避難所
気が急く彼らの進みは速く、私たちはひたすら無言で付いて行きました。村は四方森に囲まれており、よく狩りに行くと言っていた村の南側にある森の奥へと入って行きます。道中も頻繁に魔物が出現し、それらを討伐しながら進みました。
「こんなところにまで魔物が……」
「こっちも侵食されてたんだな。あたしたちが、ユーファリアに行っていた少しの期間に」
森は黒く、暗く、どんよりとした魔力が充満していました。身体に纏わりつくようなこの感覚は、どうにも気持ちが悪いとイーシャが零しています。
「ここだ。この祠の下に隠し通路があって、地下に続いてる。有事の際はここに避難してやり過ごせるように、食料なんかも備蓄してあるんだ」
辿り着いた先には確かに祠が存在していたのでしょう。けれど恐らく魔物によって見る影もないほど壊されていました。それを見たカイルたちは揃って歯を食いしばっているようです。
「入口がこじ開けられた形跡はないじゃん。きっと中に無事でいるよ!」
「そう、だな。よし、行こう」
ナオの前向きな発言に背中を押されたのでしょう、カイルもようやく口角をあげて答えました。本当は、心の奥底で最悪を想定してしまっているのでしょうけれど……その最悪に絶望するのはまだ早いのですから。
「か、カイルたちじゃないか!」
「あぁ、アン……! 無事だったのね……!?」
そして、事実、絶望する必要はありませんでした。地下に降り、奥に進むにつれて人の気配を感じましたからね。そのまま走って開けた場所まで来ると、村の人たちが集まっていたのです。カイルたちの姿を確認した村の人たちは、それまで不安そうにしていた表情を明るくして彼らを迎え入れました。
「それは、こっちのセリフだよ……!」
「うわぁぁぁん、良かったよぉっ」
「村がめちゃくちゃになってたから……もう、みんな、やられちまったのかと……っ」
アン、イーシャ、サイラスが安心からか涙をボロボロと零し始めました。ああ、良かったです。フランチェスカももらい泣きしているのか、目元を拭っています。
「みんな無事なのか?」
「ああ、怪我人はいるが、みんなここへちゃんと避難できた……ああカイル。お前たちとは二度と会えねぇかと……」
どうやら全員無事なようですね。ナオも嬉しそうに笑みをこぼしています。
「怪我の具合はいかがですの? よろしければ治療いたしますわ!」
フランチェスカがそう名乗りをあげると、今私たちの存在に気付いたのか、カイルと話していた村長らしき初老の男性が驚いて目を見開きました。カイルがすかさず命の恩人で、勇者一行であると手身近に告げると、さらに目を丸くさせました。一気に伝えすぎではないですかね?
「ええっと、つまり……魔王は、ベリラルにいる、ってことかい?」
さらに詳しく説明を聞かされた村長は、その表情に影を落として恐る恐る尋ねました。それに答えたのは勇者であるナオ。その可能性が高い、とだけ告げます。
「突然、こんなことになっちまったからな……魔王、か。とんでもねぇ事になったなぁ」
村長は驚きながらも、その事実を思いの外呆気なく受け入れました。これほどの被害を受けて、むしろそう言われた方が納得できる、と言います。しみじみと呟き、なにやら思案した後、顔を上げて私たちの方に視線を向けました。
「なんにせよ、君たちには感謝しなけりゃいけねぇな。カイルたちを助けてくれてありがとう。ここまで連れてきてくれて……本当にありがたいことだ」
「いえ、たまたま同じ方向に向かう予定でしたし、放っておくこともできないでしょう? それより村長さん、怪我人はいらっしゃいませんの? わたくし、治療の腕には自信がありますのよ」
村長からの感謝の言葉を笑顔で受け止め、それから胸を張ってフランチェスカがそういえば、胸を張ることで強調された大きな双丘がたゆんと揺れました。一瞬、その主張の激しい胸に目を奪われた村長でしたが、慌ててとんでもないと首と手を横に振りました。やや顔が赤いのは仕方ありませんね。
「怪我といっても処置は終えているから大丈夫だ。ここまでしてもらったのに、さらにお世話になるわけにはいかねぇさ」
「でも……」
「それに、君たちはこれから魔王と対峙するんだろう? 魔力や薬は少しでも温存するべきだ」
なぁに、命に関わる怪我人はいないから平気さ、と村長はカラカラと笑います。そんなヤワな身体の持ち主は山の麓の村でやっていけない、と。なんとも心強く、気持ちの良い物言いですね。
「気持ちだけ受け取っておくさ。ありがとうよ、綺麗なお嬢さん。せっかくだ、あまり綺麗なところではないが、ゆっくり休んで行きなさい」
村長がそう告げたことで、村の人たちの私たちを見る目も柔らかくなりました。魔物の群れに襲われて、心も酷く疲弊しているでしょうに、村の人たちの懐の広さにひたすら感心しますね。
「じゃ、お言葉に甘えて少し休ませてもらうか」
「そうですわね。確かに少々疲れましたし……」
「エミル、お腹空いたにゃ」
確かに、サナの疲労感もまだ抜けきっていませんからね。四人はあまり邪魔にならないようにと広間の端に移動してからそれぞれ腰を下ろしました。
「俺たちはちょっと家族に会ってくる。なんならここでテント張ってくれな? 気にせずゆっくり休んでくれ」
「ああ、ありがとうカイル。そうさせてもらうよ」
テントを張っても良いというのは助かりますね。どうしても集まりがちな視線にさらされ続けるのは気が休まりませんし。カイルの気遣いに感謝です。
こうして、家族の元へと去っていくカイルの背を見送ってから、私たちはテントを張り、その中に入ってゆっくりと身体を休めました。……それだけではありませんけれど。
「少し、作戦会議でもするか」
四人とも、そのつもりでいたのか、すぐさま首を縦に振ります。
「まずは……サナ」
「……っ」
名前を呼ばれたサナはビクリと身体を震わせました。やはり、先ほどリカルドとチェンジした後からぎこちなくなってしまっている件でしょう。何を言われるのかとサナは不安そうです。けれど、ナオは優しい笑みを浮かべつつ、そっとサナの背中に手をあて、ゆっくりと撫でました。
「お疲れさん。……気にしなくて、いいんだぞ?」
その一言にサナは目を丸くしました。ハッと顔を上げてみれば、同じように優しくこちらを見つめるフランチェスカとエミルと目が合いました。
「カイルたちがあんな反応になっちまったのは……事情も知らないんだから仕方ないさ。ちと怖がらせちまったのも、仕方ない。誰だって大きすぎる力を目の前でみたらそうなるし。けどさ」
ナオはそっとサナの顔を覗き込みました。それからいつもの、太陽のような笑顔を向けます。
「リカルドも、みんなのことを思って助けてくれたわけだろ? サナだって今、みんなを怖がらせたって気にしてる。そんなヤツがさ……優しくないわけない。落ち着けばカイルたちだってそれに気付くさ」
「そうですわ、サナ。リカルドのおかげでわたくしたちは助かったのですもの。驚きこそすれ、嫌な感情を抱くことはありませんわよ」
「うにゃ! それでも、もし変な態度できたら、エミルが怒ってやるにゃ!」
少なくとも、自分たちはサナの味方だ、と三人は笑みを深めました。サナは、予想だにしていなかった彼らの反応を見て、そのまま固まってしまいました。それからゆっくりと、口を開いたのです。





