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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第九魂 リカルド

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魔王の気配


 翌朝の事です。エミルに起こされる事なく無事に目覚めたサナは、エミルとともに食堂に向かいました。そこであとの二人と待ち合わせをしていますからね。きっと、ナオがまだ起きてないよね、などと話しながら向かっていると、すでにそこには二人が座って待っていました。


「ニャオが……起きてる……!?」


 エミルが驚愕しています。寝起きが悪いナオですからね、驚くのも無理はありません。


「……どうしたの? 何か、あった?」


 ところが、二人の様子が少し変でした。表情は固く、二人を見つけると何かを訴えるようにこちらを見つめてきました。エミルとサナは一度顔を見合わせ、二人の座るテーブルにつきます。


「夜中に、ナオが突然飛び起きましたの。悪い夢でもみたのかと思いましたわ。息が荒くて汗びっしょりでしたから……」


 そこから先はナオが話してください、とフランチェスカは言います。夢、ですか。勇者の見るものなら笑い事ではありませんね。


「夢、というか……なんだかものすごく悪い気配みたいなのを感じてさ。……間違いなく、魔王だ」


 最後の一言は声を潜めてナオが告げました。その単語を聞いた三人に緊張が走ります。


「ついに、活動をし始めたという事かもしれませんわ。あまりのんびりもしていられなくなりましたわね……」

「んにゃっ、気合いを入れ直すにゃ!」


 ブルブルッと身体を震わせてエミルが力強く告げます。サナはやはり不安そうにしていますが。


「出来れば今日中に山に向かいたいけど……ここで疲れを残すのも良くない。しっかりと念入りに準備して、明日の早朝に出発しようぜ」

「賛成ですわ。急いで準備を怠っては山越えさえできませんもの」


 一段と気合の入った四人は、そのまますぐに朝食を済ませ、予定通り買い出し組と調査組に別れて早速出かけて行きました。その表情は固く、彼らの緊張がこちらにも伝わってくるほどです。少し、肩の力を抜いた方が良い気がしますけれど……仕方のないことかもしれませんね。




「結論から言いますと、山を越えるだけならそこまで問題はありません。準備さえしっかりとしておけば子どもでも超えられます。ただ……」

「やっぱり、最近魔物が多いんだって、言ってたにゃ」


 調査組からの報告は予想通りといったものでした。できれば当たって欲しくはありませんでしたけどね。けれど、ナオが魔王を感知した以上、それは逃れられない事象です。


「だよな……だから回復系の薬をたくさん準備しようと思ったんだけどさ。みんなも同じこと考えるんだよなー」

「だから、店側も決められた数しか売らないみたい。ほとんど売り切れだったりもしたし」


 つまり、あまり十分な備えができない、という事ですね。これまで薬を使っていませんからまだ持っている方ではありますが。


「仕方がありませんわ。出来るだけ薬は節約いたしましょう。あとは食事も現地調達しながらになりますわね」

「エミル、狩りも釣りも得意にゃ!」

「あ、食べられる木の実やキノコならわかるよ」

「なんだ、心強いな! なんとかなるんじゃねぇの?」


 魔力回復薬は主にフランチェスカに使い、極力怪我をしないように、力を温存しながら進む、ということで方針が決まりました。


「サナの危険察知も頼りにしてるぞ」

「ん。何かあったらすぐに知らせる。小さなことでも」


 危険に遭遇しない、これも大切な事ですからね。とはいえ例外というのはいつでも起こりうるもの。その時のためにも普段は節約するというのは重要な事です。


「よし。じゃ今日は早くに寝て、明日は日が昇る前に出発しよう」

「にゃ! 今日はサニャがおにゃじ部屋にゃ!」

「わ、わかってるよぅ」


 四人は今日も温泉で温まってから、早めに寝支度を済ませます。サナは……やけに緊張していますね。お邪魔します、と言いながら部屋に入っていきました。トラウマは、大丈夫でしょうか。少し様子を見ましょう。


「……そう緊張されると、俺も緊張するんだけど」

「うっ、私だって、したくてしてるわけじゃないし!」


 落ち着けと思えば思うほど、サナの顔はみるみる真っ赤に染まっていきます。そんな様子を見て、ナオも緊張がうつったらしく、ほんのりと頰を染めつつ目線を逸らしています。


「シャワー上がりのお前なんて見慣れてるし」

「な、ナオが勝手に家に上がり込んでくるからでしょ変態勇者ーっ!」


 そういえば、ナオはよくサナの家に来ていましたよね。突如、旅に誘われたあの日もサナはシャワーを浴びて出てきた時でしたっけ。そこまで日数は過ぎていないのに、随分昔のことのように思えます。


「いやだって、なんかさ、サナの家って落ち着くんだよ」

「……落ち着く?」


 真っ赤になって膨れるサナに、ナオが弁明するように口を開きました。サナは疑り深い眼差しでナオを見、聞き返します。


「うん。なんか、自分の家にいるみたいな? 家の形とか内装とか、全然違うんだけどさ」


 うーんと腕を組んでナオは考え、それから閃いたように顔を上げました。


「きっと、サナと相性がいいんだよ! サナはなんか、家族みたいに親しみやすいんだ」

「家族……」


 太陽のような笑みを浮かべてそういうナオの言葉に、サナはなんとも言えない表情を浮かべていました。家族のように思ってくれる気持ちがもの凄く嬉しいのは確かです。けれど、どこか不満のようなものも同時に感じている気がします。


「あの街で初めて出会ったのに、変なこと言わないでっ」


 もう寝るよ! とサナは言い捨ててベッドに潜り込みました。変なことかなー? とナオは頭をかきつつ、自らもベッドに潜り込む気配を感じます。


 ああ、やっぱり。サナ、貴女は……


 ナオに、恋をしたのですね。


 本人さえ、まだ気付いてはいないようですが。私はそれを、止める事も出来ませんけれど……どうか、それがサナを絶望へと導かないことを祈るばかりです。恋とは、簡単に人に幸せを与え、同時に苦しみも与えますから。


「でも、その……ありがと」

「! ああ。おやすみサナ。明日から頑張ろうな」


 好意を向けられることそのものは、サナに幸福感を与えました。きっとそれに対するお礼なのでしょう。ナオの返事を聞き終えたサナは、ギュッと目を瞑り、布団に潜り込みました。


 やれやれ、心配事が増えてしまいましたね。サナも年頃ですし、いつかはこうなる気はしていましたが。ますます、ナオに注意を向ける必要が出てきました。トラウマがサナに影響を与えなかっただけで良しとしましょう。

 動きを見せ始めた魔王、サナに芽生えた恋心。時折、不安定な動きをする渦。


 焦ってはいけませんね。一つ一つ、きちんと向き合って対処していきましょう。どれも今すぐどうこうできる問題ではありませんしね。

 まずは、山越えです。サナの体力の心配をしましょうか。やはり、彼の出番ですかね。

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