リカルドのスキル
さて、とはいえナオもあまり寝ていませんから彼にばかり頼っているわけにもいきません。私は今のうちにとある魂に交渉しに行くことにしました。
ソファから立ち上がり、しばし談話室を空にします。少しの間、様子がわからなくなりますが仕方ありません。彼は外の時間と同じサイクルで寝起きしますからね。あまり早く起こせば不機嫌になってしまうのですよ。
談話室を背に、暗い廊下のような道を進みます。しばらく行くと様々な色のドアが並ぶ景色が見えてきました。ここが魂たちの部屋。色別に分かれているのでわかりやすいのです。例えばルイーズなら赤、オースティンは黄緑、といった具合に。
私は青いドアの前で立ち止まり、そのままノックしました。
リカルド、おはようございます。起きていますか? 貴方に引き受けてほしい任務があるのですよ。
私がそう声をかけると、しばらくしてドアが内側から開きました。
『任務……? どんな?』
元々起きていたのか寝ていたのか、何を考えているのかよくわからない無表情でリカルドが問います。相変わらず背が高いですね。切れ長で一重の青い瞳は鋭く、冷徹な印象を受けますが、敵意はありません。彼はとにかく無表情、無口ではありますが、任務を与えれば必ず遂行してくれる真面目な男なので信頼できます。
とりあえず談話室まで来てくれませんか? あまりあの場所から離れたくはありませんので。話はそこでします。
私がそう言って背を向け、談話室に向かって歩き始めると、黙って後を付いてくる気配がしました。この時点で、私に従う意思があるかどうかがわかるのです。気分が乗らなければそのまま部屋に戻ってしまいますが、最近は任務を頼むことはありませんでしたから暇だったのでしょう。引き受けてくれるだろう事は予想がついていました。
談話室へ着くと、私はすぐにスクリーンを確認しました。変わらず山道を歩いていますね。口数が減ってきたでしょうか? 無駄に疲れますし、良案ですね。
いつもの席に私が着くと、リカルドも空いている場所に腰掛けました。では、説明を始めましょう。
リカルド、スクリーンを見ればわかると思いますが、今サナたちは山道を歩いています。最近は魔物が増えてきたそうです。おそらくこの先、群れに遭遇することもあるでしょう。そのため、貴方の力が必要なのです。
私がそう告げるとリカルドは顎に手を添えながらスクリーンを見上げました。
彼は攻撃魔法を得意とする魔法士です。大人数相手にはかなり心強い仲間となるでしょう。ですが、欠片の大きさは普通。本来ならずっと出てもらいたいところですが無理もさせられません。とはいえ、山を越えるまでの間、休み休みなら問題ないと判断しました。
山を越えた先はルイーズに頼むつもりですから、ここはリカルドに頑張ってもらいたいのです。私が続けてそう言えば、リカルドはわかったと短く答えました。
魔物が増えてきたら、チェンジしてください。それまではここで待機です。受けてくれますか? そう問えばコクリと首を縦に振りましたので引き受けてくれるのでしょう。助かりました。これで少し安心ですね。
こちらの準備も整ったところで、私も再びスクリーンに注目するとしましょう。……その時でした。
「あ……わっ!」
サナの危険察知が反応しました。軽く自分の身体を抱きながら少し震えていますね。様子に気付いたナオが声をかけます。
「嫌な感じがする……あっちの方。たぶん、急いだ方がいい」
サナが震えながら指を指します。だいたい進行方向ですが、少し山の内部に入ったところでしょうか。サナの言葉を聞いて、エミルが目を閉じ、鼻と耳をヒクヒク動かしています。
「血の匂いと……戦う音が聞こえるにゃ!」
「戦闘中か!」
「どちらが優勢かはわかりませんが、危険察知が発動したくらいですもの。行きましょう!」
どうやら意外にも早く出番が来たかもしれませんね。リカルド、頼めますか? 私の言葉にリカルドは無言で立ち上がり、支配者の席へと向かいました。ああ、せめて自己紹介くらいしてくださいね? あまりあてに出来ませんが、言っておかないと名前さえ言わないでしょうからね。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がサナからリカルドへと変更されました。
チェンジしたリカルドはすぐに走り出しました。体力もそれなりにある男なので問題はないでしょう。後で筋肉痛にはなるかもしれませんけれど。
「! お前……」
前を走っていたナオたちにすぐに追いついたリカルド。隣を走るナオが驚いて顔を見、それからおそらく鑑定したのでしょう。
「……リカルド」
「……オーケーわかった。よろしく頼むぜリカルド!」
おや、ちゃんと名乗りましたね。言っておいて良かったです。
「誰、ですのっ!?」
「リカルドだ! えっと、何ができる? スキル【全属性】って……まさか!」
フランチェスカが走りながら問うので、ナオがそれに答えます。スキル【鑑定】を発動しながらチラチラとリカルドを見つつ走っていますね。器用なものです。
「……攻撃魔法」
「全属性使えんのかよ! マジか!」
「ええっ!? 聞いたことありませんわ! ナオでさえ四つですのに!」
「化け物にゃ……! でも、心強いにゃーっ!」
すごい言われようですね。まぁ、確かに反則級のスキルではありますが。
「……時間制限」
「え? あーっと、スキル発動の間だけって感じか?」
単語しか言わないリカルドの言葉を拾って的確に意図を理解するナオはなかなか優秀ですね。リカルドは縦に一度首を振るだけです。もう少しどうにかなりませんかねぇ、それ。
「通常でも攻撃魔法は使えるんだろ? 属性は!」
「火」
「高火力なやつだな! わかった、消火は俺がする。気にせずやってくれ」
「わかった」
意外と会話になっていますね。リカルドが初対面でここまで話すのも初めてかもしれません。
「フランは援護! 補助魔法はいい、魔力を温存してくれ」
「わかりましたわ!」
「エミルはもし怪我人がいたら避難させてくれ。いつもみたいに最前線にいると、魔法攻撃に当たっちまう!」
「わかったにゃ! まっかせるにゃあ!」
走りながらナオが指示を出していきます。やはり戦闘中のリーダーは彼ですね。普段はフランチェスカですが。
そうこうしている間に視線の先に誰かが魔物と戦っているのが見えてきました。……魔物の数が、すごいですね。
近付くにつれて状況がわかってきました。どうやらゴブリンの群れのようです。五十、もしくは百近いかもしれませんね……倒れているゴブリンもいれればそのくらいでしょう。戦う彼らも頑張っていたようです。
けれど見るからに疲弊しています。怪我をしている者もいますね。それを確認し、声の届く位置に辿り着いたところでナオが叫びました。
「援護するか!?」
「っ!? ありがてぇ……っ! 頼む!!」
ナオの声を聞いて、リーダーらしき中年の男が返事をしました。ナオたちの姿を見て少々驚いたように目を見開いていたのは、やはり若いからでしょう。が、山越えをするというだけで、それなりに戦えることを瞬時に理解したのかもしれません。すぐに協力を望んできました。
その返答を聞いた直後、四人はそれぞれもう一段スピードを上げました。戦闘開始です。





