表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第六魂 ミオ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/98

【心の中の世界】ミオの消滅


 サナが、泣いた。


 初めてのことです。これまで、サナはどこまでいっても無感情な少女でした。笑っても、怒っても、泣いても、何をしても存在を疎まれていましたので、それらを封じ込める癖がついていたからです。

 けれど、義父母に引き取られて少しずつ笑顔を覚え、ナオたちと出会って少し怒ったり、悲しんだり、共にいる喜びを知りました。

 それでもまだまだ感情を表に出す事は苦手で、涙を流すなんてことはまずなかったのですが……悲しみでも苦しみでもない、喜びの涙が、サナの流す初めての涙になるとは思いもしませんでした。


 ナオやフランチェスカ、エミルが次々にサナを励ましていきます。笑顔で。それにより、サナが涙を流しつつも笑って答えていました。


「……サナおねーちゃん、ないてる」


 ふと、アリーチェの腕の中でミオが呟きました。ぽかんとした表情で、スクリーンを見上げています。どうしたのでしょう。ミオも泣きたくなってしまったのでしょうか。でも今チェンジされると少し困りますね……ここは地下にある避難所ですし、村の人たち全員がミオのスキル【爆音】の被害にあってしまいます。

 そう身構えていたのですが、ミオは予想外の反応をみせたのです。


「み、ミオが……」

「笑ってる……」


 常に不安そうに、いつでも目に涙を溜めていたミオが、笑っています。サナが表で初めて涙を流し、ミオがここで笑顔を見せただなんて……これは偶然なのでしょうか。オースティンやルイーズも驚いています。泣き顔か寝顔くらいしか見たことありませんからね。


「よかったぁ」

「!? ミオ!?」


 次いで、ミオが嬉しそうにそういうと、どういうわけかミオの身体が透けていきました。オースティンが慌ててミオに駆け寄ります。わたしも思わず立ち上がりました。これは、一体……!?


「ミオ、もういらない子なの」

「何、言って……」

「ミオ、おねーちゃんになる!」


 お姉ちゃんになる?

 ミオの身体はサラサラと粒子のように消えていき、やがてそう言い終えると、ついに……その姿を消してしまいました。


「消え、た……!?」


 わけがわからない、というように驚くオースティンを尻目に、私はルイーズに叫びました。


「ミオの部屋がどうなっているか、確認してきてください!」

「……っ、わかった!」


 私の言葉を受け、部屋の方へ走っていったルイーズ。それからしばらくして、真剣な表情で戻ってきて言いました。


「部屋も、ない……」

「なっ、そんな……!?」


 その報告に、オースティンがショックを受けたように膝をつきました。なるほど……やはりですか。やはりミオは。私が口を開きかけた時、クスクスと嫌味な笑い声が談話室に響きました。


「あららぁ? ミオったら、消えちゃったのねぇ?」

「ニキータ。なにが面白いのです? そんな風に笑って、ミオがいなくなって嬉しいとでもいうのですか」


 私がそうたずねると、ニキータは赤い目を細めてこちらを見やりました。


「そぉんなこと言ってないじゃない。失礼しちゃう。でも、そうねぇ……ジネヴラ、さっき自分のせいで渦がって言ってたからぁ。ジネヴラのせいで、ミオが消えちゃったんじゃなぁい? そう思うとおかしくって。だって、ジネヴラったらぁ……」


 ウェーブのかかった金髪をかき上げ、色っぽく身体を私に巻きつかせながら、ニキータは私の耳元で囁きました。


「いっつも、何でも完璧にしようとするじゃない? 取り返しのつかない失敗をした気分って、どう?」


 なるほど、そういうわけですか。私に失敗してほしいというわけですね。理解のできない趣味ですが、貴女が嬉しそうな理由はわかりましたよ。けれど。


「ニキータ。残念ながら貴女の望み通りではありませんよ。なぜなら、ミオは消えたわけではないのですから」

「えっ!? どういう事!?」


 私の言葉にいち早く反応したのはオースティンでした。彼は年少組の世話役としていつも子どもたちと関わっていた分、人ごとではないのでしょう。幼い子どもが消えてしまったと、悲しんでいたんですね。でも、大丈夫ですよ。消えたとは少し違いますから。


「説明しましょう。簡単に言えば、ミオは消えたのではなく、サナの一部となったのです」

「一部……?」


 ルイーズが疑問を漏らしましたが、魔力の変化に敏感なリカルドは何かに気付いたようです。


「今、サナは少しだけ変わりました。ええ、初めて涙を流したでしょう? 元々、うまく泣くことができないからこそ、ミオは生まれました。ですから、サナが泣けるようになった今、別の(スピリット)として存在している必要がなくなった、というわけです」


 おそらく、ミオ自身が感じ取り、受け入れたのでしょうね。ミオにとっては、サナの一部となることは特に抵抗がなかったのでしょう。いえむしろ、そうであるのが普通であるかのように。


「サナの魂と、ミオの欠片が一緒になったんですよ。バラバラだった魂が、少しだけ元に戻ったのです。ですから、ミオという存在はここでいなくなりましたが、サナの中で生き続けていると言えるのですよ」

「じゃあ、僕たちはいずれ……みんなサナの一部になるってこと?」


 家事がこなせるようになればアリーチェが、魔法が使えるようになればリカルドが、人との交渉が出来るようになればオースティンが、という具合にという事でしょうか。


「……それは、わかりません。家事だって、サナは今多少できていますけど、アリーチェは存在しているでしょう?」


 やはり、(スピリット)自身がそれを受け入れられるかどうかがキーになっているのだと思いますけれど。こればっかりは前例がないので断言できません。憶測で物を言えば、余計にオースティンを傷つけかねませんしね。


「僕は……嫌だ。僕は僕だ……! 自分の、自分だけの身体がほしいよ……!」


 オースティンは、そう言い捨てて走り去ってしまいました。無理もありません。彼は人一倍、自身の存在を強く願っていますからね。慣れてきたとはいえ、本質は変わらないのでしょう。うまくフォローができずに、オースティンには悪いことをしてしまったかもしれません。私もまだまだですね。


「一つに、ねぇ。ミオは納得したってわけかぁ。つまんないの。ジネヴラが落ちこむかと思ったのにぃ」


 悪かったですね、ニキータ。貴女を楽しませられなくて。ブツブツ文句を言いながらニキータも部屋へと戻っていきます。


「で、も! オースティンは面白いことになりそぉ」


 やはり、性格が悪いですね。私はため息を吐きました。

 それからリカルドは無言で部屋へと戻り、アリーチェやパウエル、ノアは知らない間に姿を消していました。おそらくそれぞれ部屋へ戻ったのでしょう。


「眠るみたいだぞ」


 ルイーズだけはその場に残りました。すでにスクリーンを見つめて、サナたちの様子を見ています。いつの間にか時間が過ぎていたようですね。夕飯も終えて今日はもう休むようです。


「ルイーズは……サナの一部に戻りたいと、思いますか?」


 思わず、ルイーズの横顔にそんな言葉をかけてしまいました。特に深い意味はありません。ただなんとなく、口をついて出てしまったのですよね。


「……んな先のことなんて、知らないよ」

「……それもそうですね」


 その時になってみないとわからない、ということでしょう。それで結構です。つまり、強く拒否はしていないということでしょうから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ