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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第九魂 リカルド

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休憩所にて


 ナオとエミルは見事に逃げたゴブリンたちを全て討伐したようです。晴れやかな笑顔がそれを物語っていました。


「この中にいるゴブリンもまとめて埋めちまわねーとな」


 そう言いながら、火の玉が命中して暴れながら絶命したゴブリンのいる光のドームを消し去ります。流石にこれほど大量の焼けた死骸を見るのは辛いものがあるのでしょう。やや表情が歪んでいます。


「それは俺たちがやろう。助けてくれて感謝する。治療までしてもらって……」


 そこで名乗りを上げてくれたのが、先ほどの中年男性でした。彼はカイルと名乗り、仲間の女性二人と男性二人も紹介してくれました。


「昨日ユーファリアの街でお触れが出たって聞いて……これは早く山を越えなきゃ村に帰れなくなるって焦って出てきたら、このザマさ。ケチってないで凄腕冒険者を雇えばよかったって後悔してるよ」


 間違いなく例のお触れですね。魔王の動きが活発になってきた今、山を越えるのさえ規制がかかるのも時間の問題ではありました。私たちも、それがあるから早めに出たところはありますしね。冒険者ギルドには素性が割れていますから、いまさら止められることはありませんが。


「お前らもそんなとこか? でも俺たちと違うところは、みんなが強いってことだな!」


 がははと豪快に笑うカイルに、仲間の女性が後頭部を叩きました。いてぇ、という抗議の声を無視して、女性はカイルを怒鳴りつけます。


「だからやめとこうっていったじゃないか! 命あってのものだろ!? たまたま運良く助けてもらえたからいいものの……あのまま、もし誰も来なかったら……あたしたち……!」


 徐々に涙声になってきた女性に流石に悪いと思ったのでしょう。カイルは頭を掻き、悪かったと口を開きました。


「笑い事じゃなかったよな。ほんと、すまなかった。みんなも! 無理言って悪かった。反省してる」

「何が、みんなは先に行け、だ……お前、一人で犠牲になってオレ達を逃がそうとしたろ。……二度とそんなことすんなよ!」


 謝罪をするカイルに、仲間の男性も怒鳴りつけていますね。でもそれは、カイルを思ってのことだというのが言葉の内容でよくわかりました。彼はこのパーティーのリーダーとして、とても好かれているのですね。なんだかんだ、彼の言うことを聞いてしまう、という雰囲気も感じます。


「み、皆さん……この度はほ、本当に……ありがとうございました……! 命の恩人です……!」


 もう一人の仲間の小柄な女性が涙目で私たちの方に向き直り、勢いよく頭を下げました。今になって怖くなってきたのでしょう、全身をガタガタと震わせています。

 私たちは顔を見合わせ、それからフランチェスカが一歩前へ歩み出て口を開きました。


「とりあえず、ゴブリンを埋めたら少し先に行ったところで休憩しませんか? 昼食をとって、お話でもいたしましょう?」


 にこりと微笑むフランチェスカはさすがは王女といったところですね。皆が見惚れています。震えていた女性も少し落ち着いたようでした。

 まずは落ち着くことが大事です。彼らはほんの数瞬前まで死を覚悟したくらいですから、体力的にも、精神的にも疲弊していることでしょう。ナオとエミルが先導し、彼らと共に開けた場所へと移動することとなりました。




「ここだな! ちゃんと休憩出来るようになってるじゃん」

「エミル、お腹空いたにゃー!」

「では、昼食にいたしましょうか。皆さんも一緒に」


 休憩所に到着する頃には、カイルたちも随分顔色が良くなっていました。青褪めていましたからね。あれは主に気持ち的なものだったのでしょう。道中、能天気な会話を繰り広げるエミルとナオのおかげで気分転換になったのかもしれませんね。


「ああ、ぜひ一緒させてもらうぜ。材料とか足りてるか? って足りてるよな。ほぼ同じ時に街を出てるわけだし」

「ええ。お気持ちだけ受け取っておきますわ」


 何かしらお返しがしたいと思ったのでしょうが、ここで食料を分けてもらったところで、山越えが出来なくなってしまっては困りますからね。フランチェスカがやんわりと断りました。


「でも……何もお返しができねぇってのもな……」


 なんとも言えない表情でカイルがあご髭を撫でました。その気持ちもわかりますけどね。


 ともあれ、空腹をアピールするエミルのためにも、昼食です。簡単に準備できる干し肉のサンドウィッチをそれぞれが頬張ります。カイルたちも同じようなメニューですね。スープかシチューかの差くらいです。

 昼食を取りながら互いの事を軽く話します。私たちが勇者一行である事は伏せたままです。ただ、故郷へ向かっている途中なのだと伝えました。そういう理由にしておけば当たり障りないですからね。


「随分遠いとこまで来てたんだな?」

「ええ、どうしても行く必要があったものですから」


 厳密に言えば違いますが、全く違うとも言えない答えですね。あまり嘘だけで固めるとどこかでボロが出ますし、妥当でしょう。エミルやナオは余計なことを言わない方が良さそうです。


「俺たちは山を越えた麓にある小さい村が故郷なんだ。魔物が出始めたって言うだろ? 諸事情もあるし、早めに避難させないとと思ってな」


 小さな村であるなら、先ほどのように魔物の群れが襲ってきたら一たまりもありません。山の麓に位置していますので、他の村よりも魔物対策は万全とはいえ、心配になったのでしょう。


「さっきのこともあるし……心配だよ。みんな、無事かな……」


 長身の強気な女性、アンが拳を握りしめて呟きました。先程のような体験をした後です、心配もよくわかります。


「……あの、もしよろしければ、わたくしたちも一緒に村へ行きましょうか? どの道通り道ですし、ここは一本道ですしね。人数が多い方が夜間の見張りも、魔物の撃退も安心かと思いますの」

「そいつはありがてぇし、ぜひ頼みたいが……俺たちにメリットが多過ぎる。何かできる事はねぇか?」


 フランチェスカの提案に、カイルはどんどん小さくなっていきます。身体の大きな男性が申し訳なさそうに縮こまるのはなんだか可愛らしくも見えますね。


「じゃあさ、村に着いたら俺たちを泊めてくれよ! 野営ばっかで疲れるだろうし」

「もちろん、それはお安い御用だ。だが、それだけってわけにも……」


 それでもまだ足りないとカイルは言います。とは言っても頼めることもそんなにありませんからね。私たち四人は腕を組んで考えます。


「そうですわ! ベリラルへ向かう途中の森について、何かご存知だったりします?」

「ベリラル!?」


 フランチェスカがそう聞けば、カイルたち四人の顔色がサッと変わりました。何事でしょうか……


「えっと、その……もしかして、ベリラルが故郷、なの……?」


 小柄な女性イーシャが恐る恐るといったように聞いてきました。これは、何かありますね……それを、察したフランチェスカは目的地がそこである事は伏せ、明言を避けます。


「いえ、ベリラルを通って行こうと思っていただけですけれど……何かありますの?」


 そう尋ねると、彼らは顔を見合わせて眉を顰めてから口を開きました。


「ベリラルには、行かない方がいい」

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