山道へ
「うー、ザワザワする。落ちつかねぇ……」
翌朝、驚くべきことにナオが先に目覚めました。胸のあたりを押さえ、どうにも落ち着かないといった様子です。
「魔王の気配で……?」
「ああ。向かう方向は合ってるんだって気がする。適当に決めた場所ではあるけど、案外ベリラルにいたりして。もしかすると、サナの危険察知が働いたのかもしんねぇな!」
無意識のうちにサナが感知した可能性は十分にありますね。
「……ちゃんと眠れた? 大丈夫?」
元気な様子で話すナオではありますが、やはりどこか無理しているようにも見えます。敏感に察知したサナは、心配そうに尋ねました。
「はは、サナは鋭いな。実はあんまり寝れてない」
ナオは一瞬目を見開いて、頭を掻きながら苦笑いを浮かべます。それからサナの頭に手を乗せ、くしゃりと撫でました。
「けどさ、あの二人には言わないでくれよ。心配かけたくないし……」
しばらく頭を大人しく撫でられ、俯いていたサナは突然バッと顔を上げてナオを睨みつけます。
「ダメ!」
「え」
それからズイッと人差し指をナオの顔の前に突き出し、詰め寄っていきます。ナオは少しずつ後ずさりしていますね。
「フランが言ってた。隠し事はダメって。これ以上隠し事しちゃダメだと思う。あの話は二人の秘密って約束したから仕方ないけど……私はもう、二人に隠し事、したくない!」
サナの勢いにナオはたじたじですね。息を呑み、二の句が告げずにいます。
「ちゃんと、言おう? ナオは心配かけないようにって思うかもしれないけど……そんなの、もっと心配するに決まってる」
「うっ……そう、か。うん、そうだな……」
サナの言葉にようやくナオも納得したように頷きました。
「あの、さ……」
「なに」
「……近い、です……」
「っ!?」
それから、言いにくそうに頰を染めて言うナオの言葉に、サナはハッとなって一気に顔を赤くしました。
「変態ーっ!!」
「ばっ、なっ、お、お前が近付いてきたんだろー!?」
思い切り突き飛ばして変態呼ばわりするサナ。今回はナオに同情しますね。まぁ、このような感情に慣れていませんから、諦めてもらいましょう。ご愁傷様です。
「うにゃ。じゃあニャオはあんまり休めてないにゃ?」
「そうですか……顔も赤いですわ。熱でもあるのかしら?」
「いや、熱はない! 大丈夫だ!」
朝食のために食堂に集まった四人。朝早いためにまだ誰もいませんね。食堂も開いてはいませんが、前日にあらかじめ言っておいたおかげで、簡単に食べられるサンドウィッチが用意されており、それを食べながら早速サナが話を切り出して二人に明かしました。顔の赤さには触れないであげてくださいね。
「どういたしましょう。もう少し休みます?」
心配そうにフランチェスカが提案します。けれどナオは首を横に振ってそれを断りました。
「いや、予定通り行こう。たぶん……これはこの先ずっと続く。動きが活発になれば、もっと騒つく、そんな気がするんだ」
今少し休んだところで回復するものではないから、少しでも早く先に進もう、とナオは言います。それもそうですね。呪いを受けたわけでも状態異常でも、ましてや病気でもないのです。魔王を倒さない限り収まることのない症状なのでしょう。それなら、元を断たねばなりません。
「……わかりましたわ。でも、辛くなったら言ってください。休息を挟むこと自体は間違いではありませんもの」
「わかった。ありがとな……それと、心配させてごめん」
気にするにゃ! とエミルがナオの背を叩きます。そのせいでゴホゴホと噎せるナオ。力加減がエミルは苦手ですよね。
「コホッ、本当は黙ってるつもりだったんだ。でも、サナに隠し事はダメだって叱られてさ」
「当然ですわ! 仲間の体調も互いに知っておかないと戦闘時などは特に命に関わりますもの。サナ、グッジョブですわよ!」
「ん!」
フランチェスカとサナがガシッと握手を交わしました。エミルもー、と参戦していますね。
「良いですか? ナオに限らず、みんな少しでもおかしいと思ったら無理せずに言わなきゃダメですわ。迷惑だなんてこれっぽっちも思いません。助け合う、これが何より大切なんですのよ」
握手しながら真剣な眼差しで言うフランチェスカに、他の三人は神妙な面持ちで首を縦に振ります。
旅はいよいよ、ここからが本番なのですから。
朝の静けさが緊張感を高めています。ここも港町ですが、今は漁船も戻ってくる前ですのでちょうど人も少ないのですよね。近海での漁でしょうし、もうじき賑やかになってくるでしょう。
「ハーヴィスさんたち、うまくやってくださるといいのですけど……」
街を出る直前、フランチェスカが一度立ち止まり、後ろを振り返ってポツリと漏らしました。
「船も、無事に国に戻れるといいな」
それを聞いて、サナも不安そうに一言つぶやきました。そんな二人の肩を軽く叩き、ナオが明るく言い放ちます。
「信じようぜ。俺たちは俺たちのやるべき事をしなきゃな!」
「そうにゃ! それが平和への近道にゃんだからっ」
次いでエミルも明るく告げました。二人の明るさには助けられますね。フランチェスカとサナは顔を見合わせて微笑み合い、今度は前を向いて歩き出しました。
早朝ということもあり、山道ですれ違う者はいません。同じ方向に進む者もいませんが、山道入り口の小屋で、もっと早くにここを通るパーティーがいたと管理人から聞きました。やはり山越えをするなら早朝なのでしょう。
「休憩所には人も結構いそうだよな」
「冒険者ギルドの時みたいに、変に絡まれたら面倒にゃあ……」
人がいればいるほど、このパーティーにとっては厄介かもしれませんね。若い者ばかりですし、目立ちますし。誰のせいとは言いませんが。
「けれど、もし厳しい戦闘になった時の事を考えると、顔くらいは知っていた方が良いと思いますわ。協力できたらそれが一番ですもの」
戦闘はとにかく体力も魔力も精神力も消費しますからね。大人数で挑み、一人一人の力を分散できるのならお互いに利となります。
「うにゃあ、そうだけどっ、にゃっ!」
気が乗らない返事をしつつも、現れる小型の魔物を排除していくエミル。この程度なら会話しながらでも問題ないようです。つくづく、このメンバーは実力者揃いですよね。
「本当によく出てくるな、魔物。前を進んでたっていう人たちは大丈夫だったのか?」
確かに山道に入ってからというもの、やけに遭遇しますね。ゴロゴロと出てくるわけではありませんが、通常より多いことは確かです。入り口にいた小屋まで現れていたとしても不思議ではないですね。管理人は大丈夫でしょうか。
「国王からのお触れも届いたことですし、迅速に対策を打ってくださると良いのですけれど……それにしてもナオ」
「ん?」
憂いながらも呆れた眼差しをナオに向けるフランチェスカ。まぁ、言いたいことはわかります。
「魔力量が本当に……」
「バカみたいにゃね? 気にせず魔法が使えるのが羨ましいやら便利やら」
ナオは倒した魔物を埋めるのに一々魔法を使って土を掘り起こし、埋めていました。一体埋めるのにわずか数秒ほど。手作業ですとなかなかの労力とはいえ、普通は魔力もそれなりに使うのですけどね?
「だって時間が惜しいじゃん? 倒した魔物もこのままにしてたら余計に集まってくるし」
だというのに平気な顔でどんどん魔法を使うナオ。彼の保有魔力は測定不能だと聞いたことがありますが……ここへ来て、勇者のポテンシャルの高さを再認識させられました。





