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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第九魂 リカルド

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【心の中の世界】リカルドとの会話


 ふと、見れば、リカルドがスクリーンをじっと見つめているのが目に入りました。先ほどまで背凭れに身を任せて眠っていたと思ったのですが。

 どうやら、サナが魔法の練習をしているのを見ているようですね。何か気になる事でもあるのでしょうか。少し聞いてみましょう。


「リカルド、何を見ているのですか?」


 私の質問に、リカルドは特に反応を示さずじっとスクリーンを見ています。いつもの事です。焦らずに待ちましょう。


「……下手」


 しばらくしてようやく答えました。彼は、彼のタイミングでしか行動しないことがあります。任務以外では大体そうなのですが、質問への返事も随分後になってから答える、ということが往々にしてあるのです。時には数日後、という事もありますので、時々その言葉の意味を理解するのに時間がかかる事があるほどです。


「下手、というのは……サナの魔力の扱いが、ですか?」


 私の確認に黙って首を縦に振りました。なるほど、サナには魔力を扱うセンスがないのかもしれませんね。基本的に少々不器用ですし、魔力を扱うのに大切な心の安定がちゃんと出来ているとは言えませんし。


「……出来ても、生活魔法程度」

「そうですか……でも、何もできないままなのとはわけが違いますよね?」


 魔力の扱いに長けているリカルドが言うのですから、残念ながらそうなのでしょう。けれど、全く使えないわけではないのなら、それは前進と捉えるべきです。


「……甘いんだな」


 呆れたようにリカルドが言いました。それから再びソファの背もたれに寄りかかり、目を閉じました。また寝るのでしょうね。

 それにしても、こんなにまともにリカルドと会話をしたのは初めてかもしれませんね。これがまともと言えるのかはわかりませんが、ちゃんとその場で受け答えしたのですから快挙です。


 それにしても、こんなに努力しているのに、思ったような成果が得られないのは少々可哀想ですね。魔力の扱いはセンス。おそらく、魔力の量が多すぎて制御しきれないというのもあるかもしれません。下手に覚えれば暴走の危機もありますし。そう、下手に覚えれば……


「リカルド、貴方がサナに魔力の扱いを教えてはいかがですか?」


 こんなにも身近に達人がいるのですから、それが最も効率的です。ただ身近すぎてサナはまだリカルドのことを知りませんが。そこですよね、問題は。サナがいつもこの談話室に来られれば良いのですけど。心の中の世界なら魔法をいくら使っても被害はありませんしね。どうしてこの中でも魔法が使えるのかはわかりませんが、使えることはリカルドが昔証明しています。


「……どうやって」


 おや、反応しましたね。いつものように知らんふりするかと思ったのですが。珍しいものです。それとも、サナに対して何か思うことがあるのでしょうか。


「サナは時々、この談話室にくるのです。私たちの姿も見えるようになりました。ただ、来るのは不定期ですので、その時に私が貴方を呼びに行きます。そうしたら確実に会えるでしょう?」


 あまりたくさんの時間が取れるわけではありませんが、何もしないよりは良いでしょう。リカルドは再び黙り込みました。体勢が変わっていないので起きているのか寝ているのかわかりませんね。まぁ、気が向けば答えるでしょう。このまま返事がなくても、サナが来た時には訪問してみれば良いことですし。


『イーシャさん、これで合ってる?』

『もう少しギューっと小さくまとめるイメージできる? うーん、魔力が多いからコントロールがすごく難しいんだと思う』


 やはり苦戦しているようですね。サナが一生懸命なだけに何とかしてあげたいですね。


「……わかった」


 ……やはり今日は返事がやけに早いですね。しかも了承ですか。驚きましたね。今なら他の質問にも答えてくれるでしょうか。


「リカルドは、サナをどう思っているんです? 妹か何かでしょうか」


 前から気にはなっていたのです。任務という形で協力してくれているので、悪感情は抱いていないとは思うのですけどね。でも、私たちは本当に特殊ですから。

 オースティンはまさに妹のように思っていると答えたことがありました。ミオやノアはお姉ちゃんと言っていましたね。ルイーズは世話の焼ける近所の子、と。アリーチェも似たように思っていそうですね。パウエルは認識していませんし、エーデルは除外。ニキータはよくわかりませんね……からかい甲斐がありそうとは言っていたのを記憶しています。


 私は……どう思っているのでしょう。不思議ですね、自分のことなのによくわかりません。妹? 家族? そうなのかもしれませんが、何かしっくりこない気もします。


 ただ、何としてでもこの子を守らなければという強い思いがあって──


 『それでいいのですか? なんの解決にもならないことは、わかっているでしょうに』


 私の中に押し込めた記憶が、チラと脳裏に過ぎりました。今のは……誰の声でしょうか。話し方からいって、エーデルですかね。ハッキリとは思い出せません。おそらく、私の中に封印した散々な記憶の中の一つで、その中でも特に思い出したくないと強く願う記憶なのかもしれません。

 そりゃあ、私だって思い出したくないことくらいあります。ただでさえ吐き気を催すほどの記憶がたくさんあるのですから。実の両親に何度も殺されかけた記憶だってあります。それ以上に思い出したくない記憶の断片など、考えるだけ気分を害するだけです。しかもエーデルの言葉ならなおさら、聞く耳を持ってはいけません。


 私が心を乱しては、この場所の平穏が崩れてしまいますから。


「保護対象」


 リカルドの声にハッとします。先ほどの私の質問に答えてくれたのだと気付いたのは数秒後でした。なるほど、保護対象……そうですね。それが最もしっくりくるかもしれません。


「……奇遇ですね。私もですよ」


 私がそう声をかけると、ふと目を開けてこちらを見、怪訝な顔を向けてきました。納得していないような顔ですね。その割に甘やかしすぎだとでも言いたいのでしょう。サナを甘やかしている自覚はありますよ。でも、その想いの大小が異なるだけでしょうに。そんな顔をしなくても良いと思うのですけど。


 リカルドはすぐに再び目を閉じると、しばらくして寝息を立て始めました。話は終わり、という事なのでしょう。まあいいです。また必要な時に起こさせてもらいますよ。


 それに、今日はかなり会話ができましたしね。謎めいた部分が多かったリカルドですが、また少し彼のことを知れた気がします。思っていた以上に、サナのことを見て、考えてくれているのだとか、意外と思っていることが顔に出るのだとかですね。大収穫です。


 再びスクリーンに目を向けると、すでに修行は休憩に入っていました。イーシャがあまり根を詰めすぎるのは良くない、と助言したからでしょう。


『サナは本当に魔力量が多いんだと思う。だから、焦らないで、少しずつ、長期戦でいこうね。大丈夫、いずれ使えるようになるし、サナはまだまだ若いんだから!』

『うう、がんばる……』


 本当は今すぐにでも使えるようになりたいという気持ちなのでしょう。力が欲しいのは今ですものね。気持ちはわかります。けれど焦りは禁物。

 大丈夫ですよ、サナ。それまでは私たちが全力でサポートしますからね。

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