戸惑い
魔物を一掃し終えたところで、一度休憩を挟む事に決まったようです。サナも魔力を一気に使ったことで身体が疲れていますからね。本人は何をしたのか覚えていませんが。
各々が木に寄りかかったり座ったりしながら水分補給をしています。共通してみな無言です。まぁ、だいたい理由はわかりますけどね。
その理由は、たった今のリカルドの魔法で間違いないでしょう。彼の魔法の腕は反則だと私でも思いますし。全属性の魔法をたった一言の詠唱だけで、それも次から次へと放って命中させる馬鹿げた技術。それを可能にさせる恐るべき保有魔力量。目の前で見せられては、いくら味方といえど恐怖を覚えたっておかしくありません。
正直、私も魔力の多さには驚いています。これまで、こんなに魔法を使うことはありませんでしたしね。魂が複数いるとはいえ、ひとつの身体でスキルをいくつも所持していますから、それなりに多いとは思っていましたが……もしかすると、ナオと同程度、もしくはナオよりも多いかもしれません。
「なぁ、サナ。さっきの……覚えてるか?」
「……ううん」
そろそろ出発しようか、とようやく皆が口を開き始めたところで、ナオがサナに耳打ちします。カイルたちパーティーがいる前では、聞けませんからね。
「そっか。……リカルドってヤツがさ、魔法を使って一人で魔物を全部倒したんだ。処理まで全部。あっという間で、凄すぎて……だからみんな言葉にならないくらい驚いてる」
「……そっか。うん、わかった」
サナはそれを聞き、言葉少なにそう答えました。教えてくれてありがとう、と伝えながらも、どこか悲しそうな感情が伝わってきます。
チェンジした後、自分の身に覚えがないのに何かをやらかしてしまった、という状況には慣れているサナ。これまでの人生で、ふと気付いた時に罵声を浴びせられていたり、白い目で見られていたり、という事は良くあることだったのです。ナオたち旅の仲間は理解しているのでまだ良いとして、サナの心を悲しませているのは少し仲良くなったカイルたちの存在が原因だと推測しました。
ナオやフランチェスカ、エミルが受け入れてくれたことで、少し油断してしまったのですよね。カイルたちともうまくやれるような、そんな錯覚。
けれどそれは、都合の良い解釈です。普通は彼らのような反応が返ってくるのが当たり前なのですよ。突然、人が変わったような言動をし、ありえない力を見せ、それが終わったら何事もなかったかのように平然としている。そんな様子を見たら、誰だって不気味に思いますよ。人は、よくわからないものに恐怖を感じるものなのですから。
そしてその恐怖は、最終的に排除対象となるのです。カイルたちはさすがにそこまでは思っていないでしょうが、今後も長く付き合いを続けていれば態度も変わってくるでしょう。命の恩人ですから攻撃まではしてこないにしても、距離を置くようにはなるでしょうね。
「もうすぐ村に着く。胸騒ぎもするし、急いでもいいか?」
「もちろん。心配だもんな。急ごう」
今も、サナの事には触れずにいます。イーシャやサイラスはチラチラとサナの方を見ては気にしているようですが、カイルやアンといった少し頭の回転が速い二人は、一切サナを見ようとしません。きっと、それぞれ葛藤があるのだと思います。
そして……私やサナは、それを雰囲気で察してしまえる。それが、余計に辛いのですよね。
大丈夫。大丈夫ですよサナ。いつものことではないですか。ただ、最近はありのままでいても平気で、心地よかったから。だから、こんな些細なことに敏感になってしまうのですよね?
今の貴女は一人ではないのです。仲間もいて、私たちの事も認識しているのですから。ナオたち、はわかりませんが……
私は、永遠に貴女の味方であり続けますからね。どうか、それを忘れないでください。
「な……んだ、これ」
「そんな……っ、みんな! みんなはどこ!?」
リカルドが一掃してくれたおかげで、その後は魔物と遭遇する事なく順調に歩を進める事ができました。村に近付くに連れて荒れていく景色に、カイルたちは徐々に青ざめ、足を速め、最終的に走って村まで辿り着きました。そうして目の当たりにした村の様子に、カイルたちは血相を変えて村を歩き回ります。
「こ、ここに、本当に村が、あった、にゃ……?」
「あったよ! ほら、ここにもあっちにも、家が建ってて……あの井戸の周りにはいつも洗濯物が干してあっ……て……!」
エミルが呆然としながらそう言ってしまうのも無理はありませんでした。家があったという場所には瓦礫や家の骨組みであろう木の残骸しか残っておらず、井戸でさえかろうじてそれが井戸であるとわかる程度しか形が残されていないのですから。
所々、焼け焦げた跡があり、血の跡があり、とてもここに村があったとは、人々が生活していたのだとは思えない惨状が広がっていました。
「魔物に、やられたのか……この、血の跡は……!?」
「い、いやぁぁぁ!! 父さん! 母さん!」
カイルは力なく膝をつき、アンは頭を抱えて悲鳴をあげます。イーシャは震えてへたり込み、サイラスもまた全身を震わせながら目を見開いていました。
「こんな、ことって……」
「そんにゃ……」
フランチェスカやエミルでさえも、あまりの状況にそれ以上何も言えずにいました。サナももちろん、この状況に心底恐怖していますね。
けれどただ一人、ナオだけは、その瞳に光を残していました。辺りを見回し、ぐるっと村を歩いて回り、それからみんなの元へ戻ってきたその足取りは力強いものでした。
「まだ、諦めちゃだめだ」
真っ直ぐな眼差しで、ナオがそう言い切りました。その言葉にゆるゆると顔をあげたカイルは、自嘲したように笑いながらナオに言い返します。
「は、はは……何、言ってんだ。お前、この状況見て、何が諦めるな、だ……慰めなんか……」
「慰めじゃない。わからないのか? よく見てみろよ!」
「な、何がだよ……これ以上、何を見ろって言うんだよ……!」
カイルの声は震えていました。その表情は絶望に染まっています。そんなカイルの肩を掴み、ナオは叫びました。
「誰もいないじゃないか!」
「あ、当たり前だろう!? みんな魔物に……」
「当たり前じゃない! 魔物に殺されたとして、骨も残らないのはおかしいだろ! 遺体が一つもないし、血の量だってこんなもんじゃないはずだ!」
ナオの叫びに、皆がハッと顔をあげました。そうですね。魔物が人を食べるとは聞いた事がありませんし、あったとしても村人が殺されたにしては綺麗すぎます。
「きっとみんな避難したんだ。山の麓に村があるんだから、そういう場所があるんじゃないか? いざという時のために」
「ほ、祠だ……そうだ、そうだよ……なんで気付かなかったんだ」
カイルたちの目に光が戻り始めます。
「あるんだな?」
「ああ、案内する……!」
まだ震える身体をさすりながらも、カイルたちは立ち上がりました。
「きっと大丈夫だ。魔物の襲撃には、日頃から備えてるんだろ?」
「ああ、ああ……! そうだな!」
目に涙を浮かべ、カイルはありがとう、ありがとうと何度も口にします。それからぐいっと腕で涙を拭い、しっかりとした足取りで私たちを先導して歩き始めたのでした。





