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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第六魂 ミオ

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一掃


 結局、何事もなく夜が明けました。多少、魔物がやってきましたけれど、アンが難なく退治しましたから問題はなかったと言えるでしょう。火を焚いているにもかかわらず、魔物が寄ってくること自体、通常ではないのですけどね。そう言った点で、気は抜けないと言えるかもしれません。


「よし、今日は日が暮れる前に村に着くのが目標だな! 何があるかわかんねーし、時間も惜しいから食べながら出発しようぜ!」

「歩きながら食べるのって初めてですわ……」

「育ちが良さそうだもんね、フランは。お嬢様か何かなんだろ?」


 アンの質問にみんなが視線を彼女に向けました。勇者一行には王女がいる、というのはそこそこ有名な話だったと思うのですが……


「……王女、だよ?」

「へっ!?」


 控えめに耳打ちしたのは仲間のイーシャでした。その思わぬ事実にアンの動きが止まります。


「ふ、不敬罪に……」

「なりませんわよ!?」


 涙目でギギギ、と振り返るアンにフランチェスカが慌てて答えました。一般人からすると、王族とは神様ほどに手の届かない存在、という認識ですからね。さすがに神様は言い過ぎかとは思いますが、事実そう思われていますから仕方ありません。


「それに、わたくしはシェンランジア国の者ですもの。ここは隣国のカルニア国ですから、そこまで畏まらなくても……」

「んにゃ、チェスカ……あんまりフォローになってないにゃ」

「うん。普通、王族ってだけでこうなるよ」

「そ、そうなんですの……?」


 フランチェスカの認識も少々ズレているようですね。エミルとサナの言葉に戸惑っています。旅に慣れ、扱いに慣れてきたからこそ、二人のそういった感覚も強いのかもしれません。


「こほん。とにかく、今はただのフランチェスカですわ。王族とは切り離して考えてくださいな」

「そ、そうは言ってもさ……」

「それに、今更ですわよ。観念なさい」

「そんなぁ」


 アンはどこか真面目そうですからね。王女と聞かされて完全に萎縮してしまっています。どこかのお嬢様だとはわかっていたでしょうに、程度が違い過ぎたのですかね?

 とまぁ、最初こそ緊張していたアンですが、フランチェスカが気さくに、時に冗談を交えて話すことでかなり打ち解けてきたようです。そのあたり、人の心を掴むのが彼女も上手いですね。旅に出て、より上手くなったように思えます。ナオのように見た目と勢いで打ち解けるのではなく、話術で懐に入り込むのはさすがです。交渉術を得意とするオースティンともまたタイプが異なり、なかなか面白いですね。


 それぞれが会話を弾ませつつ、サナもイーシャに魔法を教わりながら歩を進めるうちに、カイルたちパーティーともだいぶ親しくなってきました。けれど、このような会話を楽しむ頻度も少しずつ減って行きます。山道を歩き続けるのはそれだけでなかなか体力を使いますからね。けれど、それだけではありません。


「くそっ、魔物が増えてきたな……っと!」

「カイル、気をつけろ! 上からも来るぞ!」


 村に近付くにつれ、魔物の出現率が増えてきたのです。カイルたちの表情はどんどん強張っていきました。それも当然ですよね。今でさえ、私たちがいるのでどうにかなっていますが、自分たちだけだったらここまで来れていないでしょうし。そして何より……


「村は……無事なんだろうか」

「アン……」


 そう。これだけの数の魔物が現れて、流石に楽観視はできません。間違いなく村は魔物で溢れているでしょうから。


「心配なのはわかるにゃ! だからこそ、さっさと先を急ぐにゃよ!」

「……そう、だな。うん、先を急ごう!」


 今はひたすら目の前の魔物を倒しながら前へ進むしかありません。ただ、一刻も早く向かいたいですね……リカルド、いけますか? 村まで着いたらしばらくは部屋で休んでいて構いませんから。


『……任務か?』


 ……えぇ、任務です。けれど、無理もしてはいけませんよ? すでに何度もチェンジしているのですから。


『善処する』


 まったく、オースティンといいリカルドといい、協力的なのは助かりますがギリギリまで耐えようとするところが困り者です。けれど、頼る他ないのですけれど。


 スキル【スピリットチェンジ】発動しました。

 体の使用者がサナからリカルドへと変更されました。


「離れろ」

「! リカルドか!」


 いち早くリカルドに気付いたナオが、みんなを呼び寄せます。だいたい集まったところでリカルドはスキル【全属性】を発動させました。これで一定期間、リカルドは全属性の魔法を使うことができます。その分、体力も精神力も奪うのですけどね……村まであと一息ですし、頑張ってもらいましょう。


「風よ。大地よ。光よ」


 リカルドの短い詠唱で次々と魔法が繰り出されます。風の魔法で空を飛び回る魔物を地上へ落とし、大地の魔法で魔物を固め、動きを封じます。同時に、捕まえきれなかった魔物を光のドームで覆い、逃げられないよう閉じ込めました。


「水よ。火よ。……雷よ」

「す、すごい……」


 ドーム内で逃げ惑う魔物たちには水と火の魔法で攻撃を。魔物の属性に合わせて効果的な魔法を使っていますね……一瞬で見極めるその才能も恐ろしいものがあります。大地によって捕縛された魔物たちは雷の魔法で一網打尽です。それを、右手を突き出し、仁王立ちでその場から動かずやってのける様は確かにすごいのですが……恐ろしくもあるのでしょう。カイルたちはもちろん、ナオやエミル、フランチェスカも少々青褪めています。それもそうでしょうね。現場は地獄絵図ですから。魔物たちにとっての、ですけれど。


「大地よ!」


 魔物をあらかた倒し終えたリカルドは最後に大きな魔法で大地に深く広い穴を開けました。そうすることで魔物たちの亡骸が穴へと吸い込まれるように落ちて行きます。あまりにも深い穴ですので、底が見えませんね……吸い込まれて行きそうで全員が身震いしました。


「大地よ!」


 再びリカルドが詠唱すると、穴は綺麗に塞がって行きました。あっという間に魔物は消え去り、森だったはずの大地が緑ひとつない更地と化したのです。


 静けさが、妙に心を揺さぶります。この下に、大量の魔物の亡骸が埋まっているのだと思えば無言にもなりますね。


「……任務完了」


 リカルドは疲れた表情でそれだけを呟くと、荒くなった息を整えながら目を閉じました。


 スキル【スピリットチェンジ】発動しました。

 身体の使用者がリカルドからサナへと戻ります。


 談話室へと戻ってきたリカルドは、フラフラとした足取りで部屋へと戻って行きました。お疲れ様ですリカルド。本当に助かりました。……ゆっくり休んでくださいね。私の労いの言葉も届いたかどうか……無理のしすぎですね。心配です。


「あ、れ……?」

「サナ!」


 一方で、サナの身体もぐらりと傾きました。魔力的にはまだ余裕はありますが、一気に放出したことで普段は感じることのない疲労感に襲われたのでしょう。それに気付いたナオが素早くサナの身体を支えます。


「魔力を使い過ぎたんだな。大丈夫か?」

「あ、うん。少し疲れただけだから……たぶん」

「そ、それはそれで半端ないな……普段のサナからは想像がつかないんだが?」


 二人の会話を聞いてカイルがやや、いえだいぶ引いていますね。まぁ、実際は別人なわけですから。それは言えないのですけれど。


「勇者一行って、本当にみんな化け物よね……あ、褒め言葉だからね!?」


 思わず、といったようにイーシャが呟き、それから慌てて言い直しました。

 化け物、ですか。思えば、この言葉があったからこそ、ミオが生まれたような気がします。あれは確か、アリーチェが全てを掃除し、一人旅立って、始めてベリラル唯一の街であるレイサックへとやってきた時のことでした。

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