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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第六魂 ミオ

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心の中での訓練


 山越えは比較的順調でした。もちろん魔物の群れには何度か遭遇しましたが、リカルドも協力することで難なく撃退できましたしね。その度にイーシャは、本当になんでサナは普段、魔力が扱えないのかと首を傾げていましたが、本当のことまでは言えませんからね。フランチェスカのフォローが涙ぐましく思えました。


 そうこうしている間に二度目の休憩場所へと到着し、この日は早めに休むことに決めました。また明日、早朝から出発しますからね。夕飯はエミルが宣言通りみんなの分の魚を獲ってきたのでなかなか豪勢なものとなりました。みんなに感謝されてエミルはご満悦でしたね。


 夜の見張りはそれぞれのパーティーから一人ずつ出し、交代制で行うことに決まりました。いくら互いに知り合えて、少し仲良くなったとはいえ、そこまで任せっきりにするのは悪い、という考えです。ま、本音を言うなら、そこまでの信用は互いにまだないだけなのですけれど。出会って間もないので当然ですけどね。


「い、いいのか?」

「いいよ! 俺はどうせ一人でテント使うんだし。ちょっと狭いかもしんねぇけど」

「何から何まで本当にすまねぇな……」

「ありがとな!」


 カイルたちパーティーはどうせ交代で見張りするのだからとテントは一つしか持っていなかったようです。なので、ナオが男性陣に自分のテントに入らないかと誘ったわけです。流石にカイルともう一人の男性、サイラスだけその辺で雑魚寝させるのは悪い気がするから、とのこと。


「明日の夕刻までには村に着くと思う。そうしたらもてなすからな! 覚えてろよ!」

「サイラス、覚えてろっていうそのセリフは使い所が違ぇよ……」

「覚悟しろ?」

「それも違う。お前、黙ってろ!」


 どうやら、サイラスという男性は喋ると残念な人物だったようですね。おとなしいと思っていたら、仲間たちから喋るなと言われていたようです。口を開くと残念な人種というのはいますからね。それでもサイラスは特に、といった印象を受けました。悪気のないところが余計にタチが悪いようです。


「ははっ、楽しみにしてるよ!」


 けれど、当然そんな事は全く気にしないナオは、笑い飛ばして笑顔で答えました。女性陣は苦笑を浮かべていますけどね。


「苦労なさってますのね……」

「あー、わかってくれるか……そうなんだよ」


 同情するフランチェスカに頭を抑えるアンが力なく答えました。彼女はどこか真面目そうですから苦労もひとしおなのでしょう。私も同情します。


「さ、飯も済ませたし、早く休もう! 今日も早かったしな。みんなゆっくり休んでくれよ!」


 ナオの声かけでそれぞれが準備をはじめました。今回はサナも見張りに入っています。一人ではありませんからね。順番は一番最後ですし、何かあった時にみんながすぐに起きられるというフランチェスカの配慮です。ちなみにサナとともに見張りをするもう一人はアンですのでしっかり者が一緒になりますから安心ですね。

 こうして、山での最初の夜を迎えることとなりました。




『あ、れ……談話室?』


 眠り始めてしばらくすると、サナが談話室へとやってきました。ちょうどいいですね。せっかくリカルドもここにいることですし、早速紹介しましょう。

 サナ、彼はリカルド。どうでしょうか、ここでも魔法の練習をしてみませんか?


『え、いいの……?』


 サナがチラ、とリカルドを見ましたが、彼は返事をしません。当然サナはビクビクとし始めます。まったくリカルド、貴方のそういうところがもったいないのですよね……

 大丈夫ですよサナ。彼は少し人と接するのが不器用なだけで悪い人ではありませんから。あ、ほら立ち上がりました。教える気がある、ということです。


『そ、そうなの? えっと……リカルド、よろしくお願いします……』

『……ん』


 流石に返事をしようと思ったのでしょうが、あまり変わっていませんね。私が肩をすくめて見せると、サナはクスリと笑いました。


『うん。ジネヴラが言ってた意味が、わかった気がする。ありがとう、がんばるね!』


 リカルドが根は良い人だという事がわかったのでしょう。表情が柔らかくなったサナはリカルドの近くに寄り、早速魔法の指導を受け始めました。

 リカルドの単語続きのわかりにくい指示にも対応できていますね。ただやはり……まぁ、下手なようですが。仕方ありません。魔力の扱いは心の扱いとも言いますからね。心が落ち着いており、感情が制御出来る者ほど魔力の扱いも上手いのだそうです。リカルドは元々感情の起伏がありませんから、得意なのも頷けます。

 別タイプとして、ナオやフランチェスカは育った家庭環境が良かったという典型です。恵まれた家庭で、両親や周囲の人々にたくさんの愛情を受けて育てばそれだけで心は安定しますから。ナオと同じように魔力量の多いサナは、そういった愛に飢えており、傷つきやすく、心が不安定ですから魔力の扱いがうまくいかないのはある意味当然ではあるのです。


 今更、育ってきた環境を変える事は出来ませんし、今からこれまでの分を取り戻すのにも時間がかかります。ですからリカルドのように、いつでも冷静に、心を落ち着けて、という感情コントロールを訓練するのが手っ取り早いのですよね。なのでリカルドも魔法を使わせる前に深呼吸をさせています。地道な訓練ですが、焦っても仕方ありませんからね。


 リカルドによる訓練がどれほど続いたでしょう。サナもうまく出来ないながら集中して取り組んでいました。けれどそろそろ起きなければなりませんね。もう少しで見張りの時間となってしまいます。私はその旨をサナに伝えました。


『えっ、もう? しまった、全然休んでないや……大丈夫かな?』


 ああ、そうですよね。体感としてはサナは起きっぱなしですから。でも大丈夫ですよ。何となく疲れた感覚はあるかもしれませんが、身体はしっかり休めていますから。


『そう? ならよかった。けど、変な感じ』


 それもそうですね。今回は最初から頑張り過ぎてしまいましたから、次からは休む時間もいれましょう。リカルドも、そのつもりで覚えていてもらえますか?

 私がそういえば、リカルドは一つ頷き、そのままソファへドサリと座りました。彼は心の欠片がさほど強くはありませんからね。休憩がひつようでしょう。


『うん、休むのも大事だもんね。リカルド、ありがとう。ここでゆっくり休んでね。じゃあ、そろそろ戻るね!』


 ええ、気をつけて。疲れたら言ってください。誰かとチェンジできるよう手配しておきますから。私の言葉にサナは笑顔で答えると、そのまま支配者の席へと戻って行きました。




「サナ、アン……交代の時間ですわ」

「ん……わかった」

「見張りは大丈夫そうですの?」

「うん、大丈夫。あと少しだけど、フランもゆっくり休んで」


 ちょうど見張りの時間となったようですね。サナも軽く伸びをして調子を確かめています。……大丈夫なようですね。本当に魂の欠片が大きくて強いですね。その点はとても安心できます。


「お、サナ。よろしくね!」

「こちらこそ、アン。あの、私、戦う力はないんだけど……」

「聞いてるよ。大丈夫。危険察知できるんだろ? それだけで十分頼もしいよ!」


 テントの外ではすでにアンがマントを羽織って火の前で座っていました。サナはその隣に腰掛け、ともに見張り番をします。面識のない相手と会話することがあまり得意ではなかったはずなのに、普通に話せている姿が感慨深いですね。フランチェスカと二人きりで狼狽えていた頃が懐かしく思えます。


 二人は空が明るくなる様子を眺めながら、会話を続けつつ見張りを続けるのでした。

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