き合いました。

 しかし、どこかで一度、ベリラルについてみんなに説明しなければなりませんね。国全体が飲まれていると予想できますが、あの国の裏側を話しておかないと、色々と面倒なことになりかねません。その役目は本来ならオースティンに頼みたいところですけれど……弱っていますし無理はさせられませんしね。やはりルイーズでしょうか。嫌がるでしょうけれど。


 そうこうしている間に、少しずつ魔物が増え始めてきました。北の森に入ってからはひたすら狩っている気がします。早い所ルイーズと交代しておきたいのですが……すでにリカルドの魔法でサナに対して疑問を抱いているカイルとイーシャの前では少々戸惑われます。


「増えてきたな……っと」

「そうですわね……カイル、イーシャ。そろそろ戻ってくださいな!」


 と、ちょうど良いタイミングでフランチェスカが切り出しました。


「でも、いいのか? かなり魔物が増えてきた、けどっ!」


 襲い来る魔物たちの相手をしながらカイルも答えます。けれどそれで手一杯になっているようですからどのみちここまででしょう。


「安全に帰れる今のうちに、行くべきにゃっ!」

「それに、もう方向はわかる!」


 エミルもナオも同意します。が、ナオの方向がわかるとはどういうことでしょう。魔王の気配を察知しているのでしょうか。


「ま、なんとなくだけどな! とにかく大丈夫だから、はやく村のみんなを安心させてやってくれ!」


 なんとなく、でしたか。まだはっきりとはわからないのですね。

 けれど、これほどまでに濃く、禍々しい魔力が充満しているのなら、ナオでなくても大体の方向はわかる、というものです。


 より禍々しく、濃い魔力の方へと行けば良いだけなのですから。


「くっ、わかった! すまねぇ、力になれなくて……!」

「光魔法まで使ってもらっちゃったし……本当に、ごめんね!」


 自分たちがいても、もはや出来ることはなく、むしろ足手まといになり兼ねないと気付いたのでしょう。二人は謝りつつも後ろに下がり始めました。


「あ、あの、サナは? サナも、行くの……?」

「え、私……?」


 そのまま避難所の方まで去っていくかと思いきや、イーシャが戸惑いながら声をかけてくれました。実際、サナには戦う術がありませんからね。イーシャが心配してそういうのも納得のできる話ではあります。


「よかったら、一緒に避難所で待っていてもいいんだよ?」

「いくらスキルがあるったって……そうじゃない時は多いんだろ? 何かあったら危ないぞ」


 善意での申し出なのは分かっています。だからこそ、サナは答えに詰まりました。そして実際、自分はいない方が良いのではないか、と考えてさえいますね。ここへきて、自分の無力さをひしひしと感じていますし。

 いくらナオたち仲間が、そのままのサナがいいのだ、と言ってくれたとしても、それは友達としてです。魔王を倒すパーティーに必要か、と言われればむしろ邪魔だと思うのは当然ではありますから。


 サナは答えることができずに、ナオたちの方へ顔をむけました。すると、目があったナオがまっすぐな眼差しで口を開きます。


「サナが、決めろ」

「え……」


 予想外の言葉でした。てっきり、サナは仲間だから一緒に来いとでもいうのかと思っていましたからね。サナからは戸惑いの気持ちが流れ込んできます。


「サナが、俺たちの仲間であることは変わらない。一緒にきても、そうでなくても」


 ナオは襲い来る魔物を剣で捌きながら迷いのない言葉をかけてきます。


「サナにとって、安全なのは避難してることだ。その方が俺たちも安心はできる」

「そ、れは……私は、避難所に行け、ってこと……?」


 震える声で、サナは問います。まるで、引き止めてほしいとでもいうような響きがそこにはありました。


「ニャオ、にゃんでそんにゃこと……!」

「エミル、待ってください。……今は、サナに聞いているのですわ」


 怒ったようにエミルが突っかかっていくのを制したのはフランチェスカでした。今は、サナに聞いている……なるほど、そういうことですか。では、私も見守ることにします。


「俺はどちらでも構わないって言ってるんだ。付いてくるなら、全力で守る。それだけだしな」

「……そんなの、どうしたらいいのか、わかんな……」

「わからなくない! サナ、お前がどうしたいのか、なんだよ! 俺にこう言われて、どう思ったんだ? もう答えは出てるんじゃないのか!?」


 戸惑うサナに、珍しくナオが声を荒げました。同時にビクリとサナの体が震えます。……この点については後で制裁が必要ですね。怯えさせるのは論外です。


「俺は、俺たちは、お前がどんな答えを出しても受け入れる! 怖がらなくていいんだ。聞かせてくれ。……サナ、お前はどうしたいんだ……?」


 ナオが、構えていた剣を収め、そっとサナに近付きました。その意を汲んで、フランチェスカとエミルは周囲の魔物を二人に近づかせないよう二人を囲むように立ちます。


「わ、私は……」


 選択を、迫られる。

 それは、サナにとって難題です。これまでは、こうした質問が来るとパニックになってすぐにミオにチェンジしてしまいましたが、タイミングが良いのかなんなのか、今、そのミオはいません。


 つまり、サナは初めて、この難題に向き合うこととなっているのです。


 きっと、どうしたら良いのか分からず、困っていることでしょう。ジワリと涙が滲んでいますし、身体中ブルブルと震えています。

 頑張って、頑張ってください、サナ。あなたがまた一つ、壁を乗り越える時なのです。


「あ、私……」


 そっと、避けていた視線をナオに向けたサナ。その瞳に映るナオは、いつもの眩しすぎる太陽の笑顔ではなく、暖かな日差しのような微笑みを浮かべていました。同じ太陽の微笑みですが、こうも違うのですね。サナの怯えた心が、少しずつ緩んでいくのが伝わってきました。


「あ、の……」

「うん。言って」


 続く、ナオの優しい言葉の響きに、サナはようやく口を開く決心を固めたようです。ああ、ついにここまで。サナが自分の意見をぶつけることができるようになるなんて。

 魔物溢れる禍々しい森で、サナはまた一つ、成長を見せてくれるのでした。


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