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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第六魂 ミオ

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ミオの誕生


 サナが生まれ、住んでいた家は、レイサックの街の外れにありました。正確にはレイサックから隣町へと向かうまでにある鬱蒼とした森の中に、隠れるように住んでいたとも言えます。ルイーズが誕生し、アリーチェがサナにとって不要な物を排除した時は、両親はレイサックの街に来ていました。おそらくその日、両親はレイサックにある宿に泊まったのでしょう。初日に木のウロで眠り、起きたサナがレイサックへ向かう途中、両親とすれ違いましたからね。


 フラフラと森を彷徨い歩きながら両親を見つけたサナは、思わず木の陰に身を隠しました。サナにとって彼らは恐怖の対象。これまでは、それでも親だからと縋ってきましたが……全てを排除し、記憶を封じた今、彼らが両親であったという記憶はなく、本能的に恐ろしい人という認識しか出来なくなっていましたからね。


「ああ、忌々しい。今頃まだ家にいて、適当に食料を漁っているのだわ。本当に気味が悪い……」

「まったくだ。なぜもっと早くに思いつかなかったのか……アレが戻ってきてしまうなら、私たちが出ていけばいい、だなんて簡単なことだったのに」

「ベリラルからは出られなくとも、他の街に移住すれば良かったのよね。……買った家は勿体ないけれど」


 どうやら、二人はサナを置いて別の場所で暮らそうとようやく決意したようですね。せっかく買った家を手放し、他の街で一から生活を始めるのは並々ならぬ努力とお金が必要ですし、決めかねていたのもわからなくもありません。けれど、ついにそこまでしてでもサナから離れたいという想いが勝ったのでしょう。実の両親なのに。いえ、実の両親だからこそ、かもしれません。


「本当に気持ち悪いバケモノだったわ。荷物をまとめてる間に、出くわさなければ良いのだけれど」


 一晩かけて考え、結論を出した結果、今日は家に荷物をまとめにやってきたようです。これで、もう二度とここへは戻ってこないつもりなのでしょう。まったく、こういうところで行動が似るのでしょうかね。サナも家を出る決意をしたというのに。

 まぁ、彼らの帰る先は、何もない荒地になっていますが。それを見た彼らはどんな反応をするでしょうね? これまで、サナに対して行った様々な行動を思えば、胸のすく思いではあります。ええ、同情などまったくする気も起きませんとも。


「バケモノ……」


 彼らが通り過ぎるのを待って、サナはポツリと呟きました。両親から受けた酷い仕打ちの記憶は私の中に封じてあるとはいえ、心に残る傷、いわゆるトラウマまではどうしようもありません。中でも、バケモノ扱いされたことは、サナの心に深い、深い、傷となっていたのでしょう。


「……どうして。私は……普通の……人間なのに」


 サナが苦しそうに胸を抑えました。どうしたのでしょう? 封じた記憶が蘇ってしまったのでしょうか。……いえ、そんな気配はありませんし。私が戸惑っていると、心の中にオレンジの光が溢れ出しました。

 今ここで新たな(スピリット)が誕生するのかと、とても驚きましたね。一体何が原因なのか、サナが何を望んだから生まれたのか、さっぱりわかりませんでした。ただ今は、生まれてきた(スピリット)がどんな存在なのかを見極め、成り行きを見守るしかないと思いましたね。どうせ周囲に人はいませんし、大丈夫だろうと思ったのです。まぁ、後で読みが甘かったと大反省するのですけれど。


『子ども……?』


 光が収まった時、その場に現れたのは白く長い髪を高い位置で二つに結った、赤い瞳の幼い女の子でした。今にも泣き出しそうに、目に涙を浮かべています。私は慌てて声をかけましたが、子どもは知らんふりで支配者の席へと走り出しました。私の事が見えていないのでしょうか。だとすれば、いくら声をかけても無駄です。私は仕方なく、一度ソファに座りなおして様子を見ることにしたのです。

 あっという間にスピリットチェンジをして、子どもが支配権を得た瞬間。溜めていた瞳からボロボロと涙を流し、それからそのまま大きな声でワンワン泣き始めた子ども。その泣き声は心の中にまで響き渡り、危うく私も意識を飛ばしてしまうところでした。そのおかげでこれがあの子のスキルなのだとわかりましたけどね。


「うわあああああああああっ……ああああああん、わああああああん!!!!」


 子どもはいつまでたっても泣き止むことはありませんでした。これはただの鳴き声ではなく、耳にしたものの脳内に直接響き渡る声だとわかりました。つまり、いくら周囲に人影がいないといっても……声が少しでも届く範囲、つまり先ほどすれ違った両親や、下手をすればレイサックの街まで影響を及ぼしている可能性が高かったのです。この場所はあと少しで街、という位置でしたしね。


 それにしても、どうして……と考えたところで私は思い至ったのです。


 ──ああ、サナは、泣きたかったのだ、と。


 思えば物心ついた時からサナが涙を流すのを見たことはありませんでした。ちょうど、今泣き叫ぶあの子くらいの年齢から、泣けばうるさいと殴られましたからね。いつしか泣くことを諦めていたのでしょう。

 けれど、心は傷ついていく。けれど、泣くことは許されない。


 たまりに溜まった苦しみや、悲しみが、今になって一気に溢れたのでしょう。だからこそ、今もなおあの子が泣き止むことはないのです。結局、一昼夜泣き続けましたからね。ものすごい体力です。

 と同時に、泣けば強制的にスキルを発動してしまうため、その間魔力も流しっぱなし。文字通り力つきるまであの子は泣き続けたというわけです。


 ようやく、サナに戻った時、子どもは支配者の席近くで倒れるように眠っていました。生まれた瞬間に新たに部屋も現れますから、この子を部屋まで運んであげることにしたのですよね。そこで気付きました。


『私の事が、見えていたのですね……』


 子どもを抱き上げる事が出来た、ということは、この子が私を認識している、ということですから。そこでようやく、先程は私のことを意図的に知らんふりしていたのだということを悟ったわけです。同時に、幼い子どもの相手をするにはどうしたらよいのかと頭を抱えたのも、今では懐かしい思い出ですね。


 それ以降、この子ども、ミオは定期的に現れて泣き叫び、周囲にいる者たちの意識を奪っていくという問題児となりましたが、最初の時ほどの長泣きをすることはなくなりました。少しずつ発散することで、だいぶ軽くなっていったのでしょうね。事後処理が大変ではありましたけど。

 それに、そのおかげでレイサックから食料を少しずついただいてしまえたのです。皆が混乱に陥っている間に。ええ、泥棒ですが生きるために仕方なかったので大目に見たいところですね。各家庭からほんの少しずつでしたからバレてもいないと思います。心は痛みましたが。


 今では、ミオには感謝しているのです。彼女のおかげで、適度に発散でき、心の安定へとつながっていったのですから。

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